だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

219.交渉決裂?5

♢♢


「え、えぇ? 何でスコーピオンがここに?」
「何かこの町を裏で牛耳ってるような組織なんだろ、様子を見に来たとかじゃね?」

 突然のスコーピオンの登場に、私達は戸惑う。
 そこで更に困惑を加速させる出来事が起きた。距離があるから会話が聞こえないのだが、突然、ヘブンがシャーリーちゃんを抱き締めたのだ。それには私達も声にならない驚きが溢れた。

「え、えぇ!? どういう事なの、何が起きてるの今!?」
「ロリっ…………ロリコン集団……?!」

 シャーリーちゃんとミアちゃんの周りにわらわらと集まるスコーピオンの人達を目の当たりにして、ついにはそんな失言まで出てしまう。
 本当に状況が分からないと困惑する私達を見かねて、師匠がおもむろに口を開いた。

「『シャーリー』『無事で良かった』『どうやってここまで来た』『海賊船で何があった?』とか言ってましたよ、あの子供を抱き締めてる男は」

 はっ、そうか……! 師匠は精霊さんだから耳もいいのか……!!
 何と師匠は私達では聞き取れなかった向こうの会話を断片的に話してくれたのだ。お陰様で、私達にも多少は状況が分かる。

「『正義の味方』『王子様みたいなおにいちゃんと勇者様みたいなおねえちゃん』って茶髪の子供が言って──……あ、今あの男が『正義の味方』『スミレ』『名乗ってなかったか?』って言ってたんすけど。何でここで姫さんの偽名が出てきたんすかね?」

 あ、不味い。カジノで年齢詐称して荒稼ぎした事がバレたら流石に怒られるかしら?
 猜疑心が僅かに滲む師匠の瞳が私に向けられる。何と答えようかな〜と迷っていると、ここでカイルがボソリとこぼした。

「…………そういう、事だったのか……」

 まるで何かに納得したような、深みのある声音だった。

「アミレス。シャーリーちゃんとスコーピオンは関係者で確定だ」
「え、何でそんな事が分かるの?」

 カイルがあまりにもハッキリと言い切るので、私はついそのままに聞き返した。

「昨日VIPルームに入る時、あの部屋に凄い違和感を感じたから、実は裏でこっそりサベイランスちゃんを使って解析してたんだよ。あの部屋に展開されてた結界をな」
「もしかして、あのシークレットオーダーってやつ?」

 後ろで師匠が「VIPルーム……?」と怪訝な顔を作っているが、ひとまずは置いておいてカイルの話を聞く。
 確かにカイルはあの時、サベイランスちゃんに向けて何かを言っていた。それがまさか、あの部屋に展開されていた結界の解析だったなんて。そんな事まで出来るの、サベイランスちゃんは?

「そうだ。それで分かったんだけどな、VIPルームを中心にあのフロア全体とかそのレベルの規模の魔法無効化結界が展開されてたんだ。昨日の夜、解析結果を見て驚いたぜ。いくら不正を許さないからって、あの規模の結界を常人には感知出来ない程隠蔽して展開し続けるなんて正気の沙汰じゃねぇよ」

 肩をすぼめてカイルは語る。つまり? と更に聞くと、カイルはシャーリーちゃんとヘブンに視線を向けて、口を切った。

「あれは極限まで人間に影響が出ないよう調整された、魔法封じの結界だ。まるで、そう……シャーリーちゃんみたいな魔力ナントカ体質の人が少しでも快適に暮らせるように、無理をしてでも張り続けているような結界だったんだ。あんな非効率かつ無茶な結界、ただ不正を許したくないって理由だけじゃ展開し続けられないだろうしな」
「──だから、シャーリーちゃんがスコーピオンの関係者だって……そう言ってるの?」

 カイルは深く一度頷いた。遠くに見えるスコーピオンの様子は、確かにシャーリーちゃん達を保護して心から喜んでいるようだった。
 本当にシャーリーちゃんはスコーピオンの関係者で……彼等にとって、そんな大それた結界を展開し続ける程の大きな存在なんだ。私達では到底理解が及ばない程に、大事な存在なのだろう。

 ……なんだ、良かった。シャーリーちゃん達が無事に家まで帰れそうで。
 ミアちゃんはシャーリーちゃんの友達らしいし、きっと二人共もう怖い思いもせずに家まで帰る事が出来る筈だ。私達がこっそり見守らずとも、もうあの子達の安全は保証された。
 本当に良かった……後は、今日の出来事が、少しでもミアちゃんとシャーリーちゃんの心の傷にならないよう祈るばかりだ。

「どうする? 一応このまま家までは見届けておく?」
「約束だからな。必要無さそうではあるが、頑張って気配消して着いて行こうぜ」
「おっけー。師匠もそれでいい?」
「俺はまぁ……姫さんに従いますよ」

 木陰で話し合い、私達はスコーピオン御一行の後ろをこっそり着いて行く事に決定した。約束は約束だから、ちゃんと家に辿り着くまでは見届けたいのだ。
 なんていう風に話し合っているうちに、スコーピオン御一行が町に向かって歩き始めた。私達は目配せして頷き合い、一定の距離を保って彼等の後ろを着いて行った。
 海賊達の返り血が付着したローブは崖上の木々の下に捨てて来た。念の為にと夕方のうちに町で買っておいた安物なので、何も問題は無い。

 だからあまり目立つ事なく尾行も出来ると思っていたのだが……師匠がめっちゃ目立つ。夜中でも目を引く鮮やかな赤髪の美形だから、本当に女性達の視線を独り占めしている。
 海賊船が沈んだからか夜中だというのに多くの町民が外に出て来ている事もあって、本当に師匠が注目を浴びている。
 だがまあ、そのお陰もあってか私とカイルはあまり目立たず海賊船を沈めた張本人とバレる事もなかった。
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