だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「嵐みたいな奴だったな……」
「……というか、僕達で本当にこの計画やるの? 恋のキューピットとかやりたくないんだけど、生き恥じゃん……」
「えーなんでだよー、ユーキも一緒にやろーぜ! バドにぃとクラねぇの結婚式見たいじゃん!!」
「それは……見たくない訳では、ないけど……」
「ならば俺達がバドールとクラリスの恋のキューピットにならないとな。大丈夫だ、俺も昔はラークから『シャルは本当に天使みたいだね』と言われていた。だから俺には元々天使の素質があったんだ」
「え……ラーク兄目ぇ腐ってんの……?」
取り残された私兵団の面々は、急な仕事について各々の心境を吐露する。しかしその目はどこかやる気に溢れていて、口ではとやかく言いつつも彼等がバドールとクラリスの結婚サポート計画に対して協力的である事が見て取れる。
しかしそんな中に一人だけ、浮かない顔をしている者が。
(……まさか、気づかれていたなんて。絶対誰にも気づかれないように、心の奥底に押し込んでいた筈なのに。なんで、よりにもよって、そんな人ならざる存在が俺の前に現れたんだよ……っ)
その瞳には焦燥が宿り、不安や恐怖から彼は強く奥歯を噛み締めた。
絶対に、誰にも気づかれてはならないもの。彼が二十年近く、本物の家族かのように過ごして来たディオリストラス達にさえ隠し通して来た、ただ一つの爆弾。
(大人しく彼の言う事を聞いていれば、バラされる事はないのかな。これだけは、何があってもディオ達に知られちゃいけない……何があっても、隠し通さないといけないんだ。そうじゃないと、俺は、もうディオの隣にいられなくなる──……)
いつでも穏やかに、強かに、ディオリストラスの相棒として彼を支えて来た大黒柱とも呼ぶべきラークが、かつて無い程に焦燥と恐怖に煽られていた。
その異変にディオリストラスも気づいたようで、彼はラークの肩を叩きその顔を覗き込む。
「どうしたんだラーク、さっきから黙り込んで……って、マジでどうした!? めちゃくちゃ顔色悪いぞ!」
「……っ、大丈夫だよディオ。仕事が一気に増えて気が遠くなってただけ」
ラークは空元気に振る舞い、なんとかディオリストラスを安心させようとするが、しかしその顔は未だ青ざめている。
これを見て、どう安心しろと言うのか。
「気が遠くなってただけ、って……もしかしたら何かの病気の前兆かもしれねぇだろ、とりあえず一回休んどけ」
「大丈夫だって。今仕事を任されたばかりなのに、もうサボったりなんてしたら駄目に決まってるでしょ」
「エリニティ達への連絡は俺達でやっとくから。いいから休めって」
「ちゃんと仕事はしないといけないだろ。俺が任されたんだから、俺が……」
「だぁから俺達が代わるっつってんだろ! 殿下程じゃねぇけどお前も一人で抱え込みすぎなんだよ! 俺達家族を頼れっていつも言ってんだろーが!!」
「っ!」
「それとも何だ、抱えられてベッドで寝かしつけてもらわないと休めない〜なんてメアリードみたいな事言うつもりか?」
「…………はぁ、分かったよ。休めばいいんだろ、休めば。抱えられるのも寝かしつけられるのも絶対に避けたいしね」
そう言って自ら寝室へと向かったラークの背に向け、ディオリストラスは声を投げる。
「昼飯と晩飯はユーキに用意させるからお前は安心して寝てろよな」
「は? 何で僕が……」
「後はお前かバドールしかまともに料理出来ないからだろ。期待してるぞ、ユーキ」
「はぁ? うっざ…………ディオ兄のご飯だけ野菜ばっかりにしてやる……」
「おい待てそういう差別は良くないと思うぞ」
ディオリストラスとユーキがぎゃあぎゃあと言い合う様子を温かい微笑みで見つめ、ラークは寝室に入った。
まだぴったりと背後に張り付いているかのような、まだ見ぬ先の恐怖に身震いし、彼は現実から逃げるように寝台《ベッド》の上で瞳をぎゅっと閉じた。
どうかこの恐怖を忘れられますように。そんな願いを傍らに、彼は涙を流しながら眠っていた。
「……ちゃんと寝てるな、よし」
数十分後、ラークが本当に休んでいるのか確認するようディオリストラスに言いつけられたシャルルギルが、じーっとラークの寝顔を観察してから立ち上がる。
彼の怜悧そうに見える瞳は優しく細められていて、薄い唇は緩やかな弧を描く。
まるで昼寝する我が子を見守る母親のような、そんな錯覚さえおこすかのような様相を呈していた。
(ラークは昔から俺達が出来ない事を全部やってくれていたから……知らないうちに、無茶をさせていたんだろう。これからは俺も、ラークが少しでも休めるよう沢山手伝わねば。皿洗いぐらいなら、多分俺でも出来る。自信はあまり無いが。ほとんど、いや全然無いが)
くるりと踵を返し、料理に勤しむユーキの手伝いをしようとシャルルギルが動き出した時。
僅かに、ラークの唇が動いた。
「……ごめん……ディオ…………」
それは寝言だった。しかしただの寝言にしては不可解で、何よりラークはずっと涙を流している。
どれだけ察しの悪いシャルルギルでも、流石にこれはおかしい事なのではと気づいた。
(ラーク……?)
ピタリと足を止めて今一度ラークの寝顔を見る。だがこの日、ラークはそれ以上寝言を言わなかった。
「……というか、僕達で本当にこの計画やるの? 恋のキューピットとかやりたくないんだけど、生き恥じゃん……」
「えーなんでだよー、ユーキも一緒にやろーぜ! バドにぃとクラねぇの結婚式見たいじゃん!!」
「それは……見たくない訳では、ないけど……」
「ならば俺達がバドールとクラリスの恋のキューピットにならないとな。大丈夫だ、俺も昔はラークから『シャルは本当に天使みたいだね』と言われていた。だから俺には元々天使の素質があったんだ」
「え……ラーク兄目ぇ腐ってんの……?」
取り残された私兵団の面々は、急な仕事について各々の心境を吐露する。しかしその目はどこかやる気に溢れていて、口ではとやかく言いつつも彼等がバドールとクラリスの結婚サポート計画に対して協力的である事が見て取れる。
しかしそんな中に一人だけ、浮かない顔をしている者が。
(……まさか、気づかれていたなんて。絶対誰にも気づかれないように、心の奥底に押し込んでいた筈なのに。なんで、よりにもよって、そんな人ならざる存在が俺の前に現れたんだよ……っ)
その瞳には焦燥が宿り、不安や恐怖から彼は強く奥歯を噛み締めた。
絶対に、誰にも気づかれてはならないもの。彼が二十年近く、本物の家族かのように過ごして来たディオリストラス達にさえ隠し通して来た、ただ一つの爆弾。
(大人しく彼の言う事を聞いていれば、バラされる事はないのかな。これだけは、何があってもディオ達に知られちゃいけない……何があっても、隠し通さないといけないんだ。そうじゃないと、俺は、もうディオの隣にいられなくなる──……)
いつでも穏やかに、強かに、ディオリストラスの相棒として彼を支えて来た大黒柱とも呼ぶべきラークが、かつて無い程に焦燥と恐怖に煽られていた。
その異変にディオリストラスも気づいたようで、彼はラークの肩を叩きその顔を覗き込む。
「どうしたんだラーク、さっきから黙り込んで……って、マジでどうした!? めちゃくちゃ顔色悪いぞ!」
「……っ、大丈夫だよディオ。仕事が一気に増えて気が遠くなってただけ」
ラークは空元気に振る舞い、なんとかディオリストラスを安心させようとするが、しかしその顔は未だ青ざめている。
これを見て、どう安心しろと言うのか。
「気が遠くなってただけ、って……もしかしたら何かの病気の前兆かもしれねぇだろ、とりあえず一回休んどけ」
「大丈夫だって。今仕事を任されたばかりなのに、もうサボったりなんてしたら駄目に決まってるでしょ」
「エリニティ達への連絡は俺達でやっとくから。いいから休めって」
「ちゃんと仕事はしないといけないだろ。俺が任されたんだから、俺が……」
「だぁから俺達が代わるっつってんだろ! 殿下程じゃねぇけどお前も一人で抱え込みすぎなんだよ! 俺達家族を頼れっていつも言ってんだろーが!!」
「っ!」
「それとも何だ、抱えられてベッドで寝かしつけてもらわないと休めない〜なんてメアリードみたいな事言うつもりか?」
「…………はぁ、分かったよ。休めばいいんだろ、休めば。抱えられるのも寝かしつけられるのも絶対に避けたいしね」
そう言って自ら寝室へと向かったラークの背に向け、ディオリストラスは声を投げる。
「昼飯と晩飯はユーキに用意させるからお前は安心して寝てろよな」
「は? 何で僕が……」
「後はお前かバドールしかまともに料理出来ないからだろ。期待してるぞ、ユーキ」
「はぁ? うっざ…………ディオ兄のご飯だけ野菜ばっかりにしてやる……」
「おい待てそういう差別は良くないと思うぞ」
ディオリストラスとユーキがぎゃあぎゃあと言い合う様子を温かい微笑みで見つめ、ラークは寝室に入った。
まだぴったりと背後に張り付いているかのような、まだ見ぬ先の恐怖に身震いし、彼は現実から逃げるように寝台《ベッド》の上で瞳をぎゅっと閉じた。
どうかこの恐怖を忘れられますように。そんな願いを傍らに、彼は涙を流しながら眠っていた。
「……ちゃんと寝てるな、よし」
数十分後、ラークが本当に休んでいるのか確認するようディオリストラスに言いつけられたシャルルギルが、じーっとラークの寝顔を観察してから立ち上がる。
彼の怜悧そうに見える瞳は優しく細められていて、薄い唇は緩やかな弧を描く。
まるで昼寝する我が子を見守る母親のような、そんな錯覚さえおこすかのような様相を呈していた。
(ラークは昔から俺達が出来ない事を全部やってくれていたから……知らないうちに、無茶をさせていたんだろう。これからは俺も、ラークが少しでも休めるよう沢山手伝わねば。皿洗いぐらいなら、多分俺でも出来る。自信はあまり無いが。ほとんど、いや全然無いが)
くるりと踵を返し、料理に勤しむユーキの手伝いをしようとシャルルギルが動き出した時。
僅かに、ラークの唇が動いた。
「……ごめん……ディオ…………」
それは寝言だった。しかしただの寝言にしては不可解で、何よりラークはずっと涙を流している。
どれだけ察しの悪いシャルルギルでも、流石にこれはおかしい事なのではと気づいた。
(ラーク……?)
ピタリと足を止めて今一度ラークの寝顔を見る。だがこの日、ラークはそれ以上寝言を言わなかった。