だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
(皮肉だな。誰よりもフォーロイトらしい彼女が、フォーロイトの証とも言える魔力《もの》を持たないなんて)

 だからこそ、とケイリオルは続ける。

「……見てみたかったな。貴女が言葉通りの氷結の聖女である姿を」
(──その姿はきっと……とても美しいでしょうから)

 彼の愛した二人の生きた証。愛する人達の愛の証。その顔と、その髪や瞳が、それを証明する。
 そんな少女が氷の魔力を扱う姿を見てみたいと、ケイリオルは密かに夢想する。
 当然だが、彼はアミレスが水の魔力の延長線上で氷も扱える事を知らない。そもそも水の魔力で水の温度を調整するなんて芸当、これまで誰もしてこなかったのだから仕方の無い事。

「って、もう終わってるじゃないですか。百人近い騎士をどうしてものの十数分で倒してしまうんだ、彼女達は」

 眼前に広がる死屍累々の光景にケイリオルは乾いた笑いをあげる。
 彼がそうやってアミレス達の規格外っぷりに舌を巻いていた頃、件のアミレス達三人は──ケイリオルの暗殺という恐ろしい会話をしていたのだった……。


♢♢


「お疲れ様です、皆さん」
「ケイリオル卿! 如何でしたか、私達の実力は?」

 これなら三人でも問題無いだろう、と自信満々に問う。

「分かってはいたつもりですが……いやはや、実際に見ると圧倒されました。いいでしょう、僕《わたし》の責任で三人での旅程を許可します」

 仕方無いなぁと言いたげな声音で、ケイリオルさんはようやく首を縦に振った。
 その喜びからイリオーデとアルベルトに「いぇーいっ」とハイタッチを求めると、二人共右往左往しながらハイタッチに応じてくれた。

「ああ、この事について少し彼等と話があるのですが……お借りしても宜しいですか?」
「いいですけど……一体何の話を?」
「ちょっとした忠告です」

 忠告? と首を傾げる。
 イリオーデとアルベルトはケイリオルさんに引っ張られて少し離れた所へ。三人で何か内緒話をしているようで、私はその様子を眺めていた。
 二人にだけしなければならない話って……?


♢♢


「さて。何となく察しはついているでしょうが、改めて貴方達には特に留意しておいて欲しい事があります」

 ルティと共にケイリオル卿に連れて行かれ、王女殿下から少し離れた所で話を切り出される。

「王女殿下に手を出したら、問答無用で殺しますからね」
「なっ……!?!?」
「手ぇ出ッ?!」

 単刀直入に切り込まれたそれに、私とルティはぎょっとして冷や汗を浮かべた。

「な……何を言ってるんですか、ケイリオル卿。そのような愚行を、我々が冒すとでも?」
「そ、そうですよ……女神様に手を出すなんて不敬もいいところ。下心を抱く事さえ烏滸がましいのに」

 女神様? まあ確かに……王女殿下の可憐さたるや、神々しさのあまり目を細めてしまう程。

「あくまで忠告ですよ。貴方達にそう断言していただけて何よりです。成人した男二人と十三歳の王女殿下お一人とあれば、邪推されてしまう可能性もぐっと高まりますので。最初から貴方達にはあれこれ気をつけて貰いたいのです」

 ケイリオル卿の言葉にも一理ある。未婚かつ婚約者もいらっしゃらない王女殿下が下手に男と一緒にいると、良からぬ考えを持つ輩に揚げ足を取られるやもしれない。

 だが我々は十歳近く歳も離れているし別に杞憂でしか──……いや、違う。杞憂さえも芽生えぬようあらゆる危険の芽を摘むのが私達の役目だ。
 火のないところに煙は立たない。ならばそもそもの火が生まれぬよう、私だけでも気を使うべきではないか?

「邪推……分かりました。俺の方でも努力してみます」
「王女殿下の純潔は私達が責任を持って守り抜きますので、安心めされて下さい」
「はは、その言い方はかなり気色悪いというか変態じみてますが……その言葉が聞けて安心しました。往復の約二ヶ月間、くれぐれも王女殿下の事をお願いしますね」
「「はい」」

 私達は声を揃えた。
 これで話が終わったと思った私達が足早に王女殿下の元に戻ろうとした時、ケイリオル卿が「言い忘れてましたが」と藪から棒に言葉を投げてきた。

「例え何があろうとも、絶〜〜〜っ対に間違いだけは起こさないで下さいね!」

 その明るい言い方とは裏腹に、ケイリオル卿の声には果てしない圧が。
 それに僅かな悪寒を覚えつつも、私達は王女殿下の元に駆け戻った。
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