とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
「気をつけろ、ミク。また怪我するぞ」
ぶっきらぼうに、でも心配そうに言うナイアスに、「はーい」と無邪気に答えるミク。
2人の後ろには、ナイアスの婚約者のイザベル嬢が悔しそうに、悲しそうに、佇んでいる。
———まあ、そうなるよね。
私の胸も、ちくちくと痛む。
ナイアスとイザベルも、仲の良い婚約者同士だったのだ。
ミクが出現するまでは。
『魅了』——ミクは、果たして意識してその能力を使っているのだろうか。
そう思って観察してみたが、どうも無意識っぽい。
自分が好ましく思っているから、相手にも自分を好きになってもらいたい。
そんな、ごく自然な心の動きそのままに、彼女は公爵家でも、学校でも人気者になりつつあった。
——それは、つまり。
彼女に悪感情を持つものは、排除されるということで。
私は話している2人の横を通り抜け、イザベル嬢の所に行った。
「イザベル様、ごきげんよう」
「マーガレット様…」
慌ててカーテシーをしようとするイザベルを止めて、私はミクに声をかける。
「ミク、ごめんなさい。イザベル様とお話があるので、先に帰っていてくださる?」
「はい、メグお義姉様」
帰らないんだろうな~ナイアスと出かけちゃったりするんだろうな~お友達とか言うんだろうな~と思いながら、止め立てはしない。
そんなことしようものなら、皇太子殿下をはじめ、籠絡された攻略対象者の皆様に、寄ってたかって袋叩きにされてしまう。
そんなことより、大切なことが私にはあるのだ。