だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 騙すつもりはないのですが、この明らかに怪しい口八丁も信じてしまうなんて。そう、彼等の未来が心配になってじっと二人を見つめていると、今度はルティが僕《わたし》に視線を向けて来た。

「各部統括責任者。二度と主君の前で背中を見せないようにして貰っていいですか?」
「だいぶ無茶な事を言いますね、ルティ」
「む……仕方無いですね。百歩譲って、姿すらも見せない事で妥協します。主君の前に姿を見せないでください」
「あの、それって本当に譲歩ですか? 条件が更に難化してますよ?」
「背中を見せないならば別に主君の前に現れても……まぁ、いいので。でも背中を見せた瞬間に貴方の首を取ります」
「殺害予告が大胆過ぎませんか……? それもそんなあっさりと達成されてしまいそうな条件で。要するに、常に僕《わたし》を殺すつもりでいると??」
「「当然」」
「イリオーデ卿まで……?!」

 何故こんな調子で彼等と会話をしているのか。
 ……だけど。こうして他愛もない会話を他人と出来る事が少し嬉しくもある。
 皇帝の側近(ケイリオル)では絶対に叶わなかったから。もう二十年近く、こんな会話はした事がなかった。僕《わたし》に戻ってしまったが故の利点、と呼ぶべき事だろう。

「危険な芽は早いうちに摘んでおくに越した事はない。そうだろう、ルティとやら」
「ああそうだな。君に同意するのは少し癪だけど、主君を害する可能性のあるものは消せるうちに消しておきたい」

 王女殿下にお仕えする二人が、仲がいいのか悪いのか分からない態度で会話する。

「……何だ、その態度は。先程から気になっていたが、何故私に敵意を向ける」
「……別に。気にしすぎじゃないかな…………主君に仕えるのが多少俺より早かったからって偉そうに……くそぅ、羨ましい……」
「ボソボソ喋るな、もっとハッキリ声を出せ。私達は王女殿下の忠実なる下僕《しもべ》なのだぞ。私達への評価は王女殿下への評価も同然。身の振り方にも気をつけろ」
「…………っ」
(──なんかやだなぁこの男! 主君に選んで貰った騎士だからって! 凄い余裕綽々で!!)

 ムスッとしながらイリオーデ卿を睨み、ルティはひっそりと愚痴っているようだ。二人共性格が似てますし気も合う事だろうとは思っていたけれど……想像以上に相性がいいみたいで安心した。

「まぁ……とりあえず。これから先、王女殿下に背中を見せぬよう善処はしますね。確約は出来ないのであしからず」
「その時は卿の背中を切り裂いてでも王女殿下の視界には入れないようにしよう」
「(不本意だけど)右に同じく」
「もう少し穏便に済ませられませんかね……?」

 フルフル、と二人は首を横に振った。どうやら穏便な解決方法は無いらしい。
 さしもの僕《わたし》と言えども、この二人相手ではそこそこ苦戦を強いられそうですからね……あまり彼等とは戦いたくない。
 彼女の味方を殺したくはないですし。

「結局さ、その布男は警戒対象って事でいいの?」

 布男…………白髪の少年も、また奇妙な呼び方をするものだ。確かにとても分かりやすいとは思いますけども。

「それでええじゃろ。もしまたこやつの所為でアミレスが倒れたり苦しむような事があれば、その時は──」
「「絶対に殺す」」
「……という事でよかろうからな」

 ナトラの言葉に続くように、白髪の少年と赤髪の青年が声を重ねる。
 どうしてこう、彼女の周りには物騒な人が多いのか……それはよく分からないが、だが他には分かった事もある。彼女を思い、彼女を守ろうとする者がこれだけいる。その事がとても喜ばしい。
 彼等の存在が彼女を支え、育み、やがて幸せにする──……それが今の僕《わたし》にとっても、何よりも望ましく喜ばしい事だから。
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