だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「そりゃあ、ぼくの擬態が完璧だから。光の魔力を持ってる人間ならまだしも、普通の人間がぼくに気づける筈が無い。今の所……ぼくの正体に一番近づいたのはリードじゃねぇの? アイツは中々に骨のある奴だったなァ」
「リード……だと?」
「ぼくから敵意も悪意も感じないからってぼくの事を見逃した賢いリードくん。賢い人間は好きだぜ、ぼくは」
「……何で、今までその正体だとかを隠してきた。いや違ぇ、何で今になって大人しく話すんだ?」
「んー、この世界を愉しみたかったから。これまでは名乗る事が出来なかったけど、そろそろ出来そうだから?」
「名乗る……? そろそろ出来る、ってどういう事だ」
「そのままの意味だっつの。これまでぼくは名乗れなかった。でも多分、近いうちに忌々しい制限が解除されるだろうから、それでぼくは名乗れるようになる。もう、正体を隠す必要が無くなるんだ」
シュヴァルツ──この悪魔に課された制約のうちの一つに、『魔界の外にてその正体を名乗る事は許さない。』という項目があり……名乗る事が出来ない為、この悪魔はとてつもない弱体化を受けて正体を隠していた。
悪魔である事まで隠す必要は無いのだが、下手に大っぴらにして聖人とかそのレベルの人間が討伐に来たならば、さしもの悪魔と言えども、実力の九割を制限された状態なので面倒な戦いとなる事だろう。
そもそも悪魔にはそれぞれの真名《なまえ》があり、それを明かしてようやく真の実力を発揮出来るようになる。
だがこの悪魔はその正体を、真名《なまえ》を明かす事を許されなかった。故に、シュヴァルツなどと名乗り人間に擬態しているのである。
「ま、そーゆー事だから。そのうちお前等にもぼくの真名《なまえ》を教えてやるから楽しみにしとけ。はい、ぼくが飽きたからこの話終わりー」
まるで元の姿から反転したかのような白いふわふわの髪を、風にそよぐ草木のように揺らし、シュヴァルツは立ち上がった。
強引に話を打ち切り、シュヴァルツは話を戻さんとする。
(コイツ等も、彼女も……オレサマの正体を知ったらさぞかしイイ反応するんだろうなァ……ああ、その日が待ち遠しいぜ)
影で恍惚と歪むシュヴァルツの顔。彼のここまでの演技は、寧ろその時の為にやっていると言っても過言ではない。
「さて何の話だったか。ああそうだ、役割分担の話。シフト表いじったらぼくに渡してくれ。整合性に欠けない程度に後処理はこっちでやっておくから。逐一報告出来るように魔水晶も渡してやるし、何かあったらすぐ報告しろ」
空中におどろおどろしい色をした魔法陣が小さく浮かび上がり、そこから手のひらサイズの箱がポトリとシュヴァルツの手に落ちる。
それをラークに渡して、
「使い方は簡単。何でもいいから魔水晶に魔力を流し込めばいい。それはぼくの持ってる対の魔水晶にしか繋がらないから、安心して使い倒せ。つぅかマジで報告は怠るな。一大計画において報告・連絡・相談の欠如はめっっっちゃ大問題だからな!」
何度も釘を刺す。まるで過去に報連相を怠った部下がいて、その所為で非常に厄介な面倒を被ったかのような気迫である。
「わ、分かってるよ。しかしこんな貴重なものをポイッと出すなんて……君が人間じゃないのなら、どうしてこんなにも王女殿下に協力しているんだい?」
(──もし本当にこの子が人間ではない何かであって、周りの全ての目すらも欺ける程の擬態をやってのける程、優れた存在なら……益々、シュヴァルツが王女殿下に協力する理由が分からない)
大貴族と言えども易々とは手を出せない貴重な魔導具、それが通信用魔水晶。簡単には作り出せず、限られた者のみが使える連絡手段として有名だ。
そんな物をあっさりと渡して来たシュヴァルツに、ラークは一人疑念を抱き懸命に思考を巡らせていた。
しかしシュヴァルツは理屈になど沿わない。故に答えが見つからず、ラークは真正面から本人に尋ねる事にしたのだ。
「何でって……そりゃあ、この方が面白いからだけど。ぼくとしては彼女に死なれたら困るから、彼女の手伝いをしてるだけ。そこにちゃんとした理由なんてねーよ」
「でも、少なくとも今君がやってる事は王女殿下の生死とは関係の無い事だろう? どうしてそれに、君は少しの異も唱えず恭順するんだ?」
まるで本当に王女殿下の侍女になったみたいじゃないか。そう、ラークは告げる。
シュヴァルツの金色の瞳は見開かれ、彼の驚きや戸惑いを顕著に表す。暫し口を真一文字に結び、シュヴァルツは思考を巡らせる為に黙り込んだ。そして、
「……ぼくも、彼女にはそれなりに引け目を感じてるから。良かれと思ってやって、それで彼女も喜んで……でもその結果、何故か彼女を傷つけて泣かせた」
らしくもないしおらしさで、シュヴァルツはボソリボソリと語った。その満月のような瞳は細められ、偃月となる。
「リード……だと?」
「ぼくから敵意も悪意も感じないからってぼくの事を見逃した賢いリードくん。賢い人間は好きだぜ、ぼくは」
「……何で、今までその正体だとかを隠してきた。いや違ぇ、何で今になって大人しく話すんだ?」
「んー、この世界を愉しみたかったから。これまでは名乗る事が出来なかったけど、そろそろ出来そうだから?」
「名乗る……? そろそろ出来る、ってどういう事だ」
「そのままの意味だっつの。これまでぼくは名乗れなかった。でも多分、近いうちに忌々しい制限が解除されるだろうから、それでぼくは名乗れるようになる。もう、正体を隠す必要が無くなるんだ」
シュヴァルツ──この悪魔に課された制約のうちの一つに、『魔界の外にてその正体を名乗る事は許さない。』という項目があり……名乗る事が出来ない為、この悪魔はとてつもない弱体化を受けて正体を隠していた。
悪魔である事まで隠す必要は無いのだが、下手に大っぴらにして聖人とかそのレベルの人間が討伐に来たならば、さしもの悪魔と言えども、実力の九割を制限された状態なので面倒な戦いとなる事だろう。
そもそも悪魔にはそれぞれの真名《なまえ》があり、それを明かしてようやく真の実力を発揮出来るようになる。
だがこの悪魔はその正体を、真名《なまえ》を明かす事を許されなかった。故に、シュヴァルツなどと名乗り人間に擬態しているのである。
「ま、そーゆー事だから。そのうちお前等にもぼくの真名《なまえ》を教えてやるから楽しみにしとけ。はい、ぼくが飽きたからこの話終わりー」
まるで元の姿から反転したかのような白いふわふわの髪を、風にそよぐ草木のように揺らし、シュヴァルツは立ち上がった。
強引に話を打ち切り、シュヴァルツは話を戻さんとする。
(コイツ等も、彼女も……オレサマの正体を知ったらさぞかしイイ反応するんだろうなァ……ああ、その日が待ち遠しいぜ)
影で恍惚と歪むシュヴァルツの顔。彼のここまでの演技は、寧ろその時の為にやっていると言っても過言ではない。
「さて何の話だったか。ああそうだ、役割分担の話。シフト表いじったらぼくに渡してくれ。整合性に欠けない程度に後処理はこっちでやっておくから。逐一報告出来るように魔水晶も渡してやるし、何かあったらすぐ報告しろ」
空中におどろおどろしい色をした魔法陣が小さく浮かび上がり、そこから手のひらサイズの箱がポトリとシュヴァルツの手に落ちる。
それをラークに渡して、
「使い方は簡単。何でもいいから魔水晶に魔力を流し込めばいい。それはぼくの持ってる対の魔水晶にしか繋がらないから、安心して使い倒せ。つぅかマジで報告は怠るな。一大計画において報告・連絡・相談の欠如はめっっっちゃ大問題だからな!」
何度も釘を刺す。まるで過去に報連相を怠った部下がいて、その所為で非常に厄介な面倒を被ったかのような気迫である。
「わ、分かってるよ。しかしこんな貴重なものをポイッと出すなんて……君が人間じゃないのなら、どうしてこんなにも王女殿下に協力しているんだい?」
(──もし本当にこの子が人間ではない何かであって、周りの全ての目すらも欺ける程の擬態をやってのける程、優れた存在なら……益々、シュヴァルツが王女殿下に協力する理由が分からない)
大貴族と言えども易々とは手を出せない貴重な魔導具、それが通信用魔水晶。簡単には作り出せず、限られた者のみが使える連絡手段として有名だ。
そんな物をあっさりと渡して来たシュヴァルツに、ラークは一人疑念を抱き懸命に思考を巡らせていた。
しかしシュヴァルツは理屈になど沿わない。故に答えが見つからず、ラークは真正面から本人に尋ねる事にしたのだ。
「何でって……そりゃあ、この方が面白いからだけど。ぼくとしては彼女に死なれたら困るから、彼女の手伝いをしてるだけ。そこにちゃんとした理由なんてねーよ」
「でも、少なくとも今君がやってる事は王女殿下の生死とは関係の無い事だろう? どうしてそれに、君は少しの異も唱えず恭順するんだ?」
まるで本当に王女殿下の侍女になったみたいじゃないか。そう、ラークは告げる。
シュヴァルツの金色の瞳は見開かれ、彼の驚きや戸惑いを顕著に表す。暫し口を真一文字に結び、シュヴァルツは思考を巡らせる為に黙り込んだ。そして、
「……ぼくも、彼女にはそれなりに引け目を感じてるから。良かれと思ってやって、それで彼女も喜んで……でもその結果、何故か彼女を傷つけて泣かせた」
らしくもないしおらしさで、シュヴァルツはボソリボソリと語った。その満月のような瞳は細められ、偃月となる。