だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ごめんカイル、待った?」
「おう。十分ぐらい待ったぜ」
「いやそこは嘘でも『待ってないよ、今来たところ』って言いなさいよ」
「何でだよ、俺マジで待ってたんだもん」
駆け寄って声をかけると、カイルがテンプレを回避してこちらを向いた。こいつ、本当にこういう所あるわよね……。
ジトーっと暫しカイルを見ながらも、私は鞄からとある小瓶を取り出して「はい、これ飲んで」とカイルに手渡した。当然カイルは眉を顰めて、
「何これ」
と小瓶に視線を落とす。
「変色魔法薬よ。それを飲んだらイメージ通りの髪色に変わるの」
「あー、成程。正体隠す為か……でもお前はともかく俺はいらなくね?」
「念の為よ、念の為」
見本がてらまずは私がこの薬を飲んでみせる事にした。蓋を開け、変えたい色を想像しながらそれを飲む。すると瞬く間に頭頂部から髪色が変色してゆく。
私が想像した色は明るい紫。せっかくだから桃色でも金色でもない色を試してみたかったのだ。
この様子を見たカイルは「ぉおおおおっ!」と目を輝かせて、後に続くかのようにぐいっと薬を一気に飲んだ。無事に薬の効果は出たようで、カイルは眩しい金髪になった。
「へぇ……マジで変わったじゃん。つまりはアッチも……」
興奮気味に髪の毛を触っていたかと思えば、突然こちらに背を向けて、ゴソゴソと何かしながら俯いていた。何やってるのかしら? と思いつつもその背中に向けて私は説明する。
「この魔法薬の効果は一本につき一週間程。ただ、解除薬を飲めば好きなタイミングで効果を打ち消せるらしいわ。その解除薬も一応渡しておくから、必要があれば使って」
先程の魔法薬は無色だったが、この解除薬は少し赤みがかっている。入れ物の小瓶は同じだが中身の色合いが微妙に違うので分かりやすい。
それをカイルに向けて差し出すと、カイルはやけに真剣な表情で受け取った。
「……あんた、さっきから本当にどうしたの?」
「いや……何というか、ファンタジー世界ってやっぱり凄いなと」
「は??」
会話が成り立たない。本当にどうしたんだこの男。
「それはともかくさ、お前よくこんな便利アイテム持ってたな」
「これはケイリオル卿から譲って貰ったのよ」
「ケイリオル……って皇帝の側近?」
「そうよ」
「うはぁ……すげぇなお前、色んな意味で」
ゲームの事を言ってるのかしら。でも実際のケイリオルさんって結構いい人だし、本当に昔からずっとお世話になってるんだよね。
何を隠そう、この魔法薬もケイリオルさんから譲って貰った物なのである。アルベルトからの報告があがった二日後、私はケイリオルさんにこっそり相談していた。
『ケイリオル卿、別の姿に変身出来る魔導具とか……ってあったりしませんかね?』
『…………別の姿、ですか。そうですねぇ……そのような魔導具の心当たりはありませんが、髪の色を変える魔法薬なら心当たりがありますよ』
いつもよりも少し重たい声音で、ケイリオルさんはあの二つの小瓶を見せてくれた。
『こちらの魔法薬を服薬すれば最長一週間、髪の色を変えられます。薬の効果の解除はこちらの解除薬で。……しかし、何故このようなものをお求めに?』
『万が一の事態に備え、こういうものを持っておくに越した事はないかと思って。備えあれば憂いなし、です』
『成程。では、幾つ必要か教えて下さい。予備が幾らかありますので、お譲りしますよ』
顔につけた布を揺らし、ケイリオルさんはありがたい提案をする。しかし、ケイリオルさんの私物っぽいものをタダで貰う訳にはいかない。
『ですが、それだとケイリオル卿の分が……』
『大丈夫ですよ。これの製作者とは親しいですし、恐らく私経由でなければこの魔法薬は手に入りませんので、どちらにせよ同じ事です』
『しかし……魔法薬というだけで相当高価なのでは?』
そう。この魔法薬というものは作り手が少ない為かかなり珍しく、それだけで高価になる。だからこそ無償で譲って貰う事に抵抗があるのだ。
『うーむ……ではこうしましょう。いつか、何か一つ私のお願いを聞いて下さい。それを対価とさせて下さいませんか?』
『お願い、ですか?』
ピンッと人差し指を立ててケイリオルさんが交渉してくる。
『はい。無論、貴女の命や尊厳に関わるようなお願いはしません。恐らく……とても変なお願いになるかと思います』
『は、はぁ』
『交渉成立という事でよろしいでしょうか?』
『あっ、はい。よろしくお願いします……?』
本当にそれでいいのかと思いつつも、ケイリオルさんから魔法薬と解除薬をそれぞれ六つずつもいただいてしまった。まぁ、ケイリオルさんに限ってヤバいお願いなんてしないとは思うから、別にいいんだけどね。
そんな感じでいただいた魔法薬を早速使用し、私達は見た目を変えて出発する。
「よし、いくぜぇサベイランスちゃん」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。魔導変換開始。事前指定、目次参照完了。転移術式構成、完了。転移対象、指定完了。座標指定、座標固定、完了。目的地、港町ルーシェ──転移術式発動》
無機質な機械音声に従い私達の足元に白い魔法陣が描かれ、そして光り輝く。その光に飲まれ、瞳をぎゅっと閉じた。すると次の瞬間、明らかに帝都とは違った風が私達を包み込んだ。
「おう。十分ぐらい待ったぜ」
「いやそこは嘘でも『待ってないよ、今来たところ』って言いなさいよ」
「何でだよ、俺マジで待ってたんだもん」
駆け寄って声をかけると、カイルがテンプレを回避してこちらを向いた。こいつ、本当にこういう所あるわよね……。
ジトーっと暫しカイルを見ながらも、私は鞄からとある小瓶を取り出して「はい、これ飲んで」とカイルに手渡した。当然カイルは眉を顰めて、
「何これ」
と小瓶に視線を落とす。
「変色魔法薬よ。それを飲んだらイメージ通りの髪色に変わるの」
「あー、成程。正体隠す為か……でもお前はともかく俺はいらなくね?」
「念の為よ、念の為」
見本がてらまずは私がこの薬を飲んでみせる事にした。蓋を開け、変えたい色を想像しながらそれを飲む。すると瞬く間に頭頂部から髪色が変色してゆく。
私が想像した色は明るい紫。せっかくだから桃色でも金色でもない色を試してみたかったのだ。
この様子を見たカイルは「ぉおおおおっ!」と目を輝かせて、後に続くかのようにぐいっと薬を一気に飲んだ。無事に薬の効果は出たようで、カイルは眩しい金髪になった。
「へぇ……マジで変わったじゃん。つまりはアッチも……」
興奮気味に髪の毛を触っていたかと思えば、突然こちらに背を向けて、ゴソゴソと何かしながら俯いていた。何やってるのかしら? と思いつつもその背中に向けて私は説明する。
「この魔法薬の効果は一本につき一週間程。ただ、解除薬を飲めば好きなタイミングで効果を打ち消せるらしいわ。その解除薬も一応渡しておくから、必要があれば使って」
先程の魔法薬は無色だったが、この解除薬は少し赤みがかっている。入れ物の小瓶は同じだが中身の色合いが微妙に違うので分かりやすい。
それをカイルに向けて差し出すと、カイルはやけに真剣な表情で受け取った。
「……あんた、さっきから本当にどうしたの?」
「いや……何というか、ファンタジー世界ってやっぱり凄いなと」
「は??」
会話が成り立たない。本当にどうしたんだこの男。
「それはともかくさ、お前よくこんな便利アイテム持ってたな」
「これはケイリオル卿から譲って貰ったのよ」
「ケイリオル……って皇帝の側近?」
「そうよ」
「うはぁ……すげぇなお前、色んな意味で」
ゲームの事を言ってるのかしら。でも実際のケイリオルさんって結構いい人だし、本当に昔からずっとお世話になってるんだよね。
何を隠そう、この魔法薬もケイリオルさんから譲って貰った物なのである。アルベルトからの報告があがった二日後、私はケイリオルさんにこっそり相談していた。
『ケイリオル卿、別の姿に変身出来る魔導具とか……ってあったりしませんかね?』
『…………別の姿、ですか。そうですねぇ……そのような魔導具の心当たりはありませんが、髪の色を変える魔法薬なら心当たりがありますよ』
いつもよりも少し重たい声音で、ケイリオルさんはあの二つの小瓶を見せてくれた。
『こちらの魔法薬を服薬すれば最長一週間、髪の色を変えられます。薬の効果の解除はこちらの解除薬で。……しかし、何故このようなものをお求めに?』
『万が一の事態に備え、こういうものを持っておくに越した事はないかと思って。備えあれば憂いなし、です』
『成程。では、幾つ必要か教えて下さい。予備が幾らかありますので、お譲りしますよ』
顔につけた布を揺らし、ケイリオルさんはありがたい提案をする。しかし、ケイリオルさんの私物っぽいものをタダで貰う訳にはいかない。
『ですが、それだとケイリオル卿の分が……』
『大丈夫ですよ。これの製作者とは親しいですし、恐らく私経由でなければこの魔法薬は手に入りませんので、どちらにせよ同じ事です』
『しかし……魔法薬というだけで相当高価なのでは?』
そう。この魔法薬というものは作り手が少ない為かかなり珍しく、それだけで高価になる。だからこそ無償で譲って貰う事に抵抗があるのだ。
『うーむ……ではこうしましょう。いつか、何か一つ私のお願いを聞いて下さい。それを対価とさせて下さいませんか?』
『お願い、ですか?』
ピンッと人差し指を立ててケイリオルさんが交渉してくる。
『はい。無論、貴女の命や尊厳に関わるようなお願いはしません。恐らく……とても変なお願いになるかと思います』
『は、はぁ』
『交渉成立という事でよろしいでしょうか?』
『あっ、はい。よろしくお願いします……?』
本当にそれでいいのかと思いつつも、ケイリオルさんから魔法薬と解除薬をそれぞれ六つずつもいただいてしまった。まぁ、ケイリオルさんに限ってヤバいお願いなんてしないとは思うから、別にいいんだけどね。
そんな感じでいただいた魔法薬を早速使用し、私達は見た目を変えて出発する。
「よし、いくぜぇサベイランスちゃん」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。魔導変換開始。事前指定、目次参照完了。転移術式構成、完了。転移対象、指定完了。座標指定、座標固定、完了。目的地、港町ルーシェ──転移術式発動》
無機質な機械音声に従い私達の足元に白い魔法陣が描かれ、そして光り輝く。その光に飲まれ、瞳をぎゅっと閉じた。すると次の瞬間、明らかに帝都とは違った風が私達を包み込んだ。