だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 師匠曰く、本物のシルフは精霊さんの中でも特に綺麗らしいので……正直なところ、果たして人間界で作られた装飾品がシルフの輝きに見合うのかが不安で仕方無い。シルフに装飾品を贈るの、控えめに言って博打要素が強すぎるわ。
 そもそも本物のシルフがどれぐらいの身長で、どれぐらいの体格なのかも知らないので指輪やブレスレットは駄目だ。あげるならやっぱりネックレスか耳飾りで…………使いやすさならネックレスかな。

 シルフは何色が好きって言ってたかなぁ〜〜、青って言ってたっけ? 前に青い紅茶があるって話をしたら興味を示してたし。いやあれは単純に紅茶への興味か。
 まぁ、多分青って言ってた気がするから青色の宝石にしよう。このネックレスとかいいわね、小ぶりでシンプルだけれど、きちんと宝石が美しく輝いているわ。

 よし、これにしよう。とこちらも購入。ただ少し金色のチェーンが合わない気がしたので、ものの試しに店員さんに「すみません、このネックレスのチェーンを銀色のものに変えられますか?」と問い合わせた。すると店員さんは「はい。可能です」と頷いて、店の奥にネックレスを持って行った。
 まさか本当に可能とは思わず、やるなぁこの店……と感心しながら待っていると、

「姫さん、お待たせしました。こちらをどーぞ」
「え? ……あ、さっきのネックレス。って、買ったの? 師匠が……!?」
「何をそんなに驚いてんですか? ちゃんと買いましたよ、普通に」

 私の首元で輝く先程のルビーのネックレス。師匠が手馴れた動きで鮮やかに私の首元につけたのだ。そして手渡された領収書のような物。
 それよりも驚く事があった。師匠がなんとこのネックレスの会計を済ませたのだという。しかし私には分からない。師匠、お金持ってたの? そもそも会計方法とか知ってたの??

「師匠……お金とか持ってたの? そもそもお金って文化を知ってたんだ…………」

 なんとも失礼な言い方ではあるが、師匠は本当に知らなさそうな感じだったのだ。人間界も人間も好きだけど人間界の文化には実の所あんまり興味が無い……みたいなヒトだから。

「随分な言われようっすねぇ。一応、この国の金はある程度持ってますよ。何せ数年前からシルフさんとかハイラが『いざという時に敵対派閥の主事業を停止させられるよう、多くの事業へ投資しておこう。懇親会に何度も参加する事で投資家同士の繋がりを掌握し、邪魔になれば他の者達も巻き込んで投資を止めて事業を潰せばいい』みたいな事言ってその手の事そこそこ俺にやらせてたんで…………いわゆる投資で儲けてた感じですね。帝国と無関係な俺がやる方が都合が良かったみたいです」

 ここに来て全く知らない話が出て来た。そんな事してたの? 何それ怖いんだけど本当に何してるの皆で?!

「姫さんの敵になりそうな奴等の情報をハイラが集めて、ソイツ等の事業を潰せるよう実働班が投資家を装って近づき、内側からぶっ壊すって流れだったかな……関係者全ての弱味を握ってただ関係をぶち壊してただけっすね」

 何それ怖い。死神じゃないのそんなの。

「実際に懇親会とかに行ってたのはハイラの部下なんで、俺がやってたのは謎の投資家として金を動かす事とその金を管理する事ぐらいっすね。何せシルフさんから人間界でうろちょろすんなって言われてたんで」

 実行犯ではない……協力者としてその看板を背負う事を任されていたのね。だとしてもやばいわ。ハイラもシルフも師匠も三人で何を暗躍しているのよ。本当に知らなかったんだけど。
 数年前から、って事はまだマクベスタとも会ってない頃かしら。何だか私だけ仲間外れにされていたようで、無性に腹立つわね。

「それで俺が管理を任されてる金をちょっと精霊界(ふところ)から取り出して会計を──……って、どうしたんすか姫さん? そんなちびっ子みたいに頬膨らませて。可愛いけども」

 ツン、と私の頬に人差し指を当てながら、師匠は首を傾げた。ぷいっと顔を逸らして私は拗ねてるんですアピールをしていると、「姫さん?」「ひーめさぁーん?」と師匠が声をかけてきたのだが、とりあえず腹いせにちょっと無視しておく。

 するとそこでタイミング良く店員さんが戻って来て、銀色のチェーンになったネックレスを見せてくれた。
 やっぱりこっちの方がいいわね! と期待通りの色合いに満足し、二つの品の会計をした。お値段もそりゃそうだと納得の金額。綺麗に包装してもらったそれを手に、先程の声が大きい店員さんのお見送りを受けながらお店を出た。

「はい、師匠。こちらプレゼントになります」

 店を出て少し歩いた所にベンチがあったので、それに座って師匠に耳飾りを渡す。師匠は目を丸くして、それを受け取った。

「プレゼント……俺に?」
「せっかく港町に来たんだからって皆にお土産を買っててね、これが師匠の分という事で」

 さっき買った装飾品なんだけど……と付け加えると、師匠は何かに納得したように「あぁ」と声を漏らして、箱を開けた。

「俺が買い物してる間に姫さんも何か物色してんなァとは思ってましたけど、これだったんすね」
「うん。ついでで買ってしまったようで少し申し訳無いんだけど……それでもちゃんと師匠の事を考えて選んだ物なので!」
「はは、そりゃ嬉しいっすねぇ」

 そして開かれた箱。師匠は中に入っている青紫の宝石を用いた耳飾りを手に取り、パチパチと何度か瞬きをしていた。
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