だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……主。顔、険悪」
「そうなんだ。まぁ確かに、今はどうにも笑ってられる気分でもないからね…………凄く、凄く怒ってるんだ。僕は」
口をついて出た言葉に、自分で疑問を抱く──。
怒っている? この僕が? ……こんなの久しぶりだと思うと同時に、ストンと、何かが腑に落ちた。
ようやく手に入れた僕の宝物。この想いは絶対に誰にも譲らないし渡さない。僕の心を誰かにあげるのだとしたら、それは姫君だけだ。
それなのに。何者かが僕の宝物を掠め取ろうとした。
愛し子に魅了だとかそういった能力がない事は把握してるんだけどな。どうして、よりにもよってあの女に。
「ラフィリア、命令だ。僕が命令を撤回するまで、愛し子を僕の目の届かない場所に閉じ込めておけ」
「?! 何故……?」
ラフィリアと同じように、大司教達も目を白黒させて狼狽えている。
僕は、そんな彼等に向けて告げた。
「……殺してしまいそうなんだ。僕の恋《もの》を奪おうとする者は……怒りのあまり、相手が誰であろうと関係無しに殺してしまいそうで。でも、愛し子を殺す訳にはいかないからさ。僕が彼女を殺さないように、守ってやって」
僕の言葉にラフィリアは言葉を失いつつも、僕の言う通りに動きだした。
仮面で顔は見えなかったけれど、きっとラフィリアは気づいたんだろう。僕がもうとっくに壊れてしまっている事に。
「……怖がらせてごめんね、皆。今日は少し気分が悪いみたいだ。僕はもう部屋に戻るから、後は頼んだよ」
「は、はい!」
「お任せを!」
何とか笑顔を取り繕う。祭典の準備を大司教達に任せて、僕は自室に戻った。
寝台《ベッド》に倒れ込み、脳裏に彼女の笑顔を思い浮かべて強く想う。掠め取られた宝物の欠片を、一つ一つ拾い上げるように。
「大丈夫。僕の想いは僕だけのものだ。何があろうとも、この恋だけは守らないと」
ようやく、ようやく見つけたんだ。
僕の唯一の拠り所。僕の初恋。僕の、最愛の存在。
絶対に逃してなるものか。今は無理でも、必ずやいつか──彼女を、僕だけのものにしなくては。
「……ふふ、ははっ。だってそうだよね。僕は貴女がいないと生きていけないと思ってるのだから、貴女だってそう思ってくれないと困るよ」
だってもう、僕は貴女のものだから。
ならば貴女だって、僕のものになってくれるよね?
♢♢
「ロアクリード猊下? 急に立ち止まられて、いかがなされましたか?」
「……あぁ、いや。何でもない。議会に向かおう」
「はい」
連れの男に向けて適当に誤魔化して、私は議会場に足を向けた。私の後ろでは、側近のマアラと弟の二カウルが私を見てヒソヒソと話し合っている。
それをちらりと横目で見ては、何言われてるんだろうと少し不安になった。
それにしても……ふむ。誰かに精神干渉されたような感じがしたけれど、一体どういう事だろう。昔から父親に色々されていたから、私はそれなりに精神干渉へも耐性を持っているんだけど……こんな風に心を無理やり捻じ曲げられるのは初めてだな。
とは言ったものの、正直なところそこまでの変化はない。
ただ、なんと言うか。彼女に会う以前の空虚な自分に戻ったような。そんな感じだ。
当然、今のやりたい事を見つけた自分に満足している私としては、不愉快極まりない状況。だけど…………なんだろうな、妙に頭が冴えている。いや、寧ろ頭はぐちゃぐちゃなんだけど、だからかな。
もっと強い権威が欲しい。
もっと強くなりたい。
あの男をこの世界から消し去りたい。
そんな、漠然とした考えが頭をよぎる。誰にも脅かせないような権威があれば、私はきっと彼女の未来を守る事が出来る。私がもっと強ければ、私の人生をめちゃくちゃにしてくれやがったあの憎き男を、この世界から消す事が出来る。
多分、これが私の持つ数少ない願望。これの為ならば私は何だって出来る。そう…………何だって。
「……二カ。教皇聖下のみが持つ事を許される聖笏《せいしゃく》の主な恩恵は何だったか、ちゃんと覚えているかい?」
ふと、後ろを歩く二カウルにわざとらしく問い掛ける。
「えっと。魔力量の大幅な増加と、恒久的な身体能力の上昇……でしょうか」
「そうだね、正解だ。よく勉強しているね」
「……!!」
突然そう問われた為かニカウルは少し口を慌てさせて、しっかりと答えた。よく出来ました。と褒めてあげると、二カウルは嬉しそうに瞳を輝かせる。
念の為に二カウルに確認したけれど、やはりそうか……父親が持っているあの聖笏は持ってるだけでも恩恵を得られる。
うーん、やっぱり欲しいな、聖笏《アレ》。
アレがあったら私もあの男に勝てるかもしれない。私の願望を叶えられるかもしれない。
だから聖笏が欲しいんだけど、流石に貰おうと思って貰えるものではない。
……──殺そうかなあ、教皇の事。
父親が死んだら自動的に私が後継者として教皇にならざるを得ないのだし、聖笏も権威も手に入る。
ぶっちゃけた話、私が教皇代理なんて立場にあるぐらい既にあの男は弱りきっているし、放っておいても数年以内に死ぬだろう。そして父親の望み通り、私が教皇なんて役職を押し付けられる事になる。自動的に、合法的に聖笏を手に入れる事も可能だろう。
だけどね……まぁほら、善は急げと言うし。どうせ数年以内に死ぬのなら今死んでも変わらないだろう?
「あの、ロアクリード様? 何でそんなにほくそ笑んでるんですか……?」
マアラがこちらを訝しむ。どうやら今、私は笑っているらしい。手っ取り早く願望を叶える方法を見つけたからだろうか。
「はは。そんな事無いよ」
「いや目が笑ってない……」
誰に精神干渉されたのかは分からない。誰が何の目的をもって私を変えたのか分からないけど、少しだけ感謝しよう。馬鹿な願望を抱く今の虚ろな私でなければ、きっと、このような方法には至らなかったから。
あの気高き少女の幸せな未来の一助となるべく、私は私に出来る事をしよう。
例えそれが──人道に背く事であろうとも。
「そうなんだ。まぁ確かに、今はどうにも笑ってられる気分でもないからね…………凄く、凄く怒ってるんだ。僕は」
口をついて出た言葉に、自分で疑問を抱く──。
怒っている? この僕が? ……こんなの久しぶりだと思うと同時に、ストンと、何かが腑に落ちた。
ようやく手に入れた僕の宝物。この想いは絶対に誰にも譲らないし渡さない。僕の心を誰かにあげるのだとしたら、それは姫君だけだ。
それなのに。何者かが僕の宝物を掠め取ろうとした。
愛し子に魅了だとかそういった能力がない事は把握してるんだけどな。どうして、よりにもよってあの女に。
「ラフィリア、命令だ。僕が命令を撤回するまで、愛し子を僕の目の届かない場所に閉じ込めておけ」
「?! 何故……?」
ラフィリアと同じように、大司教達も目を白黒させて狼狽えている。
僕は、そんな彼等に向けて告げた。
「……殺してしまいそうなんだ。僕の恋《もの》を奪おうとする者は……怒りのあまり、相手が誰であろうと関係無しに殺してしまいそうで。でも、愛し子を殺す訳にはいかないからさ。僕が彼女を殺さないように、守ってやって」
僕の言葉にラフィリアは言葉を失いつつも、僕の言う通りに動きだした。
仮面で顔は見えなかったけれど、きっとラフィリアは気づいたんだろう。僕がもうとっくに壊れてしまっている事に。
「……怖がらせてごめんね、皆。今日は少し気分が悪いみたいだ。僕はもう部屋に戻るから、後は頼んだよ」
「は、はい!」
「お任せを!」
何とか笑顔を取り繕う。祭典の準備を大司教達に任せて、僕は自室に戻った。
寝台《ベッド》に倒れ込み、脳裏に彼女の笑顔を思い浮かべて強く想う。掠め取られた宝物の欠片を、一つ一つ拾い上げるように。
「大丈夫。僕の想いは僕だけのものだ。何があろうとも、この恋だけは守らないと」
ようやく、ようやく見つけたんだ。
僕の唯一の拠り所。僕の初恋。僕の、最愛の存在。
絶対に逃してなるものか。今は無理でも、必ずやいつか──彼女を、僕だけのものにしなくては。
「……ふふ、ははっ。だってそうだよね。僕は貴女がいないと生きていけないと思ってるのだから、貴女だってそう思ってくれないと困るよ」
だってもう、僕は貴女のものだから。
ならば貴女だって、僕のものになってくれるよね?
♢♢
「ロアクリード猊下? 急に立ち止まられて、いかがなされましたか?」
「……あぁ、いや。何でもない。議会に向かおう」
「はい」
連れの男に向けて適当に誤魔化して、私は議会場に足を向けた。私の後ろでは、側近のマアラと弟の二カウルが私を見てヒソヒソと話し合っている。
それをちらりと横目で見ては、何言われてるんだろうと少し不安になった。
それにしても……ふむ。誰かに精神干渉されたような感じがしたけれど、一体どういう事だろう。昔から父親に色々されていたから、私はそれなりに精神干渉へも耐性を持っているんだけど……こんな風に心を無理やり捻じ曲げられるのは初めてだな。
とは言ったものの、正直なところそこまでの変化はない。
ただ、なんと言うか。彼女に会う以前の空虚な自分に戻ったような。そんな感じだ。
当然、今のやりたい事を見つけた自分に満足している私としては、不愉快極まりない状況。だけど…………なんだろうな、妙に頭が冴えている。いや、寧ろ頭はぐちゃぐちゃなんだけど、だからかな。
もっと強い権威が欲しい。
もっと強くなりたい。
あの男をこの世界から消し去りたい。
そんな、漠然とした考えが頭をよぎる。誰にも脅かせないような権威があれば、私はきっと彼女の未来を守る事が出来る。私がもっと強ければ、私の人生をめちゃくちゃにしてくれやがったあの憎き男を、この世界から消す事が出来る。
多分、これが私の持つ数少ない願望。これの為ならば私は何だって出来る。そう…………何だって。
「……二カ。教皇聖下のみが持つ事を許される聖笏《せいしゃく》の主な恩恵は何だったか、ちゃんと覚えているかい?」
ふと、後ろを歩く二カウルにわざとらしく問い掛ける。
「えっと。魔力量の大幅な増加と、恒久的な身体能力の上昇……でしょうか」
「そうだね、正解だ。よく勉強しているね」
「……!!」
突然そう問われた為かニカウルは少し口を慌てさせて、しっかりと答えた。よく出来ました。と褒めてあげると、二カウルは嬉しそうに瞳を輝かせる。
念の為に二カウルに確認したけれど、やはりそうか……父親が持っているあの聖笏は持ってるだけでも恩恵を得られる。
うーん、やっぱり欲しいな、聖笏《アレ》。
アレがあったら私もあの男に勝てるかもしれない。私の願望を叶えられるかもしれない。
だから聖笏が欲しいんだけど、流石に貰おうと思って貰えるものではない。
……──殺そうかなあ、教皇の事。
父親が死んだら自動的に私が後継者として教皇にならざるを得ないのだし、聖笏も権威も手に入る。
ぶっちゃけた話、私が教皇代理なんて立場にあるぐらい既にあの男は弱りきっているし、放っておいても数年以内に死ぬだろう。そして父親の望み通り、私が教皇なんて役職を押し付けられる事になる。自動的に、合法的に聖笏を手に入れる事も可能だろう。
だけどね……まぁほら、善は急げと言うし。どうせ数年以内に死ぬのなら今死んでも変わらないだろう?
「あの、ロアクリード様? 何でそんなにほくそ笑んでるんですか……?」
マアラがこちらを訝しむ。どうやら今、私は笑っているらしい。手っ取り早く願望を叶える方法を見つけたからだろうか。
「はは。そんな事無いよ」
「いや目が笑ってない……」
誰に精神干渉されたのかは分からない。誰が何の目的をもって私を変えたのか分からないけど、少しだけ感謝しよう。馬鹿な願望を抱く今の虚ろな私でなければ、きっと、このような方法には至らなかったから。
あの気高き少女の幸せな未来の一助となるべく、私は私に出来る事をしよう。
例えそれが──人道に背く事であろうとも。