だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

216.交渉決裂?2

「それはともかく……私が魔法を使っちゃ駄目な理由って? その子が関わってるってどういう事なの?」

 先程カイルが、シャーリーちゃんと紹介してくれた少女に視線を移し、改めて尋ねる。

「このシャーリーちゃんがな、多分、魔力ナントカ体質ってやつなんだよ。魔力に敏感になる体質で、魔力を浴びるだけで普通の人よりすぐ体調不良になるっぽい」
「へぇ、そんな体質が……だから魔法は使うなって言ったのね?」
「そういう事。お前なら魔法無しでも戦えそうだから頼んでみた」
「あんたねぇ……私をあんた達攻略対象と一緒にしないでちょうだい。私はどれだけ鍛えようとも貧弱なんだから」

 さっきのは運が良かっただけ。と補足すると、カイルは「またまたぁ〜〜」とゴマをすってきた。
 とにかく。シャーリーちゃんの体質の関係で、魔法は使えないと……どうやってこれ町まで帰ろう。転移も何も使えないって事だもんね、つまりこれは。
 頭を悩ませる。するとそこで、カイルが今思い出したかのように短く声を漏らした。

「あ、そうだ。なあなあスミレ、もし良かったら魔力分けてくれない? 実は今、魔力欠乏で気ぃ抜いたら倒れそうなレベルなんよ」
「別にいいけれど……ほら、手出して」
「ん」

 少し骨ばったカイルの手を握り、魔力を流し込むような感覚で少しだけ放出する。
 しかし、魔力欠乏か。そんなにもなるまでカイルは頑張ってくれたのね。また後で色々とお礼しないと。
 暫くカイルの手を握り、魔力に分け与える。彼の顔色が良くなるまでそれを続け、程なくしてその時は来た。カイルの手を放し、私達はこの後どうやって町に戻るかを話し合う事にした。

「お前のお陰で何回か転移出来るだけの魔力は回復出来たが、シャーリーちゃんがいるから下手に魔法も使えねぇし。どうしたものか」
「こういう時師匠とかナトラがいてくれたらなぁ……あの異常な身体能力でぴょーんって陸地までひとっ飛びしてくれそうなのに」
「ぴょーん…………」
「何か文句でも?」
「いえ別に」

 うーん。とまた私達は揃って頭を抱えた。

「シャーリーちゃんから離れた所で、何かの魔法を使って橋を作るとか?」
「それが一番現実的か……」
「でもシャーリーちゃんの体質がどれ程のものか分からない以上、難しいところよね」
「そうなんだよなぁ。もし万が一距離が足りなくてシャーリーちゃんに影響が出たら大変だし」

 この件に関して、大きな問題がある。まず一つ目がシャーリーちゃんの体質の程度だ。その魔力ナントカ体質というものを私は全然知らないのだけど、多分重度であればある程普段から受ける影響というものが大きいのだろう。

 その程度に比例するように、魔力を扱った際に彼女の体に影響を及ぼす範囲……とでも言えばいいのか。その効果範囲のようなものが大きくなると推測する。
 要するに、魔力へと過敏になる──……魔力への耐性を失い、他者よりも魔力をより強く敏感に感じ取るようになる。それが、魔力ナントカ体質なのだろう。

 これが病などではなく体質と呼ばれているのは、それが第六感だとかそういう部類に入るからだと思う。視力がいい、聴力がいい、嗅覚がいい、と似た部類の能力なのだろう、魔力に過敏になる体質というものも。言うなれば、先天的な贈り物のようなものだ。
 だがやはり、このような魔法社会では得よりも損になる事の方が多そうだけど……。

「魔力が関わってる事だし、仕方ないかぁ……師匠を喚ぼう。多分師匠なら何とかしてくれるよ」
「それが最善かねぇ、俺達が思いつく中では」

 カイルもこの苦肉の策には仕方あるまいと納得してくれた。白夜を片手に立ち上がり、私は師匠を喚ぶ為にシャーリーちゃんから距離を取る。甲板の上を駆け抜けて、海賊船の後方にまで来た。
 この師匠を喚び出す手段は、少量の魔力と師匠との繋がりを利用するのでシャーリーちゃんへの影響も少ないと思ったのだ。

 いざお喚び出しをと、白夜で少しだけ手首を切り血を流す。ポタポタと何滴かの血が甲板に落ちてから、そこに白夜を突き立てる。そして最後に、師匠に前教えて貰ったお喚び出しの言葉を口にする。
『いいっすか、姫さん。これはあくまでも念の為のものですからね。もし万が一、俺がいない時に俺の力がどうしても必要になった時にだけ行うよーに。分かりました?』
 そんな風に念押して教えられた、ある合言葉。

「──星を燃やして命を輝かせよ!」

 師匠が作ってくれたという白夜と、私自身を触媒にした擬似精霊召喚。これは師匠が、私が心配だからと師匠を喚び出す時の為だけに作った特別なものらしいので、他の精霊は呼べない。なんならそもそも精霊召喚でもないらしい。

 ただ、精霊を私の元に喚び出す事には変わりないので精霊召喚なのだ。甲板に突き立てられた白夜を中心に、導火線のように魔法陣が描かれてゆく。
 それが完成した時。眩くも暖かい光の柱が立ち上り、光が収まった時には見知った姿がそこにはあって。

「…………どーもこんばんは、姫さん。色々と聞きたい事も言いたい事もあるんですけど、今日は何をお望みで?」
「こんばんは、師匠。あのね、ちょっと手伝って貰いたい事があるの」
「手伝って貰いたい事ぉ? そんなのアイツにやらせりゃいいでしょ。今はカイルとデートとやらじゃないんですか? そもそもどこなんすかね、ここ。つーか今までどこで何してたんすか??」

 妙に言葉に棘があるわね。そして質問責めだわ。それに……何でこんなに不機嫌なのかしら? まあ、突然呼び出されたら誰だって不機嫌にもなるか。
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