だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「ねぇカイル、この腕輪は何なの? なんか凄く気味悪いんだけど」

 カイルと子供達の所まで歩いて行き、腕輪を手渡す。しばしじっと腕輪を見つめていたかと思えば、カイルは重々しい表情を作り、

「これ……いわゆる古代遺産とかそういう類の魔導具なんだよ。世界中でも両手で数えられる程しか現存が確認されてない、魔導遺産《ロスト・アーティファクト》。この腕輪もそのうちの一つなんだよ」

 腕輪について解説を始めた。

「ほらここの彫刻見てみろ。この部分がな、千年前に超流行ってた特徴的な模様なんだよ。用いられてる塗料に関しては今の技術でも再現不可能で、そういう意味でもこれが魔導遺産《ロスト・アーティファクト》である事はほぼ確だと言える。それに──……」

 それから、十数分に及ぶカイルの魔導具講習会は続いた。その魔導遺産《ロスト・アーティファクト》から始まり、現代の魔導兵器《アーティファクト》に至るまでの魔導具の歴史までペラペラとカイルは語っていた。
 途中までは私もタメになる話だなぁと思っていた。しかし一通り話を聞いていて、あれ? 私今何してるんだっけ?? と現状に不安を覚えたのである。
 そこで私は、「それよりもさ!」と強引に話題を変える。

「さっきの魔法は使うな〜って指示は何だったの? 一瞬凄く焦ったのだけど」
「ああそれは……この子がちょっとな」
「攫われた子達だよね、この子達。あ、そうだ。攫われた人達は皆解放出来たの? まだなら今から行ってくるけど」
「攫われた人達は多分全員解放出来たぜ。この子達含めてな」

 大変だったわァ。とカイルが肩を竦める。何だか軽く言っているけれど、さっきからほとんど微動だにしてないし、足に力が入ってないみたいだから……多分、これは本当に大変だったのだろう。
 やっぱり無茶振りしちゃったわよね。申し訳ない事したなぁ…………今度何かお詫びしよう。

「おにいちゃん、このおねえちゃんは誰? 正義の味方なの?」
「おう。このおねえちゃんも正義の味方で、俺の頼れる仲間だよ」
「そうなんだ……!」

 カイルの背中に隠れていた茶髪の女の子が、瞳を輝かせてこちらを見上げてくる。
 ところで正義の味方って何? 私、そんなヒーローとかじゃないわよ。悪役王女だもの。寧ろ敵よ、敵。

「こっちがミアちゃんでこっちがシャーリーちゃん。で、このおねえちゃんが俺の仲間のアミ…………スミレ。名乗り忘れてたけど俺はルカだよ」
「どうも初めまして、ミアちゃん。このおにいちゃんの仲間のスミレよ」
「はじめまして、ミアです!」

 お互いに挨拶をする流れになったので、とりあえず私は紹介にあずかった通りに挨拶する。
 ミアちゃんは明るくて元気な子のようだ。笑顔が可愛いわ。なんてほのぼのとした気持ちになっていたら、

「ん? あれ? スミレ、ルカ……さっきまで違う名前で呼んで…………」
「「アッ……」」

 随分と鋭い指摘を受けてしまった。
 確かにさっきまでお互い本名で呼び合ってたわ。今更取り繕っても無駄かしら?

「ふふ、私達は正義の味方だからいくつも名前を持ってるものなのよ。そう、あの絵本……えっと、『赤バラのおうじさま』のように!」

 かなり雑な誤魔化し方である。ちなみに『赤バラのおうじさま』というのは今小さなお友達を中心に大人気の絵本で、一国の王子が毎夜城を抜け出しては違う顔や名前となり世の悪を懲らしめてゆく勧善懲悪を説いた絵本。

 どれだけ姿や名前を変えようとも必ず悪を倒した時に赤薔薇をその場に置いていく事から、『赤バラのおうじさま』というタイトルなのだとか。
 この絵本の王子がかなりのイケメンかつ性格までイケメンなので、ちびっこ達の初恋泥棒とまで言われているらしい。
 そんな感じの話を前にメアリーから聞いた。シアンは全く興味無さそうにしていたけれど、メアリーが熱く語っていたから多分間違いない。

 だからこのミアちゃんも『赤バラのおうじさま』読者である事を信じて、私はこう誤魔化したのだ。

「おにいちゃん達ランスロットさまと同じなんだ!!」

 いよっしゃぁ読者確定ありがとう! と、胸中でガッツポーズを作る。
 このランスロットさまというのが『赤バラのおうじさま』主人公の王子の本名である。物凄く聞き覚えのある名前なのだが、創作物だから被る事もままあるのだろう。
 そんなランスロット王子と同じようなものだと適当に誤魔化した結果、ミアちゃんの私達に向ける目は更に光り輝く。

「その赤バラのランスロット? とやらはよく分からんが……とにかく俺達は正義の味方だからな。沢山名前があるんだ。だからさっきのは気にしないでくれよ、ミアちゃん」
「うんわかった! 赤バラのおうじさまは一夜限りの泡沫の姿だから、目が覚めたら夢のように忘れるべきだって絵本にも書いてあった!」
「子供にはとんでもなく難しい事書いてんなぁその絵本」

 ミアちゃんは気合いを入れて忘れる宣言をしてくれたのだが、それが逆にカイルの気になるゾーンに引っかかってしまったらしい。
 だがまあ確かに、以前メアリーから少し見せてもらっただけでも、たまに何故か哲学的な事が書いてあったわよね……あの絵本。『夢とは、そもそも誰が夢と定めたのか』みたいな事も書いてあったわ、そういえば。
 そこそこ長編の大人気シリーズだから、たまに来る謎の哲学タイムも許されるのかしら。
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