だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢♢
港の外れにある崖の上に立ち、私達は夜風に吹かれながら広大な海を見下ろしていた。
目下にはここまで喧騒が聞こえて来る海賊船が四隻。私は周りの海を見渡しながら、手をグッパグッパと開いては閉じてを繰り返していた。
よし、多分この感じなら秘策の方も無事に出来そうね。この前の貴族会議の時のアレで、広範囲の魔力を掌握するコツは掴んでたし。なんてったって、海は──私の領域だもの。
「熱源探知的にはあそこの一番強そうな船が怪しいな。他の三隻に比べて、明らかに女子供っぽい熱源が多い」
私の隣で黙々とサベイランスちゃんを操作していたカイルが、顔を上げて一つの船を指さした。
ほほう、あの船か。あの船を私は襲撃したらいいのね?
「他の三隻はー……まぁ、邪魔だし適当に沈めっか。思い切り魔法ぶち込もうぜ〜」
「任せて。ここで私の秘策を披露してやろうじゃないの」
「お、例の秘策か。これはお手並み拝見っと」
そう言って、カイルは一歩後ろに下がった。
「よしっ、それじゃあいっちょやってみますか!」
目下に広がる広大な海。その一部を両手ですくい上げるように、海に浸透する水の魔力を掌握し、膨大な量の水を手足のように操る。
「──ぎゃははは! 今日も酒がうめ……ぇ……?」
「──何で、波が……ッ?!」
「──逃げろぉおおおおお!」
喧騒から一転。遠くの船上は混乱の渦に呑まれ、やがて海賊達は海に引きずり込まれた。
静かな海に、突如として高波が生まれた。それは凄まじい勢いを伴って二隻の船に覆いかぶさり、やがてそれを海の中に引きずり込んでしまう。
突然海賊達を襲った異常。転覆し、そのまま沈んだ二隻以外の船に乗っていた者達も、流石にこの事態に恐怖しているようで。先程までは宴か何かをしていたのかどんちゃん騒ぎだったみたいなのだが、今や狂乱状態で大騒ぎのようだ。
「おぉ〜、お前すっげぇな! まさか海を操るとは……もう最強だろ」
「これが汎用性の高さなら頭一つ飛び抜けた水の魔力の真骨頂よ。人を殺す手段が沢山あるもの」
「穏やかじゃねぇなぁ」
ハハ……と薄ら笑いを浮かべていたカイルであったが、すぐに気持ちを切り替えて、「じゃあもう一隻は俺が沈めてもいい?」と聞いて来た。
私としても魔力は温存しておきたかったので、これには勿論イエスで答えた。するとカイルは「サンキュ!」と笑って、鼻歌交じりにサベイランスちゃんを操作する。
……ちょっと待って。私はカイルに何をさせようとしているの? 氷の血筋の私ならともかく、カイルはなんて事ない普通の人なのに。
人を殺させてしまってもいいの? やっぱり今からでも私がもう一隻沈めるって言った方がいいのかな。
サベイランスちゃんを操作するカイルの腕を掴み、告げる。
「ねぇカイル、やっぱり三隻目も私がやるわ」
「え、何で? それじゃあお前ばっかり魔力使い過ぎになるだろ、温存しておいた方がいいだろうし俺がやるぞ?」
「でも……このままだと、貴方は人を殺す事になるのよ?」
きょとんとするカイルに向けて、私は本当にいいのかと尋ねる。しかしカイルはケロッとした顔のまま、答えた。
「まぁそうなるな。それがどうした?」
「……へ?」
それがどうした、って……何、その返答は?
「だって人間誰しもいつか死ぬんだからさ、それがアイツ等は今だったってだけの事。他人の死が俺の手によるものか否かとか別にどうでもいいし……少なくとも、アイツ等は何百人のも無辜の民を計画的に殺した奴等だ。そんな奴等を殺した所で何も感じねぇよ」
カイルがこんな考えを持つ人間だったなんて、今初めて知ったけれど……妙に受け入れ難いというか、体がこの思想に賛成する事を拒否しているというか。
こんなの初めてよ、本当に……。
「俺は自分がロクでもない人間だって自覚があるし、俺の所為で誰かが死ぬ事に関してはもう気にしない事にしてるんだよ。だからさ、マジで俺は気にしねぇし……お前にだけ重荷を背負わせる訳にもいかんからな、ここは大人しく俺に任せてくれ」
どこか空元気な様子でそう語ったカイルは、私の頭にぽんっと手を置いて、歯を見せて笑った。
返す言葉が全く見つからず、ただただ彼の背中を見つめ続ける。程なくして、カイルはサベイランスちゃんを起動した。
「いくぜ、サベイランスちゃん。完全犯罪術式《コード・モリアーティ》発動!」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。魔導変換開始。事前指定、目次参照完了。対象指定、完了。隠蔽術式構成、完了。多重魔法陣、四重に設定完了。各魔法陣の最適化及び融合を開始……完了。術式構成、全行程完了。完全犯罪術式、全てを焼却せよ──発動》
無機質な機械音声が鳴り響く。しかし、私の目には何も見えなかった。海から漂ってくるその禍々しい空気からして、何かが起きているのだろう。だが私の目には見えない。
さっき、カイルといいサベイランスちゃんといいどちらもモリアーティがどうのと言っていたし……サベイランスちゃんに関しては隠蔽がどうのとも言っていた。
もしかしたら私の全反射のように、カイルにもそういった姿を消したりする方法があるのかもしれない。
ボーッとサベイランスちゃんと海賊船を交互に眺めていると、突如として一隻の船が発火した。それもボヤ騒ぎとかそういうちゃちなものではなく、船全体が一瞬にして業火に包まれた。
その炎は凄まじい速度で船を喰らう。大きな船だったのに、それはあっという間に消し炭となり、海賊達も含めて海の藻屑と変えてしまった。
──そして、何よりも恐ろしい事に。海賊船を起点に発生した業火は、海をも焼き尽くそうとしていた。
明らかにおかしい現象。しかしその炎は本当に海を燃やしてゆく。いくらファンタジーと言っても説明しきれないようなイレギュラーに、私は開いた口が塞がらなかった。
港の外れにある崖の上に立ち、私達は夜風に吹かれながら広大な海を見下ろしていた。
目下にはここまで喧騒が聞こえて来る海賊船が四隻。私は周りの海を見渡しながら、手をグッパグッパと開いては閉じてを繰り返していた。
よし、多分この感じなら秘策の方も無事に出来そうね。この前の貴族会議の時のアレで、広範囲の魔力を掌握するコツは掴んでたし。なんてったって、海は──私の領域だもの。
「熱源探知的にはあそこの一番強そうな船が怪しいな。他の三隻に比べて、明らかに女子供っぽい熱源が多い」
私の隣で黙々とサベイランスちゃんを操作していたカイルが、顔を上げて一つの船を指さした。
ほほう、あの船か。あの船を私は襲撃したらいいのね?
「他の三隻はー……まぁ、邪魔だし適当に沈めっか。思い切り魔法ぶち込もうぜ〜」
「任せて。ここで私の秘策を披露してやろうじゃないの」
「お、例の秘策か。これはお手並み拝見っと」
そう言って、カイルは一歩後ろに下がった。
「よしっ、それじゃあいっちょやってみますか!」
目下に広がる広大な海。その一部を両手ですくい上げるように、海に浸透する水の魔力を掌握し、膨大な量の水を手足のように操る。
「──ぎゃははは! 今日も酒がうめ……ぇ……?」
「──何で、波が……ッ?!」
「──逃げろぉおおおおお!」
喧騒から一転。遠くの船上は混乱の渦に呑まれ、やがて海賊達は海に引きずり込まれた。
静かな海に、突如として高波が生まれた。それは凄まじい勢いを伴って二隻の船に覆いかぶさり、やがてそれを海の中に引きずり込んでしまう。
突然海賊達を襲った異常。転覆し、そのまま沈んだ二隻以外の船に乗っていた者達も、流石にこの事態に恐怖しているようで。先程までは宴か何かをしていたのかどんちゃん騒ぎだったみたいなのだが、今や狂乱状態で大騒ぎのようだ。
「おぉ〜、お前すっげぇな! まさか海を操るとは……もう最強だろ」
「これが汎用性の高さなら頭一つ飛び抜けた水の魔力の真骨頂よ。人を殺す手段が沢山あるもの」
「穏やかじゃねぇなぁ」
ハハ……と薄ら笑いを浮かべていたカイルであったが、すぐに気持ちを切り替えて、「じゃあもう一隻は俺が沈めてもいい?」と聞いて来た。
私としても魔力は温存しておきたかったので、これには勿論イエスで答えた。するとカイルは「サンキュ!」と笑って、鼻歌交じりにサベイランスちゃんを操作する。
……ちょっと待って。私はカイルに何をさせようとしているの? 氷の血筋の私ならともかく、カイルはなんて事ない普通の人なのに。
人を殺させてしまってもいいの? やっぱり今からでも私がもう一隻沈めるって言った方がいいのかな。
サベイランスちゃんを操作するカイルの腕を掴み、告げる。
「ねぇカイル、やっぱり三隻目も私がやるわ」
「え、何で? それじゃあお前ばっかり魔力使い過ぎになるだろ、温存しておいた方がいいだろうし俺がやるぞ?」
「でも……このままだと、貴方は人を殺す事になるのよ?」
きょとんとするカイルに向けて、私は本当にいいのかと尋ねる。しかしカイルはケロッとした顔のまま、答えた。
「まぁそうなるな。それがどうした?」
「……へ?」
それがどうした、って……何、その返答は?
「だって人間誰しもいつか死ぬんだからさ、それがアイツ等は今だったってだけの事。他人の死が俺の手によるものか否かとか別にどうでもいいし……少なくとも、アイツ等は何百人のも無辜の民を計画的に殺した奴等だ。そんな奴等を殺した所で何も感じねぇよ」
カイルがこんな考えを持つ人間だったなんて、今初めて知ったけれど……妙に受け入れ難いというか、体がこの思想に賛成する事を拒否しているというか。
こんなの初めてよ、本当に……。
「俺は自分がロクでもない人間だって自覚があるし、俺の所為で誰かが死ぬ事に関してはもう気にしない事にしてるんだよ。だからさ、マジで俺は気にしねぇし……お前にだけ重荷を背負わせる訳にもいかんからな、ここは大人しく俺に任せてくれ」
どこか空元気な様子でそう語ったカイルは、私の頭にぽんっと手を置いて、歯を見せて笑った。
返す言葉が全く見つからず、ただただ彼の背中を見つめ続ける。程なくして、カイルはサベイランスちゃんを起動した。
「いくぜ、サベイランスちゃん。完全犯罪術式《コード・モリアーティ》発動!」
《星間探索型魔導監視装置、仮想起動。魔導変換開始。事前指定、目次参照完了。対象指定、完了。隠蔽術式構成、完了。多重魔法陣、四重に設定完了。各魔法陣の最適化及び融合を開始……完了。術式構成、全行程完了。完全犯罪術式、全てを焼却せよ──発動》
無機質な機械音声が鳴り響く。しかし、私の目には何も見えなかった。海から漂ってくるその禍々しい空気からして、何かが起きているのだろう。だが私の目には見えない。
さっき、カイルといいサベイランスちゃんといいどちらもモリアーティがどうのと言っていたし……サベイランスちゃんに関しては隠蔽がどうのとも言っていた。
もしかしたら私の全反射のように、カイルにもそういった姿を消したりする方法があるのかもしれない。
ボーッとサベイランスちゃんと海賊船を交互に眺めていると、突如として一隻の船が発火した。それもボヤ騒ぎとかそういうちゃちなものではなく、船全体が一瞬にして業火に包まれた。
その炎は凄まじい速度で船を喰らう。大きな船だったのに、それはあっという間に消し炭となり、海賊達も含めて海の藻屑と変えてしまった。
──そして、何よりも恐ろしい事に。海賊船を起点に発生した業火は、海をも焼き尽くそうとしていた。
明らかにおかしい現象。しかしその炎は本当に海を燃やしてゆく。いくらファンタジーと言っても説明しきれないようなイレギュラーに、私は開いた口が塞がらなかった。