だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「お前等、飯の時間だ。腹減ってる奴は手ェ挙げろ、多めにやるからよ」

 眼帯の男は中くらいの布袋の中からパンをいくつも取り出し、次々に檻の中にそれを置いて行った。
 その度に「怪我は大丈夫か?」とか「頭が痛いのは治ったか?」とか子供達と話していた……子供達もこの男達相手にはあまり怯える様子を見せない。

「ねぇおじさん、わたし達本当にこのまま知らない人のところに売られちゃうの?」
「…………そう、だな」
「ここの大人の人達みたいに酷い事をする人達のところにいかなきゃいけないの?」
「……あぁ」
「おじさんはどうして助けてくれないの? とっても優しいのにどうして?」
「…………悪ぃな、俺にも、守らねぇといけないものがあるんだ」

 どこかの檻の前で、眼帯の男は奥歯をかみ締めていた。……まるで、助けたいのに助けられないと言いたげな口調で。
 ──この時には、交渉次第で彼を味方に出来る。そんな確信が私の中にあった。
 悔しそうな面持ちで子供達を見つめる眼帯の男の元に、背が低い猫目の男と筋骨隆々の男が近寄る。

「アニキ〜、こっち終わったよん」
「俺の方も終わったぞ」
「そうか……じゃあな、ガキ共。ゆっくり寝ろよ」

 優しい笑みを浮かべて、眼帯の男は子供達に「おやすみ」と告げた。
 そしてその二人と共に、早くも眼帯の男が巡回を終えてここを去ろうとしている。
 私は急いで眼帯の男を引き留めようと物陰から飛び出した。

「待ちな、さいっ!」
「ぐぁっ!?」

 全反射を解除し、眼帯の男の背中目掛けて勢いよく飛び蹴りをかました。……交渉出来なくなると焦ってしまい、手段を選ぶ暇が無かったのだ。
 眼帯の男はそのまま前方に倒れ込み、華麗に着地を決めた私に、夜の巡回の人達と檻の中の子供達の視線が一気に集中する。
 肝をつぶした様子の眼帯の男が、こちらを見上げてくる。
 そんな彼を真剣な面持ちで見下ろしながら私は提案する。

「──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?」

 そして私は──ついに、交渉に躍り出た。
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