だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
『えー、こちらに見えますがアンディザの俺の推し、真面目✕‬純情王子のマクベスタ・オセロマイト。見た目も性格も完璧王子様な、俺の推しです』
『は、はぁ……』
『自分の住んでた国が滅んだっつーくそ重い過去があってなー……それ以来大事な人を失う事を極端に恐れるようになってよ、ヒロインに全然気持ちを打ち明けられなくて、ずっともどかしい両片想いを続ける俺の推し。どう、マクベスタはアンタの好みか?』
『えと……』

 ペラペラペラペラと高速で捲し立てられて頭がこんがらがる。

『とりあえず次行くか。次はコイツ、冷酷残忍✕‬溺愛王子のフリードル・ヘル・フォーロイト。王子様というよりかは覇王とかそっちのが似合うドS通り超えて残酷な男だな。でもなぁ……落ちてからがやばいのよ、コイツ。もうほんっとに溺愛と独占欲がやばくてさぁ〜〜、ギャップ萌えだな、ギャップ萌え』
『ギャップ萌え』
『そうギャップ萌え。んで次は……コイツだな。スパダリ✕‬運命王子のカイル・ディ・ハミル。アンディザ無印でまさかの運命枠だったスパダリ王子だな。この二作目では何せメインが追加組だったもんで運命要素はちと減ったが、逆にスパダリ要素が増したまさにスパダリオブスパダリ! 理想の男って感じの奴だな』
『スパダリ』

 さっきから知らない言葉が次々に聞こえて来る。
 お兄さんが何を言っているのか半分以上分からないけど、こんなにも楽しそうなお兄さんは初めて見たから、とりあえず頑張って話を聞いていた。

『百聞は一見にしかずって言うしな……よし、俺のやつ貸すからプレイしてみてくれよ。ほらこれ、ソフトと本体』
『で、でもこれ……お兄さんのじゃあ……』
『大丈夫大丈夫。普段から布教用に予備のソフトと予備の本体持ち歩いてて、それも予備のやつだからさ。気にせず心ゆくまでプレイしてくれたまえ』
『布教……?』

 よく分からないままゲーム機とソフトと充電器を渡されて、その日からあたしは暇さえあればゲームをするようになった。
 あの人から離れて今は一人暮らしをしているけれど、その代わりとばかりにあの人に逐一何をしたかなどを報告するように言われているし、何か買い物したらレシートの写真を送るようにも言われている。

 結局の所、あたしはあの人に縛られたままだった。
 だがしかし、あたしはあの人に何も報告せずにゲームに没頭した。そう──ついにあたしは、あの人に反抗したのだ。

 勉強していたと嘘をついて、大学で講義の合間にやったり、昼にご飯を食べながらやったり。
 最初は何が何だか分からなくて戸惑っていたけれど、慣れた頃にはあたしもそのゲーム……『アンディザ』にどハマりしていた。

 沢山の人達にいっぱい愛されるゲーム。度々バッドエンドっていう辛い展開もあったけれど…………それが寧ろハッピーエンドを引き立てていて、あたしは何度か大学でプレイしていて泣いてしまった。
 あたしもこんな風に愛されたいな。あの人みたいな痛い愛じゃなくて、普通に生きて普通に貰える優しい愛が欲しい。
 そう、強く心に思うようになったのだ。

『そこ、値間違ってるぞ』
『あ。本当だ……お兄さんって本当に頭いいですよね』
『地方の実家を出て一人暮らしする為にここの大学に進学して来たからな。そこそこ勉強はしたさ』
『……そういえば、お兄さんってどんな会社で働いてるんですか? いつもここで会うから、近所の会社だとは思うけれど…………この辺りって学生都市だからあんまり会社は無いような』

 お兄さんと出会ってからはや二ヶ月。あたしは二日に一度ぐらいのペースであのカフェでお兄さんと昼に会い、ゲームの事を教えてもらったり、こうして勉強を見てもらったりしていた。

 いつもスーツ姿でカフェに来ては、珈琲と軽食を食べているこのお兄さんが、一体どこで何をしている人なのか……そういえばあたしはまだ知らなかったのだ。
 それにしても、お兄さんもしかして先輩だったりする? ここの大学って言ってたし…………。

『言ってなかったか? 学生都市を管理する機関……まぁあれだ、アンタ等に分かりやすく言うと、都市運営事務局だよ。俺、そこの職員』
『え?! 事務局って……この都市区画全部を管理してる、あの事務局?!』
『おう。新卒で入社してから三年目のピチピチの新人よ』
『本当に凄く優秀な人なんですね…………』
『おいコラ何でそんな愕然としてやがる』

 この学生都市は十年程前から国が注力している一大プロジェクトそのもので、多くの研究施設や病院などの公共機関に、二つの姉妹大学とそれに連なる付属高校が一つ、更に付属中学校が二つと付属小学校が二つ、最後に保育園が五つもある超大型学生都市なのだ。
 国が都市の開発と発展を推進しているだけあって、この都市……それも学校ではなく都市そのものの運営機関で働く人は超優秀、まさにエリート中のエリートと呼ばれている。

 そんな運営機関に新卒で入社して働いているなんて。だって運営事務局なんて、今のところ大手企業で働いていた人をスカウトした……とかその手の採用しかした事ないって聞くぐらい、超極狭な門って言われてるのに!
 そもそも新卒採用なんてやってるの? うそ、本当に??

『……あたし、お母さんから卒業後は事務局みたいな手堅い職場に勤めなさいって言われてて……ここの大学に入学して、事務局が採用なんてしてないって聞いて、凄く困惑した覚えが……』

 いい高校、いい大学、いい職場。その名前を出すだけでステータスとなるような高学歴に高収入な道を進むよう、あの人はあたしに何度も繰り返していた。
 だからあたしも勉強は人一倍頑張ったし、自信があったんだけど、このお兄さんはあたしなんかよりもずっと優秀な人らしい。
 だから、採用募集も行っていない事務局に新卒で入社するなんて事が出来たのだろう。
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