だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
第二節・暗躍編

210.暗躍しましょう。

 豪運モンスターカイルといたお陰か、トントン拍子でスコーピオンとの接触を果たせた翌日。
 私達は港町を観光していた。
 昨日気になっていたお店などに行き、皆へのお土産を買ったり、たくさん美味しいものを食べたり、困っている人がいたから助けたりもしていた。

「お嬢ちゃん達、内陸の方から来たから魚が食いたかったのか。そりゃァ残念だな……もうかれこれ一ヶ月近く漁が出来てねぇから、今はどこの店に行こうと魚料理はねぇんだ」

 カイルと二人で、魚料理食べたかったねー。といった話をしていたら、すぐ側の屋台のおじさんが不漁の理由を教えてくれたのだ。
 お話代として私達はその屋台の芋餅風揚げ芋を進んで買って、食べながらおじさんの話を聞く。

「実はなァ、二ヶ月程前からタチの悪ぃ海賊共が沖に居座ってやがってな、沖まで船を出すと誰彼構わず攻撃されちまうから、漁が出来てねぇんだよ」
「「海賊……?!」」

 ゴクリ、と芋餅風揚げ芋を飲み込んで私達は声を重ねた。

「ほら、あっちの方見えるか? あそこにある大きな船、あれが海賊共の船でな。どういう訳かめちゃくちゃ頑丈な船で、並大抵の魔法が効かなくてルーシェ商業組合もお手上げ状態なんだよ」

 力無く項垂れるおじさん。彼の指さした方には昨日私も見た大きな船があった。
 あれって海賊船だったの? 確かに漁をするには大きいなとは思ったけれど、まさか海賊船だったなんて。海賊が存在するっていうのは、授業で習ったから一応知っていたけれど……それがまさか目の前に現れる。
 ん? という事は、つまりあの海賊共の所為で私達は魚料理を食べられないの? 何が目的か分からない海賊共の所為で??

「自警団とか、騎士団とか、そういうのでなんとかしようとは思わなかったのか?」

 私が静かな怒りを燃やす中、ペロリと芋餅風揚げ芋を平らげたカイルがおじさんに尋ねる。おじさんは後頭部を掻きながら、やるせなさそうに語った。

「しようとしたさ。町長主導で自警団と共に海賊共に沖から立ち退くよう勧告した。だが海賊共はそれに応じず、あまつさえ自警団を攻撃した。しかも厄介な事にな、海賊共が恐ろしく強かったんだ。だから俺達は手も足も出ず、あいつ等が勝手にいなくなるのをこうして待ってるって訳だ」

 アルブロイト公爵領の中でも発展しているこの港町ルーシェの自警団でも手も足も出ない強さですって……? だいぶ穏やかじゃないわね。

「領主に頼んで騎士団の派遣とかしてもらえなかったのか?」
「一応、海賊による漁師への攻撃が始まってすぐの頃に領主様にも手紙を送ったさ。だがなァ、時期が悪かったんだ」

 カイルが次々と海賊の件について踏み込んでゆく。おじさんは特に躊躇う様子もなく、色々と事情を話してくれた。
 ここで私は気づく。おじさんの語る『時期が悪かった』という事柄について心当たりがあったのだ。

「……もしかして鉱山事故が関係してますか?」
「嬢ちゃん、何でそれを……!?」
「鉱山事故……?」

 どうやら私の予想は的中したらしい。
 この鉱山事故というのは今から丁度二ヶ月程前に、アルブロイト公爵領にあるランメル鉱山という大きな鉱山で起きた。謎の轟音が採掘場内に響いた直後、斜坑の天井が広範囲に渡って崩落し、採掘場で作業していた人達のべ数百人の死者が出た大事故。

 これは当時新聞で報道され、大騒ぎになっていた。帝都からも帝国兵団と帝国騎士団が救助隊として派遣される程の大騒動。
 だがこの時期、カイルは丁度ハミルディーヒに帰っていた。だから鉱山事故を知らないのだろう。

「嬢ちゃんの言う通り例の鉱山事故でな、領主様んとこの騎士団がほとんど採掘場へと救助に向かってんだ。残りは変わらず警備に務めないとならないとかで、こちらに割く余裕が無いって申し訳なさそうに言われちまったんだ。まァ、こっちは漁に出なけりゃ別に攻撃されないし、ちと商売が成り立たねぇってだけだからさ、それなら人命を優先してくれって領主様にも伝えたんだがな」

 なんていい人なんだ、ルーシェ商業組合の人達は。
 商売が成り立たないなんて凄く困る事だろうに、人命を優先しろと堂々言えるなんて。こんなにもいい人達が損をするなんて間違っている。
 それにしても……本当に時期が悪いな。まさかそんな大事故と海賊の出没時期が重なるなんて──、いや、そんな偶然ある? いくら何でもタイミングがおかしいわ。
 どうしてどっちも、二ヶ月程前に発生しているの? それに、海賊はどうして近づいてくる漁師達を攻撃するだけで他には何もしていないの? 一体なんの目的があって、海賊は二ヶ月近くずっと沖に停泊しているの?

「……ねぇ、おじさん。最近何か、この町で変わった事とか起きてない?」

 ふと、嫌な予感がした。
 もし万が一、この二つの件に何か繋がりがあって……あの鉱山事故が鉱山事件(・・・・)だったとしたら? 鉱山で事故を起こし、公爵領の騎士達がどうしても足を取られているその隙に港町で何かを企んでいたら? そんなもしもの悪い想像ばかりが頭を埋め尽くす。
 だからどうかこの想像が間違いであってくれと、おじさんに質問を投げ掛けた。だけど、

「変わった事……そう言えば、近頃行方不明になる奴が多いな。先月から、かれこれもう十人ぐらい行方不明のままだな。自警団が色々調べてはみてるんだが、全員が町のど真ん中で行方不明になってるとかで訳がわからんのよ。しかし、それがどうしたんだ?」

 こういう時に限って私の嫌な予感は的中してしまう。
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