だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

205.カジノ・スコーピオン3

「そもそも、不正だって騒ぐならまず証拠出せよ。こんな子供を大衆の面前で不正だーって辱める訳だから、それ相応の理由と証拠があっての事だろ? いい大人がまさか証拠も無しにやった訳ねぇよな? ほら、何でもいいから今すぐ出せよ。コイツを泣かせただけの理由、出してみろよ」

 ……あれ? ちょっとカイルさん? 剣幕がガチ過ぎないかしら?? そこまで本気で問い詰める必要は……私はただ一秒でも早い収束を……。

「しょ、証拠……は……」
「あ? さっきまでのクソうるせぇ叫び声はどこ行ったんだよ。ちゃんと声出して言えよ、『私は証拠も無しに不正と決めつけて女の子を辱めて泣かせました』って言えよ」
「……っ!!」

 太ったおじさんが滝のような汗を流して俯き、顔が歪む程に歯を食いしばる。
 その後カイルは残りの二人にも殺意を込めた視線を送って、

「お前等もこのおっさんと同じなんだろ? 相手がただの女の子だったから、明確な理由も証拠も無く批難した。これがもし大貴族とか屈強な男だったらしなかっただろ? 相手を選んで口撃するとか信じられないぐらいクズだな、お前等」

 とんでもないオーバーキルを繰り出す。
 すると、宝石をつけた女性が耳まで真っ赤にして、羞恥からか拳を体側で震えさせた。中肉中背の男もバツの悪そうな顔で視線を逸らす。誰も、カイルに言い返す事は出来なかったのだ。

「ほら、とっとと謝れよ。まさかいい歳した大人がこんなにも酷い仕打ちをして謝罪の一つも無い訳ないよな? 未来ある若者の心に一生モノの傷を作りかねないような事をしたってのに、何もしない訳ないよな?」
「っ……すまな、かった……!」
「わ、悪かったわね」
「……すまない。不正と決めつけてしまい」

 カイルの圧に負けて、大人達は渋々私に謝った。
 するとカイルがくるりとこちらを振り向いて問うてくる。

「スミレ、この謝罪を受け入れるかどうかはお前次第だ。お前がどうしても許せないって言うなら……俺がどんな手段を使ってでもアイツ等を破滅させるから、安心して好きな方を選べ」

 私の頭に手を置いて、撫でるように優しくそれを動かしながらカイルは恐ろしい事を口にした。その目は未だかつて無い程に優しくて、ここで私は違和感に気づく。
 もしかして……私の演技に気づいていない? カイルは私がこの大人達に本当に泣かされたと思ってるの?
 つまりあのハイクオリティな怒ってる演技は本当だったと。でもさ、私が泣いただけよ? そんなに怒る事でもないでしょう。カイルが分かんないわ。本当に。
 気まずい気分でちらりとカイルを見上げると、やけに優しい微笑みが目に映る。まるでゲームで見たカイルのような、まさに攻略対象と言うべき表情だった。
 突然の事に顔を逸らして俯く。攻略対象の攻略対象らしい表情は元プレイヤーの心臓に悪いわ。と、思いながらも私はそのまま答えを出した。

「……許す、わ。元はと言えば、疑われるような事をした私が、悪いから」

 火のないところに煙は立たない。これは、途中からつい勢いよくやってしまった私にも非があるというもの。
 だから許す。そう判断を下したら、カイルは私の頭から手を退かして、「そうか」とまた柔らかく笑う。だがしかし、

「──コイツが許すって言ったからこの場は許すが、二度とこんな真似はするなよ、いいな」

 次の瞬間にはまた殺気立ってしまった。あんたの情緒どうなってるのよ。
 大人達は最後の一睨みで完全にカイルへの恐怖心を植え付けられ、脱兎のように逃げ出した。しかしそんな大人達の向かった方向に運営スタッフらしき人達がゾロゾロと五人程走っていったので、多分、あの大人達は出禁を食らうんじゃないかなぁと予測している。
 そしてその場に残された私達はというと。

「荷物は俺が持つからとりあえず移動するぞ、スミレ。ここは人が多過ぎる」

 カイル先導のもと、比較的に人が少ない休憩スペースに向かった。
 そこにある長椅子《ソファ》に座らされる。すると私の目の前で、カイルがその表情に後悔を滲ませていて。

「……お前だって、本当は普通の女の子だもんな。悪ぃ、こんな所で軽率に傍を離れるべきじゃなかった」
「まっ、待って、ルカ。あのね……」
「どんだけ大人びてても、あんな風に一気に責められたら辛いよな。本当にごめん」
「ねぇ、話聞いて?」

 急にそんな懺悔を始めたカイルには、全然、私の声が届いていないように思えた。このままだと誤解したままになる。
 見知らぬ人達を大勢騙すよりも唯一無二の友達を騙す方が心苦しい。だから早く、あれが演技だったのだと伝えなければ。

「私の話を聞きなさい!」
「っ、お、おう……」

 カイルの腕を思い切り引っ張って、顔を寄せる。流石にカイルもこれには気づいてくれた。
 物凄く気まずい、というか申し訳ないのだが……伝えなければならない。彼をも騙したのは私なんだから。ちゃんと、自分でまいた種は回収しないと。

「あのね、ルカ。さっきのあれは──演技なのよ」
「…………え?」
「あの場を切り抜ける為の演技……嘘泣きだったのよ」
「………………えぇ?」

 カイルはまさに拍子抜け、とばかりにその表情を崩した。

「ごめんなさい。私がややこしい事をした所為で、貴方まで巻き込んでしまって」

 頭を下げる。すると、カイルの足と地面しか見えていなかった私の視界に、彼の膝や腕が映った。「はぁぁぁぁ……」と大きくため息を吐きながらしゃがみ込んだようだ。
 怒られるよね、だって騙したんだもの。でもそれはカイルの正当な怒りだから甘んじて受け入れよう。
 そう、腹を括った時だった。

「そっか、マジで泣いた訳ではなかったんだな。良かったぁ……」

 カイルが心から安堵したような声をもらした。
 ちらりと見たその表情に、私が予想していた怒りのようなものは全く見えなくて。どういう事? と私は困惑していた。
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