だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「東宮にいないからどこにいるのかと思い、捜していたが……皆してこんな所で何をしているんだ?」

 オセロマイト王国からの正式な使節として、両国の親交の橋渡しにと王城に滞在するマクベスタが、その王城から東宮までやって来た。使節らしい礼服に身を包み、愛剣を腰に帯びて混沌とした場に接近する。
 ここはカイルとアミレスが待ち合わせに用いた木陰。この面子がこんな所に集まる理由というものが、マクベスタにはてんで分からないようだ。

「それに、アミレスもいない。一体どうしたんだ?」

 キョロキョロと辺りを見渡して、マクベスタは首を傾げる。

「…………心して聞けよ、マクベスタ」
(心して聞け、なんて。一体何が……?!)

 エンヴィーがあまりにも重苦しく口を切った為、マクベスタは固唾を飲み話を聞く姿勢に移った。

「姫さんが、カイルとデートするとか言ってどこかに消えた」

 頬に青筋を浮かべ、地獄より這い出た魔物かのような低い声でエンヴィーは告げる。
 ピタッと停止したマクベスタの体。その顔からは表情が消え、唯一、丸くなった瞳だけが彼の心情を表しているかのようだった。

「──え?」

 時間差だった。暫しの間現実を受け入れる事が出来なかったマクベスタは、通常よりも多くの時間をかけて、ゆっくりとエンヴィーの言葉を咀嚼して飲み込んだのだ。

(アミレスとカイルがデート? 何故? デート……でーと、でえと? デートって、何だっけ…………)

 やがてマクベスタの顔が徐々に青く染まりゆき、全身が小刻みに震え始める。その脳内はゲシュタルト崩壊していた。
 アミレスに告白しないとは決めているものの、マクベスタのアミレスへの想いは日々募り膨らむばかり。ショックはそれなりに受けてしまうのだ。

「あ、あああ、アミレスは、カイルと……恋人……だったのか……?」

 今にも泣き出しそうな顔でマクベスタが呟くと、

「「だからちげーーーよ!!!!」」

 またもやシュヴァルツとエンヴィーが強く反論する。
 二人の勢いにこれまた圧倒されつつも、マクベスタは食い気味に否定された事で、僅かながらも胸を撫で下ろしていた。

「そ、そうか……だが、デートとは、恋人がするものなんじゃ……」
「この流れさっきやったっつーの! おねぇちゃんとカイルが恋人とか絶ッ対に認めないからな、ぼくは!!」

 純粋な青少年たるマクベスタは、デートという行為が恋人同士でのみ発生するものだと認識していた。それ故に浮かび上がった疑問が、先程のナトラのものと全く変わらないものだったのだ。
 天丼のごとき展開を、シュヴァルツが一刀両断する。別にアミレスが誰と恋仲になろうとも、シュヴァルツに許可を貰い認めて貰う必要は微塵も無いのだが。

 こうして彼等は、混沌の中でカイルへの殺意を募らせてゆく事になる。
 遂には、どうにかして二人の行先を突き止めようと彼等は一致団結した。それぞれの仕事などそっちのけで、行先を突き止める為の調査などに躍り出る。が、その結果は惨敗。
 カイルの才能──……サベイランスちゃんの性能を彼等は実感する事となったのだ。

 その為。果たしていつになるかは分からないが……アミレスとカイルが東宮に戻って来た時、二人が彼等から強く問い詰められ、カイルが袋叩きに遭うであろう事は想像にかたくない。
 こればかりは、『デートと言えば誰にも邪魔されないだろう』と勘違いしたアミレスの大いなる過ちであるといえよう。まったくもって、自業自得である。
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