だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「怒って、ないの?」
「何に怒るんだよ。そりゃあ、さっきの奴等には結構怒ってたけどよ」
「……だって私、貴方の事を騙したのよ?」
ポカンとした顔で、カイルは首を傾げる。
「騙された、っつーか……俺が早とちりしただけだし。しかし、うん……嘘泣きか。心臓に悪いからこれからは控えてくれよな」
その上で、何故か私を責める事無くこの男は平然と笑う。ゲームで幾度となく見た攻略対象《カイル・ディ・ハミル》の顔で。
ミシェルちゃんの良い所も悪い所も何もかも全てを受け入れて愛してみせた、あのスパダリ枠のイケメンのように。
ダメだ……この優しさに甘えたくなる。事情も全て把握してくれている唯一無二の仲間に、これ以上依存する訳にはいかないのに。
「……心臓に悪いって、人が泣いてるだけで何がそんなに大変なの?」
どうにかして意識を逸らそうと話題を変える。カイルはしゃがみ込んだままその場でこちらを見上げ、
「そりゃあ……特にお前は事情が事情だからな。普段滅多に泣かない奴が泣く程の何かがあった、って思うだろ?」
冷静に説明する。
「でも、そうだとしてもどうしてあんなに怒ってたの? 私、最初はカイルが私の意図を汲んで真に迫った演技をしてくれているんだ……って思ってたんだけど」
「あの状況でそこまで意図汲めるとか俺はエスパーか何かか?」
苦笑しながらツッコミを入れたかと思えば、
「友達が誰かに泣かされたんだから、怒って当然だろ」
今度は真剣な顔を作ってカイルは言い切った。
──『例えどんな理由があろうとも、友人を泣かせる奴は許せない』。ふと……そんなカイルの台詞があった事を思い出した。
一作目のカイルのルートで、カイルの友人として城に招かれたミシェルちゃんにカイルの腹違いの兄がちょっかいを出して、しまいにはミシェルちゃんが涙ぐんでしまったシーン。
初めてミシェルちゃんの涙を見たカイルが、ついに腹違いの兄達に表立って敵対心を向けるようになるイベント。
そのシーンが、漠然と思い出された。私は決してヒロインではないのに。それなのに、どうしてか……彼の言葉がじんわりと、強く胸に染み込んでくる。
友達って、こんなにも温かい存在だったんだな。改めてそう実感した。
「急にどうしたんだよ、そんなにニヤニヤして……」
カイルに指摘されて初めて気づく。私の頬はこれでもかと言う程に緩み、弧を描いていた。それを必死に正して、私はキリリとした表情を作り、話題を変えようとした。
「──さて。この後どうする?」
「とりあえずゲームでそれなりに勝ち、チップを大量に手に入れた訳だが……VIPルームに行く条件が分かんねぇな」
向かい合う形で長椅子《ソファ》に座り、ドリンクを飲んで休憩がてら作戦会議を行う。
私達がここまでVIPルームに行く事に固執するのは、ひとえにそこでしか会えない人達がいるからだ。
アルベルト情報によると、基本的にカジノ・スコーピオンの一般カジノフロアのディーラーは、厳しい育成の果てに選び抜かれた精鋭のディーラー達。
しかしVIPルームのディーラーはただの精鋭ではなく、スコーピオンの幹部を中心としたワンランク上の精鋭達が行っているそうなのだ。
通常よりもハイリスクハイリターンなギャンブル。それを公正に運営する為、スコーピオンは幹部達を中心とした精鋭達をVIPルームのディーラーとしているらしい。
つまり、VIPルームに行けばスコーピオンの幹部と会える。スコーピオンと交渉しなければならない私からすれば、VIPルームに行く事こそがスコーピオンとの交渉の第一歩なのだ。
なのでどうしてもVIPルームに行きたいのだが……流石に、一日ではどうともならないかなぁ。でもあんまり日数はかけたくないのよね。東宮に戻った時が怖いから。
「ゲームで勝ちまくる。チップを大量に手に入れる。いい意味でも悪い意味でも注目される。これでもかってぐらいカジノを楽しむ。既に色々とやってはいるが、どれも条件には当てはまらないのか?」
ぐぬぬ、と眉間に皺を寄せてカイルは悩む。
「もっと暴れたらいいのか……? つってもチップ増えて邪魔なだけだしなぁ……」
その視線の先には、先程の私の勝利分をも含めた四つにも及ぶ箱。それぞれに沢山チップが詰められているので、それなりの重量である。
あれ、換金したらいくらになるのかしら。まぁしたとしても九割はカイルにあげるけれど。そもそもカイルの功績だし。
カイルがとんでもないベットを繰り返したから、ありえない勢いでチップが増えたのよね。神に愛された男怖いわ。
しかし、本当に条件が分からない。アルベルトも暫く観察していてもなおVIPルーム行きの条件が分からなかったと言っていたし……。
アルベルトがこのカジノに潜入して捜査していた一ヶ月程の間でVIPルームに行った人は計八人。だがその八人に共通点らしきものは無かったらしい。
だから、VIPルーム行きの条件がより分からなくなる。
「「うーん……」」
二人して頭を抱えていた時。何者かの気配が接近して来た。一般人とは違う気配……これは、恐らく戦い慣れた人間の放つ気配だ。
「何に怒るんだよ。そりゃあ、さっきの奴等には結構怒ってたけどよ」
「……だって私、貴方の事を騙したのよ?」
ポカンとした顔で、カイルは首を傾げる。
「騙された、っつーか……俺が早とちりしただけだし。しかし、うん……嘘泣きか。心臓に悪いからこれからは控えてくれよな」
その上で、何故か私を責める事無くこの男は平然と笑う。ゲームで幾度となく見た攻略対象《カイル・ディ・ハミル》の顔で。
ミシェルちゃんの良い所も悪い所も何もかも全てを受け入れて愛してみせた、あのスパダリ枠のイケメンのように。
ダメだ……この優しさに甘えたくなる。事情も全て把握してくれている唯一無二の仲間に、これ以上依存する訳にはいかないのに。
「……心臓に悪いって、人が泣いてるだけで何がそんなに大変なの?」
どうにかして意識を逸らそうと話題を変える。カイルはしゃがみ込んだままその場でこちらを見上げ、
「そりゃあ……特にお前は事情が事情だからな。普段滅多に泣かない奴が泣く程の何かがあった、って思うだろ?」
冷静に説明する。
「でも、そうだとしてもどうしてあんなに怒ってたの? 私、最初はカイルが私の意図を汲んで真に迫った演技をしてくれているんだ……って思ってたんだけど」
「あの状況でそこまで意図汲めるとか俺はエスパーか何かか?」
苦笑しながらツッコミを入れたかと思えば、
「友達が誰かに泣かされたんだから、怒って当然だろ」
今度は真剣な顔を作ってカイルは言い切った。
──『例えどんな理由があろうとも、友人を泣かせる奴は許せない』。ふと……そんなカイルの台詞があった事を思い出した。
一作目のカイルのルートで、カイルの友人として城に招かれたミシェルちゃんにカイルの腹違いの兄がちょっかいを出して、しまいにはミシェルちゃんが涙ぐんでしまったシーン。
初めてミシェルちゃんの涙を見たカイルが、ついに腹違いの兄達に表立って敵対心を向けるようになるイベント。
そのシーンが、漠然と思い出された。私は決してヒロインではないのに。それなのに、どうしてか……彼の言葉がじんわりと、強く胸に染み込んでくる。
友達って、こんなにも温かい存在だったんだな。改めてそう実感した。
「急にどうしたんだよ、そんなにニヤニヤして……」
カイルに指摘されて初めて気づく。私の頬はこれでもかと言う程に緩み、弧を描いていた。それを必死に正して、私はキリリとした表情を作り、話題を変えようとした。
「──さて。この後どうする?」
「とりあえずゲームでそれなりに勝ち、チップを大量に手に入れた訳だが……VIPルームに行く条件が分かんねぇな」
向かい合う形で長椅子《ソファ》に座り、ドリンクを飲んで休憩がてら作戦会議を行う。
私達がここまでVIPルームに行く事に固執するのは、ひとえにそこでしか会えない人達がいるからだ。
アルベルト情報によると、基本的にカジノ・スコーピオンの一般カジノフロアのディーラーは、厳しい育成の果てに選び抜かれた精鋭のディーラー達。
しかしVIPルームのディーラーはただの精鋭ではなく、スコーピオンの幹部を中心としたワンランク上の精鋭達が行っているそうなのだ。
通常よりもハイリスクハイリターンなギャンブル。それを公正に運営する為、スコーピオンは幹部達を中心とした精鋭達をVIPルームのディーラーとしているらしい。
つまり、VIPルームに行けばスコーピオンの幹部と会える。スコーピオンと交渉しなければならない私からすれば、VIPルームに行く事こそがスコーピオンとの交渉の第一歩なのだ。
なのでどうしてもVIPルームに行きたいのだが……流石に、一日ではどうともならないかなぁ。でもあんまり日数はかけたくないのよね。東宮に戻った時が怖いから。
「ゲームで勝ちまくる。チップを大量に手に入れる。いい意味でも悪い意味でも注目される。これでもかってぐらいカジノを楽しむ。既に色々とやってはいるが、どれも条件には当てはまらないのか?」
ぐぬぬ、と眉間に皺を寄せてカイルは悩む。
「もっと暴れたらいいのか……? つってもチップ増えて邪魔なだけだしなぁ……」
その視線の先には、先程の私の勝利分をも含めた四つにも及ぶ箱。それぞれに沢山チップが詰められているので、それなりの重量である。
あれ、換金したらいくらになるのかしら。まぁしたとしても九割はカイルにあげるけれど。そもそもカイルの功績だし。
カイルがとんでもないベットを繰り返したから、ありえない勢いでチップが増えたのよね。神に愛された男怖いわ。
しかし、本当に条件が分からない。アルベルトも暫く観察していてもなおVIPルーム行きの条件が分からなかったと言っていたし……。
アルベルトがこのカジノに潜入して捜査していた一ヶ月程の間でVIPルームに行った人は計八人。だがその八人に共通点らしきものは無かったらしい。
だから、VIPルーム行きの条件がより分からなくなる。
「「うーん……」」
二人して頭を抱えていた時。何者かの気配が接近して来た。一般人とは違う気配……これは、恐らく戦い慣れた人間の放つ気配だ。