だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
198.ある共犯者の懐古
「カイル王子、治癒を初めてもいいですか?」
「あぁはい。じゃあつまり、兄は治せるんですね?」
「えぇ、ワタシの治癒魔法で完治させられます」
「なら……どうか、兄をよろしくお願いします」
エフーイリルの言葉に母さんや侍女達がわぁっ、と沸き立つ。そんな盛り上がりの中で、早速エフーイリルは治癒魔法を発動し、兄貴の体が金色の光に包まれた。離れていても分かる、暖かくて眩い光。それをぼーっと眺める。
……俺にも、光の魔力があればな。そう思う事がこれまでの十年程で一体何度あった事か。
───九年前。ある冬の日だった。
「……──俺、って……誰なんだ?」
目が覚めたら、俺は自分が誰だか分からなくなっていた。いわゆる記憶喪失というものなのかとも考えたが、その割にはあまりにも意識がはっきりしているし、言葉もはっきり喋る事が出来ている。
それに何より、記憶は確かにあった。ただ俺自身に関する記憶だけがゴッソリと喪われていて、明らかに不自然な空白があるような状態だった。
だけど、これだけは確信出来た。これは……この体は──俺のものではないと。
その証拠かこの体には身に覚えの無い記憶があった。それを混乱し動転していた状態で強制的に見せられ、俺は吐きそうになりながら理解した。
「クッソ、嘘だろ……俺、カイルになったってのか……!?」
記憶と鏡を見て戦慄した。だってこの顔は、どハマりしていた乙女ゲームの攻略対象の幼少期と全く同じで。
そう理解してからは早かった。前世……『俺』は相当なオタクだったのだろう。この手の展開にも慣れ、というか覚えがあった。主なジャンルは漫画やゲーム原作の舞台やミュージカルだったが、アニメや漫画やラノベやゲームと幅広く手を出していたようだ。
どうやら次元を問わずイケメンが好きだったらしい。イケメンの中でも、男らしくてかっこいい奴ばかり好きになっていた。憧れていた。
これは重要な事だが、俺はただ顔のいい人間が好きだっただけで、恐らくゲイとかではなかった筈だ。記憶があまり無いので断言は出来ないが、普通に恋愛対象は女……だった筈だ。ただ、女の事を考えると妙に胸騒ぎがするというか、理由の無い苛立ちが湧いてくる事から、あまり女関連のいい経験が無かったものと考えられる。
話を戻そう。この世界──……『アンディザ』とも舞台で出会ったようなものだったと記憶している。
イチ推しの俳優が乙女ゲーム原作の舞台に出ると聞いて、俺は当然全通する事にした。そこで原作を履修しようと色々調べて、その時点ではゲーム無印と連載途中のコミカライズしか無く、とりあえずその二つをネットでポチって仕事終わりにやり込んで読み込んだと思う。
…………うん? 仕事終わりって事は、俺社会人だったのか。
女性向けのソーシャルゲームはいくつかやっていたものの、乙女ゲームと呼ばれるものにはまだ触れた事のなかった俺は、探り探りでプレイしていた。
俺の推し俳優が演じると告知されていた『マクベスタ』というキャラにとりあえず会いたかったのだが、『マクベスタ』は五つの個別ルート全てをやっても、メインキャラ達と比べるとセリフが少なく、いわゆるサブキャラなのだと気づいた時。俺はガッカリしていた。
推し俳優が演《や》ると言うだけで既に俺の中では好感度が上乗せされた状態でゲームは始まったのだが、ゲームで何度か出てきた『敵国の鬼強い騎士のマクベスタ』の設定や喋り方やら見た目が俺の好みにジャストミートした。
勿論攻略対象達も好きなんだが、俺的にはやはりマクベスタが最推しだったのだ。深夜に『何でお前は攻略対象じゃねぇんだよーーーーッ!!』って叫んだ気がする。
舞台での演目はカイルのルートで、マクベスタは一瞬しか出て来なかったが……原作をやっていたからか満足度は高かった。
『アンディザ』は乙女ゲーム界隈では中々の人気作だったようで、舞台の最終公演があった二ヶ月後とかにはなんと続編の制作&発売が発表された。しかも、しかもだ。続編では一作目でも人気だったサブキャラの二人が攻略対象に昇格していた。
マクベスタも攻略出来ると知った俺は飛び跳ねて喜んでいた気がする。
そして待ちに待った二作目発売日。マクベスタが大きく描かれた素晴らしい特典目当てで俺は色んな予約サイトで複数買いし、ゲームに挑んだ。
一作目よりも更に話が難しくややこしくなっていたが、その分面白さも増していて、俺はマクベスタのルートで感動していた。気分はさながら我が子の成長を見守る親だった。
数日間休みを取って徹夜でやっていたから、すぐに完全クリアしてしまった。しかしその後も定期的にマクベスタのルートを周回するようになる。
色んな予約サイトの特典が気になって、必死に譲渡や買取を探したり、ある時には自らマクミシェ(※マクベスタ×ミシェルのカップリングの事)の二次創作というものに挑戦した事すらあったと思う。
その一年半後とかになんと三作目の制作発表まで出て……その学パロ的設定を見て『ッシャァアアアアアアイッッッ!!』と某ミュージシャンばりのガッツポーズを作ったなぁ。
それだけ、俺はマクベスタに惚れ込んでいた。この世界が大好きだった。
「…………だからってさ。メイン枠の攻略対象《イケメン》になるのは違うだろぉぉぉ……!」
小さな体で頭を抱える。どうせならマクベスタの関係者になりたかった。推しに出会える立場の人間がよかった。
何でよりにもよってカイルなんだよ。めちゃくちゃマクベスタに会うの難しいじゃねぇか。
「あぁはい。じゃあつまり、兄は治せるんですね?」
「えぇ、ワタシの治癒魔法で完治させられます」
「なら……どうか、兄をよろしくお願いします」
エフーイリルの言葉に母さんや侍女達がわぁっ、と沸き立つ。そんな盛り上がりの中で、早速エフーイリルは治癒魔法を発動し、兄貴の体が金色の光に包まれた。離れていても分かる、暖かくて眩い光。それをぼーっと眺める。
……俺にも、光の魔力があればな。そう思う事がこれまでの十年程で一体何度あった事か。
───九年前。ある冬の日だった。
「……──俺、って……誰なんだ?」
目が覚めたら、俺は自分が誰だか分からなくなっていた。いわゆる記憶喪失というものなのかとも考えたが、その割にはあまりにも意識がはっきりしているし、言葉もはっきり喋る事が出来ている。
それに何より、記憶は確かにあった。ただ俺自身に関する記憶だけがゴッソリと喪われていて、明らかに不自然な空白があるような状態だった。
だけど、これだけは確信出来た。これは……この体は──俺のものではないと。
その証拠かこの体には身に覚えの無い記憶があった。それを混乱し動転していた状態で強制的に見せられ、俺は吐きそうになりながら理解した。
「クッソ、嘘だろ……俺、カイルになったってのか……!?」
記憶と鏡を見て戦慄した。だってこの顔は、どハマりしていた乙女ゲームの攻略対象の幼少期と全く同じで。
そう理解してからは早かった。前世……『俺』は相当なオタクだったのだろう。この手の展開にも慣れ、というか覚えがあった。主なジャンルは漫画やゲーム原作の舞台やミュージカルだったが、アニメや漫画やラノベやゲームと幅広く手を出していたようだ。
どうやら次元を問わずイケメンが好きだったらしい。イケメンの中でも、男らしくてかっこいい奴ばかり好きになっていた。憧れていた。
これは重要な事だが、俺はただ顔のいい人間が好きだっただけで、恐らくゲイとかではなかった筈だ。記憶があまり無いので断言は出来ないが、普通に恋愛対象は女……だった筈だ。ただ、女の事を考えると妙に胸騒ぎがするというか、理由の無い苛立ちが湧いてくる事から、あまり女関連のいい経験が無かったものと考えられる。
話を戻そう。この世界──……『アンディザ』とも舞台で出会ったようなものだったと記憶している。
イチ推しの俳優が乙女ゲーム原作の舞台に出ると聞いて、俺は当然全通する事にした。そこで原作を履修しようと色々調べて、その時点ではゲーム無印と連載途中のコミカライズしか無く、とりあえずその二つをネットでポチって仕事終わりにやり込んで読み込んだと思う。
…………うん? 仕事終わりって事は、俺社会人だったのか。
女性向けのソーシャルゲームはいくつかやっていたものの、乙女ゲームと呼ばれるものにはまだ触れた事のなかった俺は、探り探りでプレイしていた。
俺の推し俳優が演じると告知されていた『マクベスタ』というキャラにとりあえず会いたかったのだが、『マクベスタ』は五つの個別ルート全てをやっても、メインキャラ達と比べるとセリフが少なく、いわゆるサブキャラなのだと気づいた時。俺はガッカリしていた。
推し俳優が演《や》ると言うだけで既に俺の中では好感度が上乗せされた状態でゲームは始まったのだが、ゲームで何度か出てきた『敵国の鬼強い騎士のマクベスタ』の設定や喋り方やら見た目が俺の好みにジャストミートした。
勿論攻略対象達も好きなんだが、俺的にはやはりマクベスタが最推しだったのだ。深夜に『何でお前は攻略対象じゃねぇんだよーーーーッ!!』って叫んだ気がする。
舞台での演目はカイルのルートで、マクベスタは一瞬しか出て来なかったが……原作をやっていたからか満足度は高かった。
『アンディザ』は乙女ゲーム界隈では中々の人気作だったようで、舞台の最終公演があった二ヶ月後とかにはなんと続編の制作&発売が発表された。しかも、しかもだ。続編では一作目でも人気だったサブキャラの二人が攻略対象に昇格していた。
マクベスタも攻略出来ると知った俺は飛び跳ねて喜んでいた気がする。
そして待ちに待った二作目発売日。マクベスタが大きく描かれた素晴らしい特典目当てで俺は色んな予約サイトで複数買いし、ゲームに挑んだ。
一作目よりも更に話が難しくややこしくなっていたが、その分面白さも増していて、俺はマクベスタのルートで感動していた。気分はさながら我が子の成長を見守る親だった。
数日間休みを取って徹夜でやっていたから、すぐに完全クリアしてしまった。しかしその後も定期的にマクベスタのルートを周回するようになる。
色んな予約サイトの特典が気になって、必死に譲渡や買取を探したり、ある時には自らマクミシェ(※マクベスタ×ミシェルのカップリングの事)の二次創作というものに挑戦した事すらあったと思う。
その一年半後とかになんと三作目の制作発表まで出て……その学パロ的設定を見て『ッシャァアアアアアアイッッッ!!』と某ミュージシャンばりのガッツポーズを作ったなぁ。
それだけ、俺はマクベスタに惚れ込んでいた。この世界が大好きだった。
「…………だからってさ。メイン枠の攻略対象《イケメン》になるのは違うだろぉぉぉ……!」
小さな体で頭を抱える。どうせならマクベスタの関係者になりたかった。推しに出会える立場の人間がよかった。
何でよりにもよってカイルなんだよ。めちゃくちゃマクベスタに会うの難しいじゃねぇか。