だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「はぁ。ひとまずは、これで模擬戦はクリアしたでしょうけれど……」
「これでも駄目だなどと言うのであれば、私がケイリオル卿を黙らせます」
「いいや俺が。騎士君には荷が重いだろうから、俺が各部統括責任者をちょっとだけ暗殺します」
「イリオーデだ」
「いや暗殺しちゃ駄目でしょう。というかちょっとだけ暗殺って何、どういう事? そもそも今あの人がいなくなったらこの国終わるわよ?」
「むぅ…………」
「なればこそ、私が彼を……」
「二人共とりあえず一回肉体言語から離れない?」
ここで二人の顔が少し翳る。
「しかし」
「やはり力こそが全てですし……万物に有効な最大の言語は暴力とも言いますし……」
イリオーデが何か言おうとした時、アルベルトが被せるように語る。
とんでもない脳筋肉体言語論者だわ、この人。
「それについては否定しないけど……いくら暴力が最大の言語と言っても時と相手と場所はきちんと考えなきゃ」
「つまり、今はその時ではないと?」
「そういう事。時と相手が悪いから彼は手を出しては駄目よ。本当に彼相手は分が悪いわ」
「主君がそう仰るなら……」
ケイリオルさんに喧嘩を売るのは良くないと二人を諭すと、アルベルトはしょんぼりと瞳を細めた。
♢♢
(これまた随分と気合い入ってますねぇ、彼等)
たったの三人という少なさで帝国騎士団の団員約百名を同時に相手取るなんて無謀な真似、普通ならばケイリオルでも許可を出さない。
しかし今回ばかりは……それを申し出たのが普通ではない異常な者達だったから、仕方無さ半分面白さ半分でこれを許可した。
そうして迎えた模擬戦当日。
分かりきっていた事なのに、王女の従僕としてこの場に赴いたイリオーデとルティは、戦闘服に身を包んだアミレスの戦女神かのごとき美しさに惚けていた騎士達を見て、酷く不快な気分になったらしい。
(王女殿下を下世話な目で見るな、下郎が。その不敬なる目、抉り出してしまおうか)
(……こいつ等、どさくさに紛れて主君の体に触ろうとか考えてそうだな。鼻の下伸びてるし。そうなる前に潰すか)
アミレスがこの模擬戦について一言述べている間、血の気の多い二人は仲良く同じ事を考えていた。
よって彼等は模擬戦が始まって早々、得物を手に殺意を放ち突撃したのだ。
その様子を見て、ケイリオルは苦笑する。
(圧倒的な実力。一騎当千の戦士と言うべき姿ですね……ちょっと殺意が抑えきれてませんが)
狩りをする猛禽類のような鋭く見開かれた瞳で射抜かれると、歴戦の騎士達は怯み動きが鈍る。その隙をついて、流れ作業のように彼等は騎士達を次々に屠る。
(大胆かつ正確な剣筋だ。流石はランディグランジュの神童……動きに一切の無駄が無い上、まるで大剣を相手にしているかのような、体の芯を砕く程の圧倒的な膂力で長剣《ロングソード》を手足のように扱うなんて…………それも、魔法無しでと来た。対人戦に慣れている騎士達でも、イリオーデ卿の相手は荷が重いでしょうね)
ケイリオルはその場その場で騎士達の心を視ては、その叫びに同情さえしつつ冷静に状況を分析していた。
この世界においては万の軍勢より個の怪物の方が恐れるべき対象であり、そして相手にしてはならぬ存在なのである。
そしてまさしく、このイリオーデという青年はその類の存在であると。自身もまたそれに分類される事を自覚するケイリオルは、イリオーデの動きを見て確信していた。
(僕《わたし》と言えども魔法無しで応戦する事は難しそうですしね。イリオーデ卿だけに限らず……ルティや王女殿下相手でも、手を抜いたら足元をすくわれそうだが……)
イリオーデに次いで、ケイリオルはルティに視線を向けた。そこにはイリオーデに張り合うかのごとく、あえて魔法を使用せずに暴れ回るルティの姿が。
剣舞のように縦横無尽軽やかに動き回っては、短剣《ナイフ》で次々と騎士達の剣を弾き飛ばす。その直後に首や顎を強く殴打して、騎士達の意識を落としていった。
騎士達にも見慣れぬ、まるで気配を捉えられない不可思議な動き。彼等は諜報員《スパイ》の戦い方を知らなかった。故にルティのこの動きに対応出来ず、為す術なく地に伏せる。
何の感情も宿さぬ瞳で、ルティは淡々と敵を打ち倒す。その姿は、彼の着ている黒い執事服も相まってまるで死神のようだった。
「これでも駄目だなどと言うのであれば、私がケイリオル卿を黙らせます」
「いいや俺が。騎士君には荷が重いだろうから、俺が各部統括責任者をちょっとだけ暗殺します」
「イリオーデだ」
「いや暗殺しちゃ駄目でしょう。というかちょっとだけ暗殺って何、どういう事? そもそも今あの人がいなくなったらこの国終わるわよ?」
「むぅ…………」
「なればこそ、私が彼を……」
「二人共とりあえず一回肉体言語から離れない?」
ここで二人の顔が少し翳る。
「しかし」
「やはり力こそが全てですし……万物に有効な最大の言語は暴力とも言いますし……」
イリオーデが何か言おうとした時、アルベルトが被せるように語る。
とんでもない脳筋肉体言語論者だわ、この人。
「それについては否定しないけど……いくら暴力が最大の言語と言っても時と相手と場所はきちんと考えなきゃ」
「つまり、今はその時ではないと?」
「そういう事。時と相手が悪いから彼は手を出しては駄目よ。本当に彼相手は分が悪いわ」
「主君がそう仰るなら……」
ケイリオルさんに喧嘩を売るのは良くないと二人を諭すと、アルベルトはしょんぼりと瞳を細めた。
♢♢
(これまた随分と気合い入ってますねぇ、彼等)
たったの三人という少なさで帝国騎士団の団員約百名を同時に相手取るなんて無謀な真似、普通ならばケイリオルでも許可を出さない。
しかし今回ばかりは……それを申し出たのが普通ではない異常な者達だったから、仕方無さ半分面白さ半分でこれを許可した。
そうして迎えた模擬戦当日。
分かりきっていた事なのに、王女の従僕としてこの場に赴いたイリオーデとルティは、戦闘服に身を包んだアミレスの戦女神かのごとき美しさに惚けていた騎士達を見て、酷く不快な気分になったらしい。
(王女殿下を下世話な目で見るな、下郎が。その不敬なる目、抉り出してしまおうか)
(……こいつ等、どさくさに紛れて主君の体に触ろうとか考えてそうだな。鼻の下伸びてるし。そうなる前に潰すか)
アミレスがこの模擬戦について一言述べている間、血の気の多い二人は仲良く同じ事を考えていた。
よって彼等は模擬戦が始まって早々、得物を手に殺意を放ち突撃したのだ。
その様子を見て、ケイリオルは苦笑する。
(圧倒的な実力。一騎当千の戦士と言うべき姿ですね……ちょっと殺意が抑えきれてませんが)
狩りをする猛禽類のような鋭く見開かれた瞳で射抜かれると、歴戦の騎士達は怯み動きが鈍る。その隙をついて、流れ作業のように彼等は騎士達を次々に屠る。
(大胆かつ正確な剣筋だ。流石はランディグランジュの神童……動きに一切の無駄が無い上、まるで大剣を相手にしているかのような、体の芯を砕く程の圧倒的な膂力で長剣《ロングソード》を手足のように扱うなんて…………それも、魔法無しでと来た。対人戦に慣れている騎士達でも、イリオーデ卿の相手は荷が重いでしょうね)
ケイリオルはその場その場で騎士達の心を視ては、その叫びに同情さえしつつ冷静に状況を分析していた。
この世界においては万の軍勢より個の怪物の方が恐れるべき対象であり、そして相手にしてはならぬ存在なのである。
そしてまさしく、このイリオーデという青年はその類の存在であると。自身もまたそれに分類される事を自覚するケイリオルは、イリオーデの動きを見て確信していた。
(僕《わたし》と言えども魔法無しで応戦する事は難しそうですしね。イリオーデ卿だけに限らず……ルティや王女殿下相手でも、手を抜いたら足元をすくわれそうだが……)
イリオーデに次いで、ケイリオルはルティに視線を向けた。そこにはイリオーデに張り合うかのごとく、あえて魔法を使用せずに暴れ回るルティの姿が。
剣舞のように縦横無尽軽やかに動き回っては、短剣《ナイフ》で次々と騎士達の剣を弾き飛ばす。その直後に首や顎を強く殴打して、騎士達の意識を落としていった。
騎士達にも見慣れぬ、まるで気配を捉えられない不可思議な動き。彼等は諜報員《スパイ》の戦い方を知らなかった。故にルティのこの動きに対応出来ず、為す術なく地に伏せる。
何の感情も宿さぬ瞳で、ルティは淡々と敵を打ち倒す。その姿は、彼の着ている黒い執事服も相まってまるで死神のようだった。