だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「戻ったぞ」

 そう言いながら待機部屋の扉を開ける。それぞれ自由に待ち時間を潰している仲間達が「おかえりー」「お疲れ様」と返してきた。
 現在この場にいるのは警備中のクラリスとイリオーデを除いた俺達含め九人。

「ディオ兄、今日はあんまり怒ってないね。子供達があんまり怪我とかしてなかったの?」
「多分そうだったんじゃない? ディオ兄の機嫌がいい時って大体そーゆー時だし」

 長椅子に腰かけ、足をぶらぶらと揺らしながらメアリードが聞いてきた。
 俺がそれに答えようとした時、メアリードの弟のルーシアンが興味無さげに答えた。

「ほんとだ! 今日のディオ兄は元気!」
「……声、でか……」

 黒い毛並みの犬の耳と尻尾を忙しなく動かしながら、ジェジが騒ぎ出す。そんなジェジの隣で、ユーキが煩わしそうに長い耳を塞いでいる。

「……俺の事ぁいいだろ、別に。とりあえず、お前等に話があんだ」
「話か、何かあったのか?」

 俺の言葉に真っ先に反応したのはシャルルギルだった。いつも通り眉間に皺を作りながらあいつはこちらに視線を送る。
 あのガキの事やあいつとした取引の事を話そうと、俺は一度椅子に腰を降ろしてから、

「……信じられないとは思うんだが──」

 そんな言葉で口を切った。
 そして一連の説明を終えると、この手の珍妙な話に弱いラークが腹を抱えていた。

「ふっ……ふふ……まさかそんな事が起きるだなんてね。俺も巡回担当になっておけば良かった」
「馬鹿言うな、お前がいなくて誰がこいつ等の面倒を見るんだ」
「あはは、それもそうだ。いい加減皆親離れしてくれないかな〜、皆のお母さん的立ち位置も結構疲れるんだよね」

 笑い上戸のラークは、相当笑ったのか目尻に涙を浮かべながら、藪から棒に愚痴を零した。
 その暴露に、ラークお母さんの子供のような立ち位置にある騒がしい奴等が騒ぎ出す。

「そうだったの!? ラークママはオレ達が嫌になっちゃったのか!?」
「えーやだぁー! アタシ、ママのご飯食べられなくなったら死んじゃう!」
「別にっ、僕は死んじゃうとか思ってないし……でも食べられないのは困るから……」
「えっ!? ラーク母ちゃんの飯食えないのは困るんだけど!」

 ジェジ、メアリード、ルーシアン、エリニティが次々に顔を青くする。メアリードとルーシアンは比較的に幼いからまだしも、ジェジとエリニティは一応もう成人してんだから……もう少し大人らしく振る舞えよ。

「そもそもラーク以外に料理が出来る者はほとんどいないだろう、昔からその手の事は全てラークに押し付けて来たからな」
「その自覚あったんだね、シャル……いの一番に何かと仕事押し付けて来たの君なのに」
「俺がやるよりお前がやる方が被害も少なく何より早い。合理的判断だ」
「結局、自分がやりたくないだけじゃん……」

 シャルルギルの発言に、ラークは遠い目をした。……確かに俺達は皆、家事の類はあまり得意ではない。貧民街にいた昔から、その手の事は全部ラークに任せて来た。
 誰もかもが、自分に不利な展開になると分かりきっていた為あえて触れてこなかったその問題に、ついにシャルルギルが触れてしまった。藪をつついて蛇を出してしまったのだ。
 シャルルギルが堂々と恥ずかしげもなく言い放ったそれを、ユーキが冷たく一刀両断した。それにバドールも静かに頷く。
 この中だとユーキとバドールも家事担当だからな、思う所があるんだろうさ。
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