だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「やけに落ち着いてるし、てっきり同年代とばかり……」
「そういう貴方は何歳だったのよ」
「何歳かは分からんが、一応元社会人だぜ。多分」
「えっ」
嘘でしょ、カイルが社会人……?! こんな性格で社会でやっていけてたの、この人!?!?
「お前今絶対失礼な事考えてただろ」
「気の所為よ」
「本当かァ〜?」
勘のいい奴め。と小さく舌打ちする。
するとこの目敏いチートオブチート野郎は、「あっ、お前今舌打ちしたろ! はいライン越え〜〜!」と騒ぎ始めた。
……本当に、何でこの人社会人やれてたのかしら。精神年齢小学生並よ?
一種の憐れみすら覚えて来た頃、ようやく料理が運ばれて来た。湯気と香り立つ肉汁たっぷりの肉料理達。お互いいいものを頼んだな、とじーっと相手の料理を見つめた後、ふとカイルと目が合った。そこで私達は無言で頷き合い、
「一口ずつ交換しようぜ」
「ふっ……交渉成立、ね」
チキンとステーキを一口大に切って、お互いの皿に乗せた。素晴らしい交渉結果ね、これは。どちらも味わえるなんて本当に素晴らしい事だ。
そう思いつつ先にカイルから貰ったステーキを食べる。
一口噛むだけで口の中いっぱいに広がる熱い肉汁。舌の上で蕩けてしまうかのような柔らかさで、香辛料の類を使っているのか、とても香ばしい香りが鼻を抜ける。その後、自分で頼んだ料理の方も食べて私達は夢心地であった。
それぞれ実家でこういうものを食べる事がざらにあるものの、こうして地方の味というものを味わえる機会はそうそう無い。帝都ではあまり味わえない味付けに私は感動していた。
ほっぺたが蕩け落ちそうな美食に舌鼓を打ち、私達は早めの昼食を終えて宿屋探しを始めた。もっとも、泊まる為というよりかは荷物を置く為であり、スコーピオンとの交渉にあたっての拠点にする為である。
良さげな宿屋を見つけ、小部屋を一つずつ取る。そこで荷物を降ろし、早速ではあるが私達は準備に移った。
準備とは、ずばり化粧などの事である。何せカジノはドレスコードがある。ただドレスを買っただけでは駄目なのだ。こんな事もあろうかと前もって化粧品はいくらか持ってきておいたので、私はそれを使って化粧してゆく。
数日前に、こんな事もあろうかと侍女達が私に化粧をする様子をしっかり観察していたので化粧はバッチリだ。……あれ? おかしいな、確かに侍女はここでこれをこう……あれぇ? 何か上手くいかないんですけど。どういう事ですかね??
記憶通りにやった筈なのに上手くいかない事がストレスに感じる。それでもめげずに頑張って挑戦して、ようやく化粧が終わった。私、自分で化粧する才能が無かったのかもしれない……。
そして最後の仕上げとばかりに髪の毛をいい感じにしようと思った所で、自身の準備を終えたカイルが部屋を訪ねて来た。
魔法薬で金色に変わった髪はオールバックに整えられていて、マクベスタを意識してるんだろうなぁ……とよく分かる。一貫してるわね、このオタク。
「今から髪いじるのか?」
「うん、そのつもりよ」
「俺がやってもいい?」
「え、貴方が?」
「おう。俺が」
出来るの? と怪訝な目を向ける。カイルは大きく胸を張って、
「大船に乗ったつもりで任せてくれたまえ。前からお前にして欲しかった髪型があるんだよ」
トンッ、と自信満々に胸を叩いた。
そこまで言うのなら……と一旦彼に任せてみる事にした。鏡の前に置いた椅子に座り、いつか聞いた曲を鼻で歌いながら私の髪をいじるカイルを鏡越しに眺める。
相変わらず手先が器用なようで、カイルは軽く三つ編みを作り、後頭部に作ったお団子をその三つ編みで囲ってヘアピンを挿して固定したようだ。
いつかのどこかで見た騎士の王様の如き髪型。オタク心がとても疼く髪型だ。
「おぉ〜、本当に出来てる! しかもクオリティ高い!」
「流石は同士、やっぱり分かるか。本当なら銀髪でやって欲しかったんだがなぁ……また今度、銀髪の時にもやらせてくれ」
「別にいいわよ。その時は青か黒のリボンも用意しておくわ。髪整えてくれてありがとう、カイル」
ハンドバッグを手に立ち上がり、カイルに感謝を告げる。バッグの中身はカジノで使う予定のお金と会員証と予備の魔法薬のみ。あまり多くの物は持ち運ばない事にした。もしもの時は白夜を喚べば戦えるので、荷物はこれだけである。
カイルはその腰にサベイランスちゃんが入っている鞄を提げているだけだった。一番の武器であるサベイランスちゃんがあれば、彼は十分らしい。
そんな装備で私達は宿を出て、アルベルトからの報告にあった場所に向かう。
港町の一角にて、圧倒的な大きさと煌びやかさを誇る建物──カジノ・スコーピオン。昼の十二時から夜の十二時までの十二時間、天国にも地獄にもなる娯楽場。
時刻は丁度十二時を過ぎたところ。開場したばかりでありながらも、既に多くの人達がそのカジノに入ってゆく。
「さて……いざ尋常にギャンブルと行こうじゃねぇか!」
「えぇ。大勝利収めてVIPルームまで上り詰めてやるわよ!」
カジノの前に立ち、大きなその建物を見上げて己に発破をかける。
スコーピオンとの交渉の為──スコーピオンの幹部に接触する為に、私達はついにカジノに足を踏み入れた。
「そういう貴方は何歳だったのよ」
「何歳かは分からんが、一応元社会人だぜ。多分」
「えっ」
嘘でしょ、カイルが社会人……?! こんな性格で社会でやっていけてたの、この人!?!?
「お前今絶対失礼な事考えてただろ」
「気の所為よ」
「本当かァ〜?」
勘のいい奴め。と小さく舌打ちする。
するとこの目敏いチートオブチート野郎は、「あっ、お前今舌打ちしたろ! はいライン越え〜〜!」と騒ぎ始めた。
……本当に、何でこの人社会人やれてたのかしら。精神年齢小学生並よ?
一種の憐れみすら覚えて来た頃、ようやく料理が運ばれて来た。湯気と香り立つ肉汁たっぷりの肉料理達。お互いいいものを頼んだな、とじーっと相手の料理を見つめた後、ふとカイルと目が合った。そこで私達は無言で頷き合い、
「一口ずつ交換しようぜ」
「ふっ……交渉成立、ね」
チキンとステーキを一口大に切って、お互いの皿に乗せた。素晴らしい交渉結果ね、これは。どちらも味わえるなんて本当に素晴らしい事だ。
そう思いつつ先にカイルから貰ったステーキを食べる。
一口噛むだけで口の中いっぱいに広がる熱い肉汁。舌の上で蕩けてしまうかのような柔らかさで、香辛料の類を使っているのか、とても香ばしい香りが鼻を抜ける。その後、自分で頼んだ料理の方も食べて私達は夢心地であった。
それぞれ実家でこういうものを食べる事がざらにあるものの、こうして地方の味というものを味わえる機会はそうそう無い。帝都ではあまり味わえない味付けに私は感動していた。
ほっぺたが蕩け落ちそうな美食に舌鼓を打ち、私達は早めの昼食を終えて宿屋探しを始めた。もっとも、泊まる為というよりかは荷物を置く為であり、スコーピオンとの交渉にあたっての拠点にする為である。
良さげな宿屋を見つけ、小部屋を一つずつ取る。そこで荷物を降ろし、早速ではあるが私達は準備に移った。
準備とは、ずばり化粧などの事である。何せカジノはドレスコードがある。ただドレスを買っただけでは駄目なのだ。こんな事もあろうかと前もって化粧品はいくらか持ってきておいたので、私はそれを使って化粧してゆく。
数日前に、こんな事もあろうかと侍女達が私に化粧をする様子をしっかり観察していたので化粧はバッチリだ。……あれ? おかしいな、確かに侍女はここでこれをこう……あれぇ? 何か上手くいかないんですけど。どういう事ですかね??
記憶通りにやった筈なのに上手くいかない事がストレスに感じる。それでもめげずに頑張って挑戦して、ようやく化粧が終わった。私、自分で化粧する才能が無かったのかもしれない……。
そして最後の仕上げとばかりに髪の毛をいい感じにしようと思った所で、自身の準備を終えたカイルが部屋を訪ねて来た。
魔法薬で金色に変わった髪はオールバックに整えられていて、マクベスタを意識してるんだろうなぁ……とよく分かる。一貫してるわね、このオタク。
「今から髪いじるのか?」
「うん、そのつもりよ」
「俺がやってもいい?」
「え、貴方が?」
「おう。俺が」
出来るの? と怪訝な目を向ける。カイルは大きく胸を張って、
「大船に乗ったつもりで任せてくれたまえ。前からお前にして欲しかった髪型があるんだよ」
トンッ、と自信満々に胸を叩いた。
そこまで言うのなら……と一旦彼に任せてみる事にした。鏡の前に置いた椅子に座り、いつか聞いた曲を鼻で歌いながら私の髪をいじるカイルを鏡越しに眺める。
相変わらず手先が器用なようで、カイルは軽く三つ編みを作り、後頭部に作ったお団子をその三つ編みで囲ってヘアピンを挿して固定したようだ。
いつかのどこかで見た騎士の王様の如き髪型。オタク心がとても疼く髪型だ。
「おぉ〜、本当に出来てる! しかもクオリティ高い!」
「流石は同士、やっぱり分かるか。本当なら銀髪でやって欲しかったんだがなぁ……また今度、銀髪の時にもやらせてくれ」
「別にいいわよ。その時は青か黒のリボンも用意しておくわ。髪整えてくれてありがとう、カイル」
ハンドバッグを手に立ち上がり、カイルに感謝を告げる。バッグの中身はカジノで使う予定のお金と会員証と予備の魔法薬のみ。あまり多くの物は持ち運ばない事にした。もしもの時は白夜を喚べば戦えるので、荷物はこれだけである。
カイルはその腰にサベイランスちゃんが入っている鞄を提げているだけだった。一番の武器であるサベイランスちゃんがあれば、彼は十分らしい。
そんな装備で私達は宿を出て、アルベルトからの報告にあった場所に向かう。
港町の一角にて、圧倒的な大きさと煌びやかさを誇る建物──カジノ・スコーピオン。昼の十二時から夜の十二時までの十二時間、天国にも地獄にもなる娯楽場。
時刻は丁度十二時を過ぎたところ。開場したばかりでありながらも、既に多くの人達がそのカジノに入ってゆく。
「さて……いざ尋常にギャンブルと行こうじゃねぇか!」
「えぇ。大勝利収めてVIPルームまで上り詰めてやるわよ!」
カジノの前に立ち、大きなその建物を見上げて己に発破をかける。
スコーピオンとの交渉の為──スコーピオンの幹部に接触する為に、私達はついにカジノに足を踏み入れた。