だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
先日……と言っても二日程前なのだが、私はケイリオルさんから『皇太子妃選定が始まったので、王女にも婚約者を用意しようかと思っている』との話を聞いた。それについてどう思うかと聞かれたので、ひとまず話を持って帰らせて貰う事にした。
そして一晩二晩と寝かせて、私なりの答えを出したのだ。
「……お返事をいただけるという事でよろしいのでしょうか?」
「はい。私──婚約者は必要ありませんわ」
「「!?」」
息ぴったりに、イリオーデとアルベルトは胸を撫で下ろしていた。何にホッとしたのかは分からないけれど、仲良いわね二人共。
「もしや、既に意中の方がいらっしゃるとか?」
「いいえ違います。そんなもの、私にはいませんよ」
「ではどうして婚約者を不要とするのでしょうか」
ケイリオルさんの質問を受け、首を横に振る。多分イリオーデ辺りは何度も聞いている私の考えをケイリオルさんにも伝えよう。
「誰かを、私の人生に巻き込みたくないからです。明日があるかも分からない人生で軽率に永遠を誓って、もしもの時、相手を悲しませたり苦しませたりしたくないんです」
本当は騎士の誓いも、さっきの誓いも、どちらもあまり気乗りはしなかった。だってどちらも私の人生に相手の人生を縛り付ける事だから。
「結婚とは永遠を誓う約束でしょう? 私、守れない約束はしない主義なんです」
しんっ……と時が止まったかのように静まり返る。
そんな中、ケイリオルさんが静寂を打ち破った。
「…………分かりました。では、王女殿下に婚約者をご用意する件については一度白紙に戻します。元よりこれは貴女の心次第でしたので、白紙に戻っても……問題はありません。ですのでどうかお気になさらず。寧ろ、気を揉ませてしまい申し訳ございませんでした」
布を揺らし、ケイリオルさんは頭をゆっくりと下げた。謝るべきは私の方なのに……こうでもしないと永遠に出会いとかが無さそうな私を心配して、ケイリオルさんは相手を宛がおうとしてくれたんだろうに。
それをこんな自分勝手な理由で断ってしまって、本当に申し訳ない。
「私は今度こそ失礼させていただきます。それではご機嫌よう、王女殿下」
「……えぇ。あまり無理はせず、適宜休んで下さいね。ケイリオル卿」
妙な気まずさから、笑顔が固まっていた気がする。ぎこちなかっただろうか、下手くそだっただろうか。それでも無いよりかはマシだと信じて、笑顔で手を振りケイリオルさんを見送る。
皇帝の側近だからとか、忙殺されているからとか、そういう訳ではなく……ケイリオルさんにはあまり迷惑をかけたくなく、て──
「……ッ!?」
ドクンッ! そう、突然、全身を強い衝撃が貫いた。
今、一瞬。視界にノイズのようなものが走ったかと思えば、ケイリオルさんが皇帝に見えた。髪の色も姿勢も歩き方も声も話し方も違うのに、ただ背丈がそっくりと言うだけで。
コツコツと。わざと立てているような規則正しい足音を廊下に響かせて、彼は遠ざかってゆく。
そんな最悪の見間違いで、私は凄まじい恐怖を覚えていた。
まるでゲームでのアミレスのように……彼への、皇帝の側近への恐怖心を取り戻させようとする強制力が働いているかのようだった。
誰かに脳をかき混ぜられているかのように、思考がぐちゃぐちゃになる。この世界は、今更ゲームのシナリオ通りになる事を望んでいるというの……?
ずっと恐れていた事態。悪意のある何者かの介入が、ついに、起きてしまった。
「ぁ……あぁ…………」
私、は。
「あな、たに……また、殺される…………の……?」
呼吸が出来ない。震えと恐怖で心臓がおかしくなってしまった。その脳裏で再演されるあのバッドエンド。
愛するお父様の為に頑張ったのに、力不足だった私は、お父様に信頼されるような御方の手で、死んだ。
心臓を一突き。お父様や兄様の持つような剣に似たとても冷たい刃で、私は一瞬にして命を刈り取られた。
「──下! ──殿下!?」
「──主君! ──主君!!」
薄れゆく意識の中。仮面の隙間から綺麗な青い瞳で私を見下し、そノ人ハ言っ……タ。
わタし、ガ、おとウさマにとッテ、ム、スメ……ダッたこと、ハ。いチドも、なカッた、っテ───。
「──!!」
「──!?」
最後にほんの一瞬だけ……もう遠ざかっていたケイリオルさん、がこちらに気づいていたように見えた。彼らしくもなく廊下を走って。
ああ、これ以上は何も分からない。その光景を最後に、視界が真っ暗になった。
記憶の再演《フラッシュバック》は幕を下ろし、それと同時に、私の意識は故障した古いテレビのようにあっさりと途切れてしまった。
そして一晩二晩と寝かせて、私なりの答えを出したのだ。
「……お返事をいただけるという事でよろしいのでしょうか?」
「はい。私──婚約者は必要ありませんわ」
「「!?」」
息ぴったりに、イリオーデとアルベルトは胸を撫で下ろしていた。何にホッとしたのかは分からないけれど、仲良いわね二人共。
「もしや、既に意中の方がいらっしゃるとか?」
「いいえ違います。そんなもの、私にはいませんよ」
「ではどうして婚約者を不要とするのでしょうか」
ケイリオルさんの質問を受け、首を横に振る。多分イリオーデ辺りは何度も聞いている私の考えをケイリオルさんにも伝えよう。
「誰かを、私の人生に巻き込みたくないからです。明日があるかも分からない人生で軽率に永遠を誓って、もしもの時、相手を悲しませたり苦しませたりしたくないんです」
本当は騎士の誓いも、さっきの誓いも、どちらもあまり気乗りはしなかった。だってどちらも私の人生に相手の人生を縛り付ける事だから。
「結婚とは永遠を誓う約束でしょう? 私、守れない約束はしない主義なんです」
しんっ……と時が止まったかのように静まり返る。
そんな中、ケイリオルさんが静寂を打ち破った。
「…………分かりました。では、王女殿下に婚約者をご用意する件については一度白紙に戻します。元よりこれは貴女の心次第でしたので、白紙に戻っても……問題はありません。ですのでどうかお気になさらず。寧ろ、気を揉ませてしまい申し訳ございませんでした」
布を揺らし、ケイリオルさんは頭をゆっくりと下げた。謝るべきは私の方なのに……こうでもしないと永遠に出会いとかが無さそうな私を心配して、ケイリオルさんは相手を宛がおうとしてくれたんだろうに。
それをこんな自分勝手な理由で断ってしまって、本当に申し訳ない。
「私は今度こそ失礼させていただきます。それではご機嫌よう、王女殿下」
「……えぇ。あまり無理はせず、適宜休んで下さいね。ケイリオル卿」
妙な気まずさから、笑顔が固まっていた気がする。ぎこちなかっただろうか、下手くそだっただろうか。それでも無いよりかはマシだと信じて、笑顔で手を振りケイリオルさんを見送る。
皇帝の側近だからとか、忙殺されているからとか、そういう訳ではなく……ケイリオルさんにはあまり迷惑をかけたくなく、て──
「……ッ!?」
ドクンッ! そう、突然、全身を強い衝撃が貫いた。
今、一瞬。視界にノイズのようなものが走ったかと思えば、ケイリオルさんが皇帝に見えた。髪の色も姿勢も歩き方も声も話し方も違うのに、ただ背丈がそっくりと言うだけで。
コツコツと。わざと立てているような規則正しい足音を廊下に響かせて、彼は遠ざかってゆく。
そんな最悪の見間違いで、私は凄まじい恐怖を覚えていた。
まるでゲームでのアミレスのように……彼への、皇帝の側近への恐怖心を取り戻させようとする強制力が働いているかのようだった。
誰かに脳をかき混ぜられているかのように、思考がぐちゃぐちゃになる。この世界は、今更ゲームのシナリオ通りになる事を望んでいるというの……?
ずっと恐れていた事態。悪意のある何者かの介入が、ついに、起きてしまった。
「ぁ……あぁ…………」
私、は。
「あな、たに……また、殺される…………の……?」
呼吸が出来ない。震えと恐怖で心臓がおかしくなってしまった。その脳裏で再演されるあのバッドエンド。
愛するお父様の為に頑張ったのに、力不足だった私は、お父様に信頼されるような御方の手で、死んだ。
心臓を一突き。お父様や兄様の持つような剣に似たとても冷たい刃で、私は一瞬にして命を刈り取られた。
「──下! ──殿下!?」
「──主君! ──主君!!」
薄れゆく意識の中。仮面の隙間から綺麗な青い瞳で私を見下し、そノ人ハ言っ……タ。
わタし、ガ、おとウさマにとッテ、ム、スメ……ダッたこと、ハ。いチドも、なカッた、っテ───。
「──!!」
「──!?」
最後にほんの一瞬だけ……もう遠ざかっていたケイリオルさん、がこちらに気づいていたように見えた。彼らしくもなく廊下を走って。
ああ、これ以上は何も分からない。その光景を最後に、視界が真っ暗になった。
記憶の再演《フラッシュバック》は幕を下ろし、それと同時に、私の意識は故障した古いテレビのようにあっさりと途切れてしまった。