だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

222.暗躍はおしまい?

 アミレスが帰って来た。帰宅方法は勿論カイルとサベイランスちゃんによる瞬間転移。
 突然消えたエンヴィー、そして金髪にフォーマルな装いのカイルと共に、見慣れぬ赤いドレスを身に纏い紫色の髪を揺らして、アミレスはやけに上機嫌な様子で帰って来たのだ。
 そりゃあもう、東宮に取り残されていたシュヴァルツ、ナトラ、イリオーデ、マクベスタは大喜び──ではなく。二日も連絡なしに外泊していたアミレスへの不満と、アミレスと三日間もデートをしていたカイルへの怒りが溢れた。

「ただいま〜、皆にお土産買ってき──……」

 留守番組へのお土産を入れた袋を掲げ、何も知らないアミレスがのこのこと東宮に帰宅すると。

「おかえりぃおねぇちゃんーーーっ!!」
「我を置いて数日間もどこほっつき歩いておったのじゃこの馬鹿者!!!!」
「王女殿下…………っ!」
「ようやくアミレスが帰って来た……良かった……」

 まずシュヴァルツに飛びつかれる。常人では避けられる筈のない速度で突撃し、アミレスは「ぐふぅっ!?」とカエルが潰されたような声を漏らし、「し、シュヴァルツ……今日も凄く元気だね…………」とシュヴァルツを何とか受け止めた。

 しかしまだ終わりではない。続いてはナトラがアミレスに詰め寄り、ポコポコバシバシとアミレスの背中を叩くのだ。ナトラが見た目通りの幼女であったら問題は無かった事だろう。しかしナトラは竜だ。故に、アミレスの背中からは今にも骨が砕かれそうな音が聞こえてくる。
 前方からシュヴァルツの突撃、後方からナトラの打撃と来て、

(何で私、家に帰って来てからの方が負傷してるのかしら……??)

 アミレスは眉を顰めていた。
 そこに追い打ちをとばかりにやって来るのは、今にも泣き出しそうな二人の男。彼等はアミレスが何事も無く無事に戻って来た事が一番喜ばしいようで、シュヴァルツとナトラのように物理的に文句を言ったりはしないものの……その純粋な心配を以て、無意識にアミレスの良心を責め立てる。

(う……流石に何も言わずに数日間外泊してたのは駄目だったわよね。せめて一度、連絡とかしておけばよかった……)

 流石のアミレスとて、信頼する騎士と友人にこんな顔をさせてしまっては良心が痛むというもの。少しは反省しているようだ。……もっとも、彼等の怒りはそれとは別の事へのものなのだが。

「ねぇおねぇちゃん! 今まで三日間もどこで何してたの! あとなんでエンヴィーと一緒に戻って来たのか教えてよ!」
「うーん……えっとね。普通に港町の観光をしてて、トラブルが起きて師匠の手を借りたくなったから、師匠だけちょっと喚んだんだよね」
「何でそこの精霊だけなの!! ぼくだって呼べよ、呼ばれたらすぐ行くのに!!!!」
「いや、どうやって……?」
「どうにかして行くし。何がなんでも行くしぃ!」

 何もかも思い通りに行かずまるで子供のように駄々をこねるシュヴァルツに、アミレスは困惑しながらも悟る。

(もしかして……シュヴァルツも港町に行きたかったのかしら。海の無い内陸の国出身とかだったら、海は凄く珍しいからな。またいつか改めて皆でルーシェに行こうかな)

 そこそこ見当違いである。
 ──まあ、シュヴァルツがどこの国出身か知らないけども。と勝手に自分の中で結論を出し、アミレスは慈愛に満ちた顔でシュヴァルツのふわふわの頭を撫でた。

「エンヴィーお前裏切りおったか! 何やら突然『あっ、これはー……』とか意味深な言葉を残して消えたかと思えば、自分だけアミレスの所に行っておったなど許せん死ねぃ!!」
「嫌に決まってんだろ。こればっかりは姫さんにもしもの時の召喚方法を教えておいた俺の先見の明の勝利だわァ〜」
「お前超むかつくのじゃ、ほんっとにむかつくから今から殺してもいいか?」
「殺れるもんなら殺ってみろよ、竜種」

 自分だって、昨夜アミレスに召喚された時は不機嫌MAXでカイルへの苛立ちを隠そうともしなかったのに……一晩かけてアミレスに色々と文句を言ったからもう満足したのか、エンヴィーは自分の事は棚に上げ、何故か勝ち誇った顔で鋭く眉尻を釣り上げるナトラをあしらっていた。

 火の最上位精霊と緑の竜による殺し合いなんてもの、人間界からすれば天災以外の何物でもないのでやめて欲しい。エンヴィーの正体はともかく、精霊対竜種の戦いの災害っぷりたるや…………実際に起こり得ずとも想像に難くないそれを分かっているからこそ、アミレスは「あなた達が戦ったらこの国滅ぶからやめてね」と柔らかい言葉で二体を制止した。
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