とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
「……そのお話、是非受けさせていただきたいです」
意外にも、一番に賛同してくれたのは、イザベル様だった。
「正直に申しますと、もう見ていられなかったのです。
彼の方の醜態を。
いっそ隣国というのが嬉しいですし、今回のことで男性に頼って生きることの危険性をしみじみ感じましたわ。
私、出来る事なら、自分の力で生きてみたいと思っております。
伯爵家のことも、マーガレット様のおっしゃる専門家の方にお任せすれば、悪いようにはなりませんわね?」
「それは保証いたしますわ。
何せ、お任せするのは高等法院の副判事長、ラインバード侯爵様ですから」
ラインバード侯爵様は、50代半ば程の年齢の、貴族間の問題を多く扱う判事だ。
公正で公平な裁判に定評のある方。
経験も豊富だし、安心してお任せできる。
そして、私の件に関しては、証拠を既に渡してある。
その上で、ミクとエドウィンが結婚すれば慰謝料はプラスマイナスゼロになるよう、お願いしている。
「…貴女は、それで良いのですか?」
ラインバード侯爵様に何度も聞かれた。優しい。
そして、ミクをなるべく法廷に出さない方が良いとも伝えてある。
聖女である彼女は、貴族を含め民衆からの人気が絶大だ。何せ、スタンピードから守ってくれた大恩人である。
今回の件も、男性側がミクに入れ上げているため、ミクに責任を問うのは難しいだろう。
そうなった理由も、おそらく私だけが知る能力のせいだし。
一番恐れるのは、その魅了を、判事相手に使われることだ。
公正な仲裁にならなくなってしまう。
それだけは避けたいから、ミクを法廷に近付けたくないのだ。
あの子自身は、ただ『普通』に過ごしているだけだ。
但し、『日本』の常識に近いところで。
あの子なりに、一生懸命こちらの世界に合わせようともしている。
だから、保身の意味もあって、『妹』を大切にして可愛がっていると見えるように接することに、あまり抵抗は無い。
実際、可愛いと思ってるしね。素直な良い子だから。
皆に愛され、大切にされるミクは、恐らく幸せだろうから、放っておいても大丈夫だろう。
エドウィン様に対しては、100年の恋も冷めている。いや、恋してさえいないけどね!
気持ちがグラついたのは、一時の気の迷いだ、絶対。
だから、断罪さえされなければ、何の問題もない!
私の事情を話した上で、4人の令嬢達にはそれぞれの家に慰謝料が入る形になるよう動いてもらうと告げた。
相手の有責を対外的に示すためだ。
そうすれば、次の相手ができやすくなる。隣国で探すので、傷物扱いはされにくいだろう。
そこまで話して、カトリーナ様とアンナマリー様が同意してくれた。
カトリーナ様とアンナマリー様は一学年下なので、中途の留学という形を取ることで落ち着いた。
イェーナ様は、去年病気のため参加出来なかった春の魔術実習を終えないと早期卒業制度が使えないので、他の方法が取れないか迷っていたが、恐らく断罪が行われる卒業パーティーは夏の終わりなので、ギリギリ間に合うと判断、賛同することになった。
私は、ちょっと悪役っぽい微笑みを浮かべた。
「では皆様、ここからは私達、運命共同体ですわ。
さり気なく、仲良くなったことを周囲にアピールしていきましょう。
一緒に居ることが不自然に見えないように、ゆっくりとしていきましょう。
社交の腕の見せ所ですわよ!」
「お任せくださいまし、やり切って見せますわ!」
イェーナ様が強い眸を私に向けた。
頷く私に、他の3人も倣う。
——後に、この部屋の名を取って『蒼星の会』と呼ばれる、女傑の会結成の瞬間である。