だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 ハイラとマクベスタが私を心配する気持ちも分かる。だって私はこれでも皇族だし、現皇帝唯一の王女だもの。そんな少人数で刺客に襲われでもしたらどうするのかと、そう思ってるのでしょう。
 でもそれに関しては問題無いと思うけどなあ。だって私達三人だけで並大抵の刺客なら対処出来るもの。私もそれなりには戦えるし、何よりイリオーデは剣の天才でアルベルトは諜報部期待の大型新人だ。

 寧ろこの最強脳筋ゴリ押しパーティーで対応出来ない程の敵とは……? と首を傾げたくなる。
 刺客に襲われたら問答無用で返り討ちにするから安心して、ちゃんと生還するわ! とハイラ達を安心させるのが大変だったな…………。

『ですから男二人な事が問題であって!』
『せめて誰か一人、女性を連れて行け!!』
『それならば私がっ、姫様をそのような危険な場に一ヶ月も居させられません!!』
『貴女は侯爵の仕事があるのでは……!?』
『そんなもの姫様の御体に比べるべくもなく、どうでもいいものです!』

 そう繰り返しては全然納得してくれなくて……説得、苦労したなあ。あのままだとずっと話が平行線だったから無理やり話を切り上げただけなんだけどね。てへ。
 ちなみに。護衛としてお供の騎士団をつけるとケイリオルさんからも提案されたのだが、人が多ければ多い程進むのに時間がかかるし、正直な所計画の邪魔でしかない。
 それにこんな真冬に年を跨ぐ日程の南下旅程なんて騎士団の人達が可哀想だ。なので丁重にお断りした。

『いやいや……流石にそれは。皇族の地方への旅程に護衛の騎士団が伴わないなんて前代未聞です』
『でも要らないものは要らないですし。騎士団の皆様方も、私なぞの護衛の為に寒い中旅なんてしたくないと思いますわ』
『そのような事はありません。騎士団とは皇族を守る為に存在します。騎士とは、そういう存在なのです』
『綺麗事かもしれませんが……真冬には多くの人々がいつも通りの生活が出来ず、中には日銭すらも稼げず生きる為に非行に走り、他者を傷つける者もいます。そういった国民が一人でも減るよう、人々を守りその営みを支える事こそが騎士の役目と私は思います』
『……っ』

 何かと私に甘いケイリオルさんでさえも、これには難色を示していた。
 騎士が国に忠誠を誓う以上、皇族を守る為に存在するという事に変わりはない。しかし同時に彼等はその皇族に誓うのだ──人々の、ごくありふれた営みの日々を守る事を。
 彼等の守るべき対象である皇族《わたし》が護衛を不要と言っているのだから、騎士達には是非とも国民を守る事に精を出していただきたい。

『それに……このような事、あまり言いたくないのですけれど』
『?』

 多分一番説得力のある言葉を放とうと前置いて、首を傾げ頬に手を当てて微笑む。さながらお淑やかな貴族令嬢のように。

『この国の騎士団が──……十把一絡げの騎士達が、私の騎士と従僕より強いとも思えませんし』

 その瞬間、部屋に緊張が走った。ケイリオルさんも息を呑んで言葉を失い、私の後ろではイリオーデとアルベルトが何やら嬉しそうに顔を明るくしているみたいだ。私の背中に、彼等の喜びがひしひしと伝わってくる。

 それにしても、本当にめちゃくちゃ失礼な事を言ってしまった。でも実際問題、帝国の騎士団にイリオーデやアルベルトと真正面から渡り合える者がどれ程いるのかという話だ。
 ぶっちゃけいないと私は思っている。もしいたとしても、皇帝やフリードルの護衛などで忙しいでしょうし、そんな優秀な騎士を私の護衛に回す訳がない。
 よって、この結論……うちの子達より強い奴なんかいる? に至ったのだ。

『……くくっ、はは! 確かにそれもそうですね。いやぁ、一本取られてしまった気分です』

 楽しそうなケイリオルさんの声が響く。

『ではこうしましょう。ここは一つ騎士団と模擬戦をして、彼等二人のみで王女殿下の護衛足るかを見極めさせて下さい』
『模擬戦ですか』
『はい。そうでもしなければ、王女殿下の護衛隊に選ばれるかも……とはしゃいでいた騎士団の者達が納得しないでしょうし』

 騎士団の人達は何をそんなにはしゃいでいたのかしら。もしかして皇族の護衛任務とかってとんでもないボーナスが出るとか? 
 まあ皇族の護衛任務なんてハイリスクなものが特別賞与無しな訳ないか。夢の一攫千金チャンスだもの、それは誰だってはしゃぐわね。

『分かりました。あ、そうだ。その模擬戦──……』

 と、ケイリオルさんにボーナス狙いではしゃいでいるという騎士団を納得させる為の、模擬戦の場を用意して貰う事になったのが一週間前の事。
 そして今は大公領出発予定日の三日前。ついにその模擬戦の時が来た。
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