だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

220.交渉決裂?6

「それにしても……帝都と同じかそれ以上に賑やかな町っすね、ここは」
「帝国随一の港町だからね。まぁ……多分今の賑わいは別の理由だろうけれど」

 朝になって町の自警団や漁師達が海賊船の様子を見に行った所……海賊船の周りにはいくつもの死体が浮かび、海賊船の上にも夥しい数の死体が転がり、生き残りの男は恐慌状態でろくに話も出来ないような状態らしい。
 その事で町は大騒ぎ。今や海賊船を襲撃した者が何者かという話し合いと、捜索が行われているみたいなのだ。

 中には、スコーピオン社が動き出していた事から、この町の市場に深く関わるスコーピオン社がついに制裁を加えたのでは? と予想する人達もいたようだが、いかんせん本人達がそれを否定しやがったので、今も尚、自警団は犯人探しを続けている。
 だから少し、内心冷や冷やしているのだ。フォーロイトならまだしも今の私はただの小娘。流石にバレる事はないだろう。そう信じている。

「あ。姫さーん、あの店行きません?」
「いいよ」
「よっしゃ、姫さんに似合うやつ探そーっと」

 ニコニコ顔の師匠に手を引かれて向かった先は、可愛い装飾品が並ぶ服飾店。スコーピオン社傘下の店では無さそうだ。
 店に入るなり、師匠は楽しそうに装飾品を見て回る。周りの視線などものともせず、我が道を進んでいるようだ。
 師匠はお洒落さんだから、やっぱりこういうウィンドウショッピングも楽しいのかな。タランテシア帝国では主流というあの中華風衣装を完璧に着こなし、それに合った耳飾りをいつも耳元で揺らしている。

 その長髪だって、いつも綺麗に三つ編みになっているし……剣以外にも服に対する情熱もあるみたいだから、私が思う以上にオシャレが好きなのかもしれない。
 だって師匠、いつも私のドレス選びの時とか本当に楽しそうに話に参加しているし。オシャレ好きとしか考えられないわ。

「これとかどうですか? 今の姫さんなら結構アリだと思いますけど」
「まあ、大きなルビーね」

 熟考していた師匠が見せてきたのは、大きなルビーを大胆に使ったネックレス。今の私……というと、紫色の髪に赤いドレスの私ね。確かにいつもならともかく、今ならばこういう赤い宝石だっていけるかもしれない。
 流石は師匠だと思っていた時、

「いやぁお客様お目が高い!」

 どこからともなく店員さんが現れた。「そちらの宝石は当店でも一二を争う大きさそして輝きのものでして、その輝きと美しさを最大限生かすべくデザインされたのがそのネックレスなのです!!」と凄まじい熱意の店員さんに、私はついつい気圧されてしまう。
 そんな私と違い、師匠はケロッとした顔で「んなの見れば分かる」と店員さんを軽くあしらった。
 だがしかし、流石はその道のプロと言うべきか……店員さんはめげずに営業トークを繰り広げる。

「流石はお目が高いお客様です! 実はそのネックレスはこのルーシェでも彼以上の者がいないと評判の職人が一ヶ月以上もかけて作り上げたまさに至高の作品! いいや芸術と呼ぶべきもの! お連れのお嬢さんに大変お似合いでございますとも! えぇ!!」

 声が大きいなぁ、この店員さん。そこまでして師匠にこのネックレスを買わせたいのかしら。
 見たところ、このルビーは確かに本物だし彼の言葉に間違いはないみたいだけれど…………その素晴らしさ故につい値段を高くつけすぎてしまい、売れ残って大変……みたいな感じかも。

 そこに現れた異国の衣装を着た身なりのいい美形。店側からすれば鴨がねぎを背負って来たようなものなのかもしれない。
 しかし、ここの支払いは私がするので彼の努力はあまり意味が無いのだ。師匠は精霊さんだからお金とか持ってないだろうし。

「半分ぐらいコイツの話は聞いてなかったけど、まぁー、この宝石は良さげだしなァ……買うか」
「お買い上げありがとうございまぁああああす!!!!」
「あ、買うんだ」

 師匠は相当あのネックレスを気に入ったのか、購入を決意。それにより店員さんは気色満面で腰を九十度に曲げた。本当に心底喜んでいそうな声音である。
 まぁ、師匠がそれでいいのなら別にいいと思うけれど。

 今の私はお金もいっぱい持ってるから大きな買い物も特に問題は無い。何せカジノでめちゃくちゃ儲けたのに、カイルは二割しか受け取ってくれなかったのだ。『元手はお前が出したんだから』と言ってほぼ全て私に押し付けて来たので、私の部屋には大金があるし今だって手に持っている少し大きめのハンドバッグにはそこそこの大金が入っている。

 ここでついでに師匠やシルフへのプレゼントでも買おうかしら……。皆へのお土産は昨日買ったけれど、実はまだ二人へのお土産は買えていないのだ。高い宝石を一つ買うと決まっているのだから、もう二つや三つ増えても変わらないでしょう。
 ……うーん。何をあげたら喜んでくれるのかしら。二人共私があげた物なら、物珍しいのか何でも無条件に喜んでくれるヒトだからなぁ。それでもやっぱり少しでも喜んでもらえそうな物をと思うのだけれど。

 本当に分からないわ、こういうの。毎年フリードルの誕生日然り誰かの誕生日然り……誰かに何かを贈るってなった時、決まって悩むのよね。センスが無いから。

「これとか……どうかなぁ……」

 まず目をつけたのは青紫色の宝石が使われた耳飾り。師匠は普段から赤いものを好んで身につけているので、たまにはこういう寒色系もありかなぁと思ったのだ。
 優柔不断な私は悩めば悩む程決められなくなるので、師匠へのプレゼントはこれで決まり。近くにいた女性店員にこれを包むよう伝えて、次にシルフへのプレゼントを探す。
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