だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 ハーツは普段から好んで赤い服を着たり、髪の一部を赤く染めたりと健気なアピールをしているのだが、色恋に欠片も興味を抱かないエンヴィーはそれに全く気づかなかった。
『なんかハーツって俺にだけ態度変えるよな……嫌われてんのかね、俺』
 とかふざけた事吐かすレベルである。

「エンヴィーええとこに来たなぁ、見ての通り危険な状況やねんけど助けてくれへんか?」
「どーせお前がまた余計な事したんだろ。なんで俺がお前の事助けてやらないといけねーの」
「十字海岸」
「…………」

 エンヴィーの体がピタリと動きを失う。それを見てハノルメは不敵に笑った。
 最初は全くハノルメを助ける事に乗り気ではなかったエンヴィーだが、ハノルメがボソリと呟いたそれを聞き、嫌々行動に出た。
 この十字海岸という言葉は、数年程前にエンヴィーが怒りのあまり大火災を起こしかけた場所の事である。場所は星の城からも程近い精霊界では有名なデートスポット。

 星空の下、アミレスが父や兄に殺されるぐらいならシルフの手で死にたい──。そう、語っていた事をシルフから聞いたエンヴィーは、その怒りが爆発して権能が僅かに暴走。あわや海岸を燃やし尽くす所であった。
 当時、エンヴィー自身の暴走はシルフの叫びで止まったものの……海岸は既にそこそこの大火災。しかも火の権能まで発動していたとあれば並の存在には太刀打ち出来ない。その火が凄まじい速度で燃え広がろうというのを阻止したのが、偶然にも近くを通りかかったハノルメだったのだ。

 それ以来、ハノルメは困った事があるとこうして十字海岸をネタにエンヴィーを脅すようになった。脅すと言っても、このようにささやかな内容だが。

「はぁ…………あー、そーゆー事だから。ハノルメニテヲダスナー」
「え、ちょっと雑すぎひん??」

 ハノルメの脅迫に屈したエンヴィーは、ウィニグ達とハノルメとの間に割って入った。そしてこの棒読みである。しかしこれだけでも十分効果はある。
 何せエンヴィーは精霊位階三位にして、四大属性の中でも最も強い火の最上位精霊。そして何より──諸事情で精霊王より様々な特例を許されている。そんな存在相手では、いくら最上位精霊が何体か束になろうとも勝てる見込みが無いのだ。

 エンヴィーの存在により、一気に形勢は逆転する。流石に四大属性の最上位精霊二体(それも精霊位階三位と六位)を相手にしようとは彼等も思わないらしい。
 仕方なく彼等がハノルメから手を引くと、もじもじとしながらハーツがエンヴィーの前に出て。

「や……やっほー、エンヴィー。その……久しぶり」
(も〜〜〜! ウチの馬鹿! もっと他に言う事あったぢゃん! 今日もカッコイイとか素敵とか!!)

 エンヴィーに会うのが久々のようで、ハーツは耳まで赤くして懸命に挨拶した。ぎこちない笑顔に、彼女らしくない弱気な仕草。好きなヒトの前だとどうにもいつもの様に振る舞えないらしい。

「まあ確かにお前と会うのは前回の上座会議以来だな」
(だってコイツ、俺の事嫌いみたいだし。用もねーのにわざわざ会う必要もねぇよな)

 相手が自分を嫌っているのに会う必要なんてどこにも無い。そう、エンヴィーは冷静に考えていた。もっともそれは勘違いなのだが。

(……頑張りなさい、ハーツ! だって久々にエンヴィーとこんなに話せてるんだから! 今日こそは──エンヴィーとお茶会したいし!!)
「あ、ああのっ! エンヴィー……その、この後予定とかって……!」

 鈍感なエンヴィーはともかく、周りの者達はハーツの気持ちにとっくに気がついている。それ故に固唾を呑んでハーツの頑張りを見守っていた。
 そして、ハーツが意を決してエンヴィーの予定を聞き出そうとすると、

「予定? 我が王に色々報告したら仕事に戻るけど、それがどうした」

 エンヴィーはバッサリと彼女の決心を切り捨てた。
 元よりエンヴィーは精霊王(シルフ)に会う為に精霊界に戻って来たのだ。その用事が片付いたら、シルフから命じられているのですぐにでも人間界──アミレスの元に戻る事だろう。
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