だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
回想 そして歯車は狂いだす
───ツマラン。何故、何故だ。彼奴らは何故、何もしない。我々の求めるような展開へと進まないのだ?
───さあ? ぶっちゃけおれっち達が聞きたいぐらいだし〜〜。
───ぐぬぬ……あの者達の記憶を封じ過ぎたか? しかし異邦の知識や記憶は我々にとって毒に他ならない。何より【世界樹】がそれを拒んでいる。故に我々でさえも異邦の知識や記憶は探れぬ…………こんな状況で下手な真似をして世界の反発を受けたら面倒だ。
───それはそう。世界の反発が最も厄介だからな。
───それな? どうにかしてもっと面白おかしく人間界がひっくり返るような何かを起こせねぇかなァ〜!
───妾達が祝福を授けてやった子供も、そなた達が悪ふざけで狂わせた子供も、どちらも無理やり異邦の魂と同調させたのであろう? 本人達の様子はどうなのだ?
───それがどっちもな〜んにもしない。あともう一人……ついでに引っ張って来た魂は割と頑張ってんね〜。ほか二人は期待外れでラスいちが一番望みあるって感じぃ?
───異邦からの旅人であればこの世界の人間とは異なる価値観を持つ為、良き変革面白き展開を期待していたんだが……想像以上に何も起きないな。
───なんの為にあの子等の自我を維持させているのかという話だな。異邦の知識で人間界を変えて欲しいのに。
───ツマラナイ結末ではなく、我々を愉しませるような終末を迎えてもらわねば困る。そうではなくては我々がわざわざ下等存在を存続させている意味が無いというものだ。
───オーイ、テメェ等ァ……儂に面倒事押し付けて何談笑してやがる。
───お。例の方は上手くいったかね?
───そなたの働きによって選ばれた子供達に変化の契機を齎すかどうかが変わるのだ。上手くやってなければ殺す。
───その点についたァご心配なく。儂が仕事をトチる訳なかろう。だが、まァこればかりはどうしようもなかったっつーか。
───どうしようも……
───なかった?
───【世界幹への干渉】は成功したし、“駒”の子等にかけられた封も若干ではあるが弱めた。だがなァそれがどう当人に影響を及ぼすかは儂にもわからん。加えて……一部の無関係な人間達にも同様の効果が及んだものと考えとけ。
───つまり…………どゆこと?
───我々が選んだ子供達に加え、純正なこの世界の人間達にも同じように【世界幹への干渉】による異変が起こる。という事だろうよ。そうだな?
───その通ォり。つっても、これもまた面白そうだから良かねェか?
───……そうね。妾達はただ、面白ければなんでもいい。
───よーぅし、今度こそあの子供達が上手く世界を歪めてくれる事を祈って〜〜っ、カンパーイ!
───また飲むのかよ。
───だが、それぐらいしか娯楽ないしな。
……──それはなんて事ないある日の事。ついに、かの存在が重い腰を上げてしまった。
故に、人間達は惑わされる。狂わされる。
享楽に耽る者達の欲により変えられた世界の意思に従って、定められた筋書きをなぞる事となるのだ。
♢♢
ドクンッ! と突然心臓が破裂するような痛みに襲われた。
別に魔力を消費しすぎた訳でもなく、サベイランスちゃん無しで魔法を使いまくった訳でもない。
じゃあ、この痛みは一体なんなんだ?
「ッ、は……ぁ! ん、だよ…………これ……ッ!!」
痛い、痛い。頭が割れるように痛い。硝子を引っ掻いたような、酷く不快な痛みが響く。
「カイル様っ!?」
立つ事さえ覚束無い酷い目眩が降り注ぐ。よって、俺はその場で両膝をついた。
傍にいたコーラルが慌てて寄り添ってきた。だが、その声もどんどん遠のいてゆくようで。
……ハハッ、これってまさか。
「……──強制力、ってやつなのか?」
心を埋め尽くさんばかりに湧き上がる体《カイル》の悲願。俺という人間が塗り替えられそうな程のそれに、俺は。
「こーらる……あと、は……たの、ん……だ」
「ッ、カイル様!?」
意識を手放す事でなんとか対応した。
それと同時に理解する。以前、真冬にアミレスが自らを溺れさせて意識を絶ったとかいう事件の真相を。
こりゃ確かに──、こうでもしないと耐えられそうにねぇな。自分が侵されて塗り替えられるような悪寒、どう足掻いても耐えられない。
……あん時は理解してやれなくてすまん、アミレス。
♢♢
「──は?」
パキッ、と。手に持っていた祭具を一つ壊してしまった。それには周りの大司教達でさえも驚き、開いた口が塞がらない模様。
だけど……一番驚いているのは僕自身だ。
「主、様子変」
「……ああ、そうだろう。誰かに腹の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような気分だからね、今」
「意味不明。解説求」
「解説か、難しい事を言うね。僕にだってこれが何だかよく分かっていないのに」
ラフィリアが彼等を代表して僕の様子を窺いに来た。しかし、僕にも何が起こっているのかよく分からないのだ。
突然、神々の愛し子の事を愛しいなどと思った。
今となっては四六時中姫君の事を考えているこの僕が? あんな肩書きと能力だけの子供を?
それだけではない。僕が姫君に抱く好意の一割が、勝手に愛し子へと向けられそうになった。僕の意思ではなく、まるで何者かに無理やりそうされたかのように。それに気づいて、怒りのあまりついうっかり大事な祭具を壊してしまった。
とりあえずジャヌアを呼び、「これ、直しといて」と壊れた祭具を手渡す。その間も、その前後も……ジャヌア達大司教は僕を不安げに見つめていた。