とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
ミクにエドウィン様が入れ上げ始めてから10ヶ月程経った。
蒼星の会の皆との親交も深め、学院でも認知されるようになったので、そろそろ頃合いと判断した私は、お父様とお母様に、留学の話を入れた。
案の定、すんなりと許可される。
ついでに、筆頭婚約者候補の名をミクに変えてもらえるよう、皇宮に打診してもらうようにした。
こちらも、やはりすんなり許可がおりた。
——タイミング完璧だ。
私はほくそ笑む。
戦略・戦術の先生ありがとう!
蒼星の会の中でも、アンナマリー様は無事相手の有責での婚約解消が成り、後は留学を待つばかり。
カトリーナ様の所は、交渉中だが上手く行きそうな流れだ。
無論、留学も問題ない。
この二家は、家族が娘の味方になってくれたので、解決が早かった。
問題は、イザベル様とイェーナ様。
親が政略結婚に拘り、二人がもうすぐ婚約破棄される可能性が大であることを告げても、取り合わない。
特にイザベル様の家はイザベル様を監禁する動きを見せたので、私が割って入って、イザベル様を行儀見習いとして公爵家で預かっている。
この頃になると、私の両親と兄は、悲しいほど私に無関心。娘や妹はミクだけと思っているかのよう。
だから、ミクに近しくない使用人は、私に同情的だ。ありがとう皆。
——分かっていたけど、辛いところだ。
でも、私はそれを利用する。
留学も、イザベル様を預かることも、そのお陰ですんなり行く。
だから、ミクを恨む必要はない。
私は自分に言い聞かせる。
早く家を出なきゃ、いけない。
出来るだけ早く。
私は、準備万端だったのもあって、1週間後の出発を決め、会の皆に通達する。
イザベル様、アンナマリー様は共に行き、ひと月遅れてカトリーナ様が合流する手筈が整った。
イェーナ様は、ひと月半ほど後にある魔術実習を終えたら、こっそり早期卒業の書類を提出して、ふた月後に私の所に『旅行』に来る。
慌ただしく全ての手配を終えて、一息ついていた私の所に、ミクが訪ねて来た。
すれ違いが多く、直接留学のことは話せていなかったなと思っていると、案の定その話で。
「お義姉様、家を出られて留学されるって本当ですか?」
私は、努力して笑顔を作る。
公爵令嬢だもの、感情を隠すのはお手のものよ。
「そうよ、ミク。しっかりお勉強してくるから、お父様やお母様、お兄様をよろしくね」
微笑みを浮かべた私を辛そうに見て、ミクは更に言った。
「……エドウィンさまの婚約者を降りて、私に変えるよう進言されたと聞きました。
私の、せいです、か……?」
——分かり切っていることを聞かないで。
心の中が、黒く染まっていくのを感じた私は、一度眸を閉じて、深く息を吸った。
そして、再び完璧な笑顔を浮かべた。
「いいえ、それは違うわ。
エドウィン様が望まれたのだもの、当然の変更よ。
私は、私のやりたいことのために発つの。
新しいことにワクワクしてるわ。
祝福して、送り出してくれるわよね?聖女様」
冗談めかしてウインクして。
「貴女は貴女で、幸せにおなりなさい。
本当に感謝しているのよ。貴女がこの世界に来てくれたこと。
会いたくなったら、遊びにいらっしゃいな。
貴女なら、いつでも大歓迎だから」
両手を握って、そう告げた。