だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(シャーリー、今行くからな。何があっても、何に代えてでも、お前だけは絶対に守り抜いてみせる)

 ヘブンは想う。尊敬していた、大恩を抱くたった一人の親代わりの忘れ形見を。
 彼等は想う。スコーピオンの信条も信念も何もかも犠牲にしていいとさえ思う、ただ一人の少女を。
 だからこそ彼等は、

「──全面戦争だ、海賊共」

 何の躊躇いもなくその命を投げ出せる。例えそこで命が散ろうとも、そんなのどうでもいい。
 たった一つの宝物(シャーリー)を救えるのなら。忘れ形見(シャーリー)を守れるのなら。生きる希望(シャーリー)を失わないで済むのなら。こんな命、安いものだ。
 スコーピオンの者達は──……先代の頃よりスコーピオンにいる者達は、そう考えている。
 その覚悟と強い想いが、彼等を海賊との全面戦争へと駆り立てたのだ。
 しかし。ここで、更なる予想外の事態が巻き起こる。

「──ここ……町……?」
「──っ、わたし……本当に戻って……っ、これ……!」
「──おかあさん、おとうさん!!」

 通りのど真ん中。港の人集りからは少し外れた場所で、夜の町に純白の光が輝いた。
 あまりの眩しさに人集りの人々もそれに気づき、注意を向ける。すると、その光の中から近頃行方不明となっていた女子供が九人も姿を見せたのだ。
 それに人々は騒然とした。何せ行方不明となっていた者達が唐突に現れたものだから、人々の関心は完全にそちらに持っていかれるというもの。

 心配する町民に囲まれつつ、何があったかと聞かれた此度の人攫いの被害者達は、皆口を揃えて『海賊に攫われて囚われていた』と話した。そして『金髪の王子様みたいな人が助けてくれた』とも話した。
 これまでの一ヶ月のうちに海賊の所で何があったか、何を見聞きしたのかなどを話し、最後にはこうして解放され救われるに至った経緯を話したのだ。
 ここで町民は気づいた。これまで起きていた行方不明事件が全て海賊の仕業だったのだと。
 誰もが海賊への恨みや怒りを覚える。未だ行方知れずの五名の安否も気がかりだという声が上がる中、スコーピオン幹部の一人であるメフィスが被害者の女性に詰め寄って、

「シャーリー……十歳ぐらいの小さな女の子を知らない? アタシ達にとって凄く大事な子なの……っ」

 必死の形相で尋ねた。しかし被害者の女性はふるふると首を横に振り申し訳なさそうな表情を作った。

「小さな女の子は、あそこにいる子だけだったわ。他の攫われた人達はだいたい私と同じか歳上の人達だったから……」
「っ、そう……ごめんなさい、アナタもきっと辛かったでしょうに、こんな風に問い詰めてしまって」
「ううん。誰だって大事な人を心配する気持ちは同じよ」

 突然町に戻ってきた被害者達の中にシャーリーはいない。その事実に、メフィスはしゅんと項垂れる。そんなメフィスを慰めるように、被害者の女性が優しく言葉をかける。

(あぁ……シャーリー。アタシ達の光……お願いだから無事でいて)

 ぎゅっと瞳を強く伏せるメフィスの頭に、ドンロートルがぼふっと手を乗せて既に乱れていたメフィスの髪を更に乱した。

「──何シケた面してやがる。シャーリーは()達で絶対に取り戻すんだ。こんな所でちんたらしてんじゃねーよ、クソアマ」
「ドル……」

 昼間のおどおどとした様子からは一変し、幹部の一人であるドンロートルは、随分とガラの悪そうな目付きでメフィスに語りかけた。
 柔和でお人好しなドンロートルとは正反対の、夜のみに現れる別人格(もう一人の彼)。呼称はドンロートルの愛称でもあるドル。それはもう口と態度が悪い男だ。

「ドルの言う通りだ。今はいち早くシャーリーを捜し出す事が俺達の役目……後悔なんてしてる暇はない」
「ノウルーもこう言ってんだ、さっさと行くぞメフィス」
「……えぇ。分かったわ」

 そこに幹部の一人であるノウルーが現れ、三人はスコーピオンの列に合流した。
 そして、改めて最後の海賊船目指して彼等は進み始める。その海賊船にて、一体何が起きているかも知らずに。
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