だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「王女殿下の寝台《ベッド》の準備は出来ているか?」
「勿論じゃ。真っ黒男が必死な顔で伝えに来たからの、我等で完璧に整えておいたわい。じゃから今すぐにでもアミレスを寝かせられるぞ」
「そうか。ならば急ごう」
イリオーデ卿は少女と短く言葉を交わし、東宮に入ってゆく。その際一瞬だけ彼は私を横目に一瞥し、すぐに前を向いた。
まるで、『まだ着いてくるのか?』と言いたげな視線。彼女が倒れた原因が私にもあるかもしれない以上、ここで引く訳にはいかない。
だから私は数年振りに東宮に足を踏み入れた。深刻な人員不足(こちらがどれだけ侍女や執事を配置しようとしても断られてしまうのです)である事を感じさせない、手入れの行き届いた宮殿内。
彼女の私室に辿り着くと、ルティを始めとして何人もの人々が部屋の中で待っていた。
「おねぇちゃんどうしちゃったの? なんでまた、おねぇちゃんが倒れて……」
「確かにそれも気になるが、今はそれよりもアミレスを休ませる事が優先事項だろう。師匠も手伝ってくれ」
「あたりめーだ。姫さんが倒れたってのに何もしない訳にはいかねぇよ」
「とにかく応急処置だ。アイツが倒れた時、頭打ってたりしてなかったか?」
……どういう事でしょうか。この場だけで三人も、何も視えない人がいる。
白髪の少年と、赤髪の青年と、同じく赤髪の少年。
白髪の少年は全ての文字を黒く塗り潰されているような感じで、赤髪の青年は先程の少女と似たような感じがします。最後に赤髪の少年は……何かを視ようとした眼をそもそも塞がれてしまったかのような暗闇。これは、彼女と同じだ。
「えっ、アンタまさか……?!」
赤髪の少年が私の姿を見て頬をビクつかせる。この少年と彼女に一体どのような共通項があるのかを究明しなければならない。だが、今ばかりは彼に気を向けている訳にもいかない。
今最も重要な事は、マクベスタ王子が仰ったように彼女を休ませる事ですから。
伏せられた瞳から涙を滲ませて、彼女は静かに眠っていた。その涙を見ると、酷く胸を締め付けられる思いになる。
覚えの無い記憶に、心を惑わされる。
「──ひとまずは、これでいいだろうか……」
「主君の容態が安定しているように見える分、ますます原因が分からない」
「オレ達にやれるだけの事はした。後は一日でも早くアミレスが目覚める事を祈るばかりだが……」
「前例があるもんねぇ、おねぇちゃんには」
「……また、アミレスが何週間も目覚めなくなってしまったら。我、嫌なのじゃ…………」
「ったく、姫さんは何故こうも急に倒れるんだ。持病の類は無いんじゃなかったのか?」
「……そりゃ倒れたい程の何かがアイツに起こったって事だろうな」
天蓋の下静かに眠る彼女の周りで、彼女の味方と思しき者達が次々に言葉を発する。その最後、赤髪の少年が放った言葉に、私は先程イリオーデ卿が思い浮かべた言葉を思い出した。
『あの言葉』という、彼女が発したらしい何か。それの所為で、 彼女が倒れた原因が私にあると思われているらしいのです。
「イリオーデ卿」
「……何でしょうか」
「先程貴方が仰っていた、『あの言葉』とは一体どのような言葉だったのですか」
イリオーデ卿の懐疑に満ちた鋭い視線が、私を貫いた。恐らく彼視点では私が『原因』ですから、この反応も仕方の無い事でしょう。
「『あなたにまた殺されるの?』」
ボソリと、物々しい面持ちでイリオーデ卿は零した。その瞬間、全身の毛が逆立つような緊迫感が部屋を包み込む。
「そう、王女殿下は仰った。苦しそうに息をしながら、卿の背中を見て……!」
「その言葉は俺も聞いた。何か心当たりはありますか、各部統括責任者殿?」
そのような事を言われても…………心当たりなんて特に無い。そう、口にしようとした時だった。
「ッ!?」
これまでの人生で一度も味わった事がないような激痛が、私の頭を襲った───。
「勿論じゃ。真っ黒男が必死な顔で伝えに来たからの、我等で完璧に整えておいたわい。じゃから今すぐにでもアミレスを寝かせられるぞ」
「そうか。ならば急ごう」
イリオーデ卿は少女と短く言葉を交わし、東宮に入ってゆく。その際一瞬だけ彼は私を横目に一瞥し、すぐに前を向いた。
まるで、『まだ着いてくるのか?』と言いたげな視線。彼女が倒れた原因が私にもあるかもしれない以上、ここで引く訳にはいかない。
だから私は数年振りに東宮に足を踏み入れた。深刻な人員不足(こちらがどれだけ侍女や執事を配置しようとしても断られてしまうのです)である事を感じさせない、手入れの行き届いた宮殿内。
彼女の私室に辿り着くと、ルティを始めとして何人もの人々が部屋の中で待っていた。
「おねぇちゃんどうしちゃったの? なんでまた、おねぇちゃんが倒れて……」
「確かにそれも気になるが、今はそれよりもアミレスを休ませる事が優先事項だろう。師匠も手伝ってくれ」
「あたりめーだ。姫さんが倒れたってのに何もしない訳にはいかねぇよ」
「とにかく応急処置だ。アイツが倒れた時、頭打ってたりしてなかったか?」
……どういう事でしょうか。この場だけで三人も、何も視えない人がいる。
白髪の少年と、赤髪の青年と、同じく赤髪の少年。
白髪の少年は全ての文字を黒く塗り潰されているような感じで、赤髪の青年は先程の少女と似たような感じがします。最後に赤髪の少年は……何かを視ようとした眼をそもそも塞がれてしまったかのような暗闇。これは、彼女と同じだ。
「えっ、アンタまさか……?!」
赤髪の少年が私の姿を見て頬をビクつかせる。この少年と彼女に一体どのような共通項があるのかを究明しなければならない。だが、今ばかりは彼に気を向けている訳にもいかない。
今最も重要な事は、マクベスタ王子が仰ったように彼女を休ませる事ですから。
伏せられた瞳から涙を滲ませて、彼女は静かに眠っていた。その涙を見ると、酷く胸を締め付けられる思いになる。
覚えの無い記憶に、心を惑わされる。
「──ひとまずは、これでいいだろうか……」
「主君の容態が安定しているように見える分、ますます原因が分からない」
「オレ達にやれるだけの事はした。後は一日でも早くアミレスが目覚める事を祈るばかりだが……」
「前例があるもんねぇ、おねぇちゃんには」
「……また、アミレスが何週間も目覚めなくなってしまったら。我、嫌なのじゃ…………」
「ったく、姫さんは何故こうも急に倒れるんだ。持病の類は無いんじゃなかったのか?」
「……そりゃ倒れたい程の何かがアイツに起こったって事だろうな」
天蓋の下静かに眠る彼女の周りで、彼女の味方と思しき者達が次々に言葉を発する。その最後、赤髪の少年が放った言葉に、私は先程イリオーデ卿が思い浮かべた言葉を思い出した。
『あの言葉』という、彼女が発したらしい何か。それの所為で、 彼女が倒れた原因が私にあると思われているらしいのです。
「イリオーデ卿」
「……何でしょうか」
「先程貴方が仰っていた、『あの言葉』とは一体どのような言葉だったのですか」
イリオーデ卿の懐疑に満ちた鋭い視線が、私を貫いた。恐らく彼視点では私が『原因』ですから、この反応も仕方の無い事でしょう。
「『あなたにまた殺されるの?』」
ボソリと、物々しい面持ちでイリオーデ卿は零した。その瞬間、全身の毛が逆立つような緊迫感が部屋を包み込む。
「そう、王女殿下は仰った。苦しそうに息をしながら、卿の背中を見て……!」
「その言葉は俺も聞いた。何か心当たりはありますか、各部統括責任者殿?」
そのような事を言われても…………心当たりなんて特に無い。そう、口にしようとした時だった。
「ッ!?」
これまでの人生で一度も味わった事がないような激痛が、私の頭を襲った───。