だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「そうだ。せっかくなのでゲームご一緒しませんか? お兄さん、このカジノの常連客なんですよね? やっぱりゲームは人数が多い方がいいですし。ね、そうでしょう、ルカ」
「ん? まあそうだな。お前がそう決めたのなら俺は従うよ」
このお兄さんがかなり怪しいので、ご一緒に、とゲームのお誘いをしてみた。ちょっとこの人の反応を見てみたかったのだ。
実際にゲームをするつもりは全く無いので、カジノの常連客をゲームに誘っても特に問題無いでしょう。
「…………」
イケメンお兄さんは暫しぽかんと瞬きをしていたが、やがて侮蔑を孕む視線と底意地の悪そうな笑みで答えた。
「いいとも。突然誘われたから少し驚いてしまったが、受けさせて貰うよ」
「わあ、ありがとうございます。それではあちらのテーブルでいかがですか?」
しかしその笑顔を軽くスルーし、私は先程目を付けたテーブルに向かった。カイルもイケメンお兄さんも黙って後ろを着いてくる。
そして空いていたテーブルに左からカイル、私、イケメンお兄さんの順で座った後、私はおもむろに問いかけた。
「ねぇ、お兄さん。お兄さんって私の事嫌いですよね。それも相当」
にこりといつもの王女スマイルを作り、彼に向けてみる。
「当然だとも。ただ、補足するならばオレは君達の事が嫌いだ」
イケメンお兄さんは即答した。それも今日見た中で一番黒く輝く笑顔で。本当に隠す気が無いな。何でこんなに嫌われているんだろうか、私達。
「偶然ですね、私もお兄さんの事は嫌いです」
目には目を歯には歯を嫌味には嫌味を。お兄さんが私達を嫌うなら私達もお兄さんを嫌ってやろう。
「ハハ、それは良かった。君達に好かれていたら屈辱のあまり寝込んでいたかもしれないからね」
「あら……それは難儀な体質ですね。今からでも好きになってあげましょうか?」
「丁重にお断りするよ。本当に拷問以外の何物でもないからな」
「それは残念です」
片や黒く片や機械的に微笑みながら、言葉の殴り合いを始める。すると私の隣でカイルが『何でお前そんな喧嘩腰なの?』と言いたげな戸惑いを顔に滲ませた。
ふと、ある仮説が私の脳裏を過ぎる。このお兄さんから感じていた様々な違和感。そしてこの異常なまでの嫌悪と憎悪。
このカジノの常連だと言う情報等から、私はある一説を立てた。それは──……このお兄さんが、スコーピオンの頭目たるヘブンなのでは、というもの。
酷く貴族社会や貴族を嫌う彼ならば、私達の所作から私達がそれ相応の地位の人間だと気づき、最初から嫌悪全開で関わって来てもおかしくはない。
リードさん曰く、どんな格好をしていようとも染み付いた所作や風格は隠しきれないそうなので、それで気づかれたのだろう。
そうだとしたら──このお兄さんが変装したヘブンなら。無条件に貴族を嫌う彼だったのなら、初対面からのあの違和感と敵意にも納得がいく。
さてどうやって確認したものかと思い悩む。そこで、
「あ、あのぅ……ゲームを始めてもよろしいですか?」
首筋に冷や汗を浮かべるディーラーがおずおずと声を出す。イケメンお兄さんが「ああ、構わない」と答えたので、私はゲームが始まる前に、アルベルトより聞いたある合言葉を口にした。
「──蠍の尾を、飲ませて欲しいのだけど」
その瞬間、イケメンお兄さんとディーラーの顔に驚愕が宿る。もし彼がヘブンでなかったとしても、この反応からしてイケメンお兄さんもスコーピオンの関係者である事は確定だ。
この『蠍の尾を飲ませて欲しい』という言葉がいわゆる合言葉で、スコーピオン社ではなく闇組織スコーピオンへの依頼や接触に使われる合言葉らしい。
アルベルトが潜入調査の際に偶然その接触現場を目撃してくれたお陰で、ゲームでちらっと見たこの合言葉が現実のものと確信出来た。
いやぁ、本当にアルベルトには感謝してもしきれない。彼の協力無しではこの作戦は成り立たないわ。本当にありがとう。
「……かしこまりました。詳細については別室でお伺いします」
ディーラーの表情が変わる。案内します、と歩きだしたディーラーの後ろを付いていく前に一度立ち止まって振り返り、イケメンお兄さんに向けて笑みを浮かべる。
「すみません、お兄さん。私からゲームに誘っておいて離れる事になって。なのでどうですか? お兄さんも……──別室で一緒にお話ししましょうよ」
「……お前、何者だ」
「それはこの後のお話の場で。どうです? 私のお誘いを改めて受けてくれますか?」
カイルが目を丸くするような悪辣な笑みで私は問いかけた。イケメンお兄さんはもはや笑う事もやめて、ただただ殺意の籠った鋭い目でこちらを睨む。
舌打ちをしながら立ち上がったイケメンお兄さんは、親の仇でも見るかのような目でこちらを睨み、私の横を素通りしてディーラーと共に歩いて行く。
もし彼がヘブンならば、私はスコーピオンの頭目を交渉の場に引き摺り出せた事になる。その事にほくそ笑みながら、カイルの腕を引っ張ってディーラー達の背を追った。
「ん? まあそうだな。お前がそう決めたのなら俺は従うよ」
このお兄さんがかなり怪しいので、ご一緒に、とゲームのお誘いをしてみた。ちょっとこの人の反応を見てみたかったのだ。
実際にゲームをするつもりは全く無いので、カジノの常連客をゲームに誘っても特に問題無いでしょう。
「…………」
イケメンお兄さんは暫しぽかんと瞬きをしていたが、やがて侮蔑を孕む視線と底意地の悪そうな笑みで答えた。
「いいとも。突然誘われたから少し驚いてしまったが、受けさせて貰うよ」
「わあ、ありがとうございます。それではあちらのテーブルでいかがですか?」
しかしその笑顔を軽くスルーし、私は先程目を付けたテーブルに向かった。カイルもイケメンお兄さんも黙って後ろを着いてくる。
そして空いていたテーブルに左からカイル、私、イケメンお兄さんの順で座った後、私はおもむろに問いかけた。
「ねぇ、お兄さん。お兄さんって私の事嫌いですよね。それも相当」
にこりといつもの王女スマイルを作り、彼に向けてみる。
「当然だとも。ただ、補足するならばオレは君達の事が嫌いだ」
イケメンお兄さんは即答した。それも今日見た中で一番黒く輝く笑顔で。本当に隠す気が無いな。何でこんなに嫌われているんだろうか、私達。
「偶然ですね、私もお兄さんの事は嫌いです」
目には目を歯には歯を嫌味には嫌味を。お兄さんが私達を嫌うなら私達もお兄さんを嫌ってやろう。
「ハハ、それは良かった。君達に好かれていたら屈辱のあまり寝込んでいたかもしれないからね」
「あら……それは難儀な体質ですね。今からでも好きになってあげましょうか?」
「丁重にお断りするよ。本当に拷問以外の何物でもないからな」
「それは残念です」
片や黒く片や機械的に微笑みながら、言葉の殴り合いを始める。すると私の隣でカイルが『何でお前そんな喧嘩腰なの?』と言いたげな戸惑いを顔に滲ませた。
ふと、ある仮説が私の脳裏を過ぎる。このお兄さんから感じていた様々な違和感。そしてこの異常なまでの嫌悪と憎悪。
このカジノの常連だと言う情報等から、私はある一説を立てた。それは──……このお兄さんが、スコーピオンの頭目たるヘブンなのでは、というもの。
酷く貴族社会や貴族を嫌う彼ならば、私達の所作から私達がそれ相応の地位の人間だと気づき、最初から嫌悪全開で関わって来てもおかしくはない。
リードさん曰く、どんな格好をしていようとも染み付いた所作や風格は隠しきれないそうなので、それで気づかれたのだろう。
そうだとしたら──このお兄さんが変装したヘブンなら。無条件に貴族を嫌う彼だったのなら、初対面からのあの違和感と敵意にも納得がいく。
さてどうやって確認したものかと思い悩む。そこで、
「あ、あのぅ……ゲームを始めてもよろしいですか?」
首筋に冷や汗を浮かべるディーラーがおずおずと声を出す。イケメンお兄さんが「ああ、構わない」と答えたので、私はゲームが始まる前に、アルベルトより聞いたある合言葉を口にした。
「──蠍の尾を、飲ませて欲しいのだけど」
その瞬間、イケメンお兄さんとディーラーの顔に驚愕が宿る。もし彼がヘブンでなかったとしても、この反応からしてイケメンお兄さんもスコーピオンの関係者である事は確定だ。
この『蠍の尾を飲ませて欲しい』という言葉がいわゆる合言葉で、スコーピオン社ではなく闇組織スコーピオンへの依頼や接触に使われる合言葉らしい。
アルベルトが潜入調査の際に偶然その接触現場を目撃してくれたお陰で、ゲームでちらっと見たこの合言葉が現実のものと確信出来た。
いやぁ、本当にアルベルトには感謝してもしきれない。彼の協力無しではこの作戦は成り立たないわ。本当にありがとう。
「……かしこまりました。詳細については別室でお伺いします」
ディーラーの表情が変わる。案内します、と歩きだしたディーラーの後ろを付いていく前に一度立ち止まって振り返り、イケメンお兄さんに向けて笑みを浮かべる。
「すみません、お兄さん。私からゲームに誘っておいて離れる事になって。なのでどうですか? お兄さんも……──別室で一緒にお話ししましょうよ」
「……お前、何者だ」
「それはこの後のお話の場で。どうです? 私のお誘いを改めて受けてくれますか?」
カイルが目を丸くするような悪辣な笑みで私は問いかけた。イケメンお兄さんはもはや笑う事もやめて、ただただ殺意の籠った鋭い目でこちらを睨む。
舌打ちをしながら立ち上がったイケメンお兄さんは、親の仇でも見るかのような目でこちらを睨み、私の横を素通りしてディーラーと共に歩いて行く。
もし彼がヘブンならば、私はスコーピオンの頭目を交渉の場に引き摺り出せた事になる。その事にほくそ笑みながら、カイルの腕を引っ張ってディーラー達の背を追った。