とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
流石、高位貴族や要職にある人物の令息の婚約者を務める女性達。
同じことを思っていたらしく、皆の眸が私を捉える。
「ではまず、今から話す内容を他言無用に願えますか?
ご両親にも、側近の方にも」
それぞれの眸をしっかり捉えながら、確認をしていく。
最初にイェーナ様が、強い光を宿した眸で私を見つめた。
「よろしくってよ、お約束します。
何なら、魔法契約を結んでも構いません」
毅然と言い放つ。
カッコいい女性だ。好きだなこのタイプ。
見回すと、カトリーナ様、イザベル様、アンナマリー様も、腹を括った表情をして頷いている。
「では、皆さんを信じてお話ししますわ。
私、もうすぐ隣国へ留学いたしますの。
皆さま、この騒動が落ち着くまで、ひとまず一緒に留学いたしませんか?」
おそらく、このままいくと、男性側からの婚約破棄もしくは解消となる。
その場合、大体女性より男性が高位なため、女性側に不利な理由をでっちあげられ、噂を使って貶められ、慰謝料の値切りもしくは踏み倒しが発生する可能性が高い。
それを防ぐためにも、私達自身はこの場から離れて、専門家に対応を任せた方が良い。
勿論、その専門家は、私が用意する。
正当・無事に婚約解消ができた場合には、私の伝手で隣国の貴族との縁組も可能だが、自力で生活したい場合は私の持つ商会の商会員と、隣国の通訳、公的機関の職員の身分を用意できる———
「……驚きましたわ」
一通り話し終わって、まずイェーナ様が呟いた。
カトリーナ様とイザベル様、アンナマリー様も、頷く。
…あれ?4人とも心なしか、眸がキラキラしてる?
「私、自分の力で生きていくということを考えたことがありませんでしたの。
何か憑き物が落ちた気分ですわ。
女性でも、自分の力で何かできますのね」
意外にもカトリーナ様がそう言った。
アンナマリー様も、唇をぎゅっと噛み締めている。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「私は、正直何をして良いのかわかりません。
だから、留学をすることでそれを見つけることができたら…」
少し震える声で、でも力強く、彼女は言った。
以前から準備していた『逃げ道』に、彼女たちを誘おうと決めたのは、1ヶ月程前だ。
自分のコピーのようで、見ていられなかった。
ちょうど隣国に行く仕事があったので、学院を休んでワルター王子と面会をした。
4人の令嬢の件を相談すると、快く仕事を斡旋してくれた。
「その代わり、メグ、お前俺の嫁になれよ」と、ウインクしながら言われたのはご愛嬌だ。10歳も上の遊び人の嫁なんか絶対ヤダ‼︎
「そんなこと言って!ローズ姉様に言いつけちゃいますよ?」
って言ったら黙った。
ローズ姉様は、隣国の高級妓楼のトップだ。
ひょんなことで知り合ってから、とても可愛がってもらっている。
しょっちゅうその妓楼を利用しているワルター王子は、ローズ姉様に頭が上がらない。
話が逸れたが、遊び人だが有能なワルター王子が紹介してくれた職だから、信用できる。
傷心の女性達には、自分に自信を持ってもらわないとね。
「我が公爵家もそうなのですが、家が婚約解消を認めない場合もあります。
その時は、私が皆様をお誘いして旅行に出て、そのまま留学にお誘いしたことにいたしましょう。
公爵家の誘いであれば、断れなくても不自然ではありません。
お願いしたいのはまず、証拠と皆様のお話で、ご両親を説得できるか見定めて、説得できない場合はすぐに引いてください。
しつこく食い下がると、『旅行』にも行けなくなる可能性がありますので」
4人それぞれに、緊張感が走る。
私は言葉を続けた。
「無論、この申し出自体を拒否していただいても構いません。
私は、貴女方に何も強制する気はないのです。
ただ、1人からでもこの計画が漏れると、色々とやりにくくなってしまいます。
それだけは無いよう、それぞれ心掛けてくださいませね」