だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
名称やルールは分からないが、どうやら三つのダイスを投げてその合計を当てるゲームのようだ。他の挑戦者達が慎重に「大!」「奇数」と言ってチップを置いていく中、カイルは毎度適当に思いついただけの数字を口にしてチップを置いては、周りの大人達に「これだからカジノを知らん子供は……」みたいな視線と薄ら笑いを向けられていたのだが。
お決まりの流れだろうか。いっそ恐怖すら覚える程にカイルはドンピシャで当て続けていった。他にも当てている挑戦者達がいたのだが、毎度ドンピシャで当てて夥しい量のチップを手に入れていた。
周りからも一周回って引かれ始めた中で、ついにカイルが大勝負に出た。
「んー、じゃあ次で最後にすっかなぁ。五のゾロ目にオールインで」
ニヤリと笑うカイルがチップの入った箱をドンッと卓に置いて宣言する。それには周囲の見物客達も大騒ぎ。あまりにも無謀な挑戦だと、どよめきだす。しかし、それと同時に見物客達は興奮していた。
ここまで脅威的な運を発揮してきたあの子供なら本当にやりかねない。私達は今、滅多に見られない大勝負を目撃しているのではないか──。
そう、誰もがカイルに強く視線を集めた。
……ところで、その箱の中には私の分のチップも入ってるのだけど。さっきあの箱の中に入れておくんじゃなかったわ。
こんな時に何を小さな事を、と文句を言われてしまいそうな事を考えつつ私は勝負の行く末を見守る。緊迫した空気の中誰もが固唾を飲んで出目を見た、その時だった。
「お、オール五のゾロ目……です……っ!!」
ディーラーもまた興奮を抑えきれない様子で、震える声で呟いた。その瞬間、辺りは大歓声に包まれる。ヒューヒュー! と大盛り上がりのフロア。その中心で足と腕を組みふんぞり返ったあのチート野郎は、
「神に愛されるってのはこういう事を言うんだぜ?」
鼻持ちならない顔を作った。カイルがそれ言うと、もう二度と全世界の人が神に愛されてるとか言えなくなるのよ。貴方みたいな本当に神に愛された人が言うとね。
先程とは比べ物にならない程、山のように積まれた夥しい量のチップを大きな箱二個に分けて入れて、運営に台車を借りてそれに乗せて移動する。
当然だが注目される。私の隣で呑気にサービスのドリンクを味わっているこの男の噂は既に広まっているようで、ただ歩いているだけで「アイツが例の……?」「今日だけで勝ちまくってるガキってあの金髪の事か?」とヒソヒソ話が聞こえてくる。
その流れ弾で連れの私まで注目されている。とほほ……私は何もしてないのに。
「そういえば、お前は何もゲームしないの?」
チップが沢山入った箱を載せた台車を押しながら、カイルが話題を振ってくる。
確かに、今のところ私は何もしていない。ただカイルが異様な豪運で勝ち続けているのを、ドリンク片手に眺めているだけだ。そんな私にカイルは疑問を抱いたようだ。
「一応、一つだけやろうと思ってたゲームがあるわよ」
「なんのゲーム?」
「ブラックジャックよ」
恐らく、運がいい方ではない私にカジノで出来るゲームはこれぐらいしか無い。だから、最初から私はブラックジャックだけをプレイする予定だったのだ。
「え、何でブラックジャック? ポーカーとかじゃ駄目なん?」
「唯一私でも出来そうなゲームだからよ」
どういう事? とばかりにカイルが首を傾げる。
私が何故ブラックジャックに固執するのか。それは簡単な事。あれだけは記憶力と戦略でどうにかなる可能性があるからだ。
カジノ・スコーピオンは絶対に不正を許さない。なので、この世界にカードカウンティングという概念があるかどうかの賭けになる。
……あまり覚えていないのだが、前世で私はこれを習得していたのだと思う。誰か、親しいような親しくないような人に教えて貰ったような気がする。
『───記憶力のいいおまえは、こういう技を持っておいた方がいいだろう。いずれ、必ず役に立つからな』
優しい声と、大きな手で、そのひとは私に色んな事を教えてくれた。そのひとの顔も名前も、『私』との関係も分からないけれど、その声だけは覚えている。
人は人を忘れる時、まず声から忘れると言うけれど……どうして私は声だけを覚えているのだろうか。どうして私自身の事は何も覚えていないのに、この言葉だけは覚えているのだろうか。
「お、カードゲームをやってる区画はあの辺っぽいぞ」
カイルの声で現実に引き戻される。彼の指さした方向では、確かにいくつものカードゲームが行われているようだった。その中に、目的のブラックジャックの卓もあった。今行われているゲームが終わるまで、ディーラーを観察して待つ事に。
その間も暇だからと台車を私に預けてカイルが近くの卓にポーカーをしに行き、やがて彼が向かった方からは度々どよめきが聞こえてくるようになった。
あいつ、ルーレットやダイスゲームに限らずどんなゲームでも豪運発動するのね……チートにも程があるわ。
おっと。カイルの事は置いておいて観察を再開しよう。しかし、流石はスコーピオンの精鋭ディーラーと言うべきか、特に収穫は無い。落胆し、はぁ……とため息をついた時。
「あのディーラーは特に隙が無いと有名なんだ。あの卓では完全な運と実力が問われるのさ」
突然、後方から見知らぬイケメンが声をかけて来た。
何故ディーラーを観察していたのがバレた? と驚いていると、イケメンお兄さんはニコリと笑って一礼した。
お決まりの流れだろうか。いっそ恐怖すら覚える程にカイルはドンピシャで当て続けていった。他にも当てている挑戦者達がいたのだが、毎度ドンピシャで当てて夥しい量のチップを手に入れていた。
周りからも一周回って引かれ始めた中で、ついにカイルが大勝負に出た。
「んー、じゃあ次で最後にすっかなぁ。五のゾロ目にオールインで」
ニヤリと笑うカイルがチップの入った箱をドンッと卓に置いて宣言する。それには周囲の見物客達も大騒ぎ。あまりにも無謀な挑戦だと、どよめきだす。しかし、それと同時に見物客達は興奮していた。
ここまで脅威的な運を発揮してきたあの子供なら本当にやりかねない。私達は今、滅多に見られない大勝負を目撃しているのではないか──。
そう、誰もがカイルに強く視線を集めた。
……ところで、その箱の中には私の分のチップも入ってるのだけど。さっきあの箱の中に入れておくんじゃなかったわ。
こんな時に何を小さな事を、と文句を言われてしまいそうな事を考えつつ私は勝負の行く末を見守る。緊迫した空気の中誰もが固唾を飲んで出目を見た、その時だった。
「お、オール五のゾロ目……です……っ!!」
ディーラーもまた興奮を抑えきれない様子で、震える声で呟いた。その瞬間、辺りは大歓声に包まれる。ヒューヒュー! と大盛り上がりのフロア。その中心で足と腕を組みふんぞり返ったあのチート野郎は、
「神に愛されるってのはこういう事を言うんだぜ?」
鼻持ちならない顔を作った。カイルがそれ言うと、もう二度と全世界の人が神に愛されてるとか言えなくなるのよ。貴方みたいな本当に神に愛された人が言うとね。
先程とは比べ物にならない程、山のように積まれた夥しい量のチップを大きな箱二個に分けて入れて、運営に台車を借りてそれに乗せて移動する。
当然だが注目される。私の隣で呑気にサービスのドリンクを味わっているこの男の噂は既に広まっているようで、ただ歩いているだけで「アイツが例の……?」「今日だけで勝ちまくってるガキってあの金髪の事か?」とヒソヒソ話が聞こえてくる。
その流れ弾で連れの私まで注目されている。とほほ……私は何もしてないのに。
「そういえば、お前は何もゲームしないの?」
チップが沢山入った箱を載せた台車を押しながら、カイルが話題を振ってくる。
確かに、今のところ私は何もしていない。ただカイルが異様な豪運で勝ち続けているのを、ドリンク片手に眺めているだけだ。そんな私にカイルは疑問を抱いたようだ。
「一応、一つだけやろうと思ってたゲームがあるわよ」
「なんのゲーム?」
「ブラックジャックよ」
恐らく、運がいい方ではない私にカジノで出来るゲームはこれぐらいしか無い。だから、最初から私はブラックジャックだけをプレイする予定だったのだ。
「え、何でブラックジャック? ポーカーとかじゃ駄目なん?」
「唯一私でも出来そうなゲームだからよ」
どういう事? とばかりにカイルが首を傾げる。
私が何故ブラックジャックに固執するのか。それは簡単な事。あれだけは記憶力と戦略でどうにかなる可能性があるからだ。
カジノ・スコーピオンは絶対に不正を許さない。なので、この世界にカードカウンティングという概念があるかどうかの賭けになる。
……あまり覚えていないのだが、前世で私はこれを習得していたのだと思う。誰か、親しいような親しくないような人に教えて貰ったような気がする。
『───記憶力のいいおまえは、こういう技を持っておいた方がいいだろう。いずれ、必ず役に立つからな』
優しい声と、大きな手で、そのひとは私に色んな事を教えてくれた。そのひとの顔も名前も、『私』との関係も分からないけれど、その声だけは覚えている。
人は人を忘れる時、まず声から忘れると言うけれど……どうして私は声だけを覚えているのだろうか。どうして私自身の事は何も覚えていないのに、この言葉だけは覚えているのだろうか。
「お、カードゲームをやってる区画はあの辺っぽいぞ」
カイルの声で現実に引き戻される。彼の指さした方向では、確かにいくつものカードゲームが行われているようだった。その中に、目的のブラックジャックの卓もあった。今行われているゲームが終わるまで、ディーラーを観察して待つ事に。
その間も暇だからと台車を私に預けてカイルが近くの卓にポーカーをしに行き、やがて彼が向かった方からは度々どよめきが聞こえてくるようになった。
あいつ、ルーレットやダイスゲームに限らずどんなゲームでも豪運発動するのね……チートにも程があるわ。
おっと。カイルの事は置いておいて観察を再開しよう。しかし、流石はスコーピオンの精鋭ディーラーと言うべきか、特に収穫は無い。落胆し、はぁ……とため息をついた時。
「あのディーラーは特に隙が無いと有名なんだ。あの卓では完全な運と実力が問われるのさ」
突然、後方から見知らぬイケメンが声をかけて来た。
何故ディーラーを観察していたのがバレた? と驚いていると、イケメンお兄さんはニコリと笑って一礼した。