とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
「——流石ですわ、メグ」
この頃になると、お互い愛称呼びになっている、『蒼星の会』のメンバー。
馬車の中で、アリーが言う。アンナマリーの愛称だ。
1週間前のやり取りを、ベルが話したのだ。ベルは、イザベルの愛称ね。
「——だって、今更ですもの。
何もかもね」
私は苦笑した。
もう手放したものに、未練は無い。
無いったら、無いのだ。
そして1週間の旅の後、隣国シューレントの王都シューメルに到着した。
道中は、途中合流した私の商団と同行したので、特に危険もなく——あったところで、私の魔法で丸焼きになるだけだが——関所に入ったのだが、そこで思わぬ人が待っていた。
「よぉ、無事着いたか、メグ」
「……こんな所で、何してるんですか?
ワ…」
「待て!ここではダンと呼べ‼︎」
喰い気味に言う長身の男性。
ワルター王子だ。
「…とにかく、何してるんですか?」
頭痛を感じて、こめかみに手をやると、ワルターもといダンは、ニヤリと笑った。
「ん?スカウト」
「はい?」
令嬢にあるまじき反応を返してしまった。
どういうことか分からず、そのまま眸を見返して先を促す。
「俺、来月から帝国担当で外交官するのよ。こっちとあっちの言葉に明るい秘書を探してましてね。心当たりはおありでない?」
相変わらずふざけた物言いだ。全く。
うーん、私はやりたい事があるしなぁ。
後ろの2人を振り返る。
2人とも、戸惑った表情。
「あ、じゃ、キミどう?」
王子が手を差し伸べた先にいたのは、アリー。
——なんだ、ちゃっかり調べてるじゃない。
他に行かれる前に、確保しに来たな。
アリーの家は、外交官の家柄。
学院はまだ卒業ではなく、留学しに来たのだけど、それでもいいのか確認すると、王国の学園に通いながらでも良いとのこと。
ワルター王子の『人を見る目』は確かだから、アリーは外交官か、その補佐の素養があるのだろう。
勢いに押されて頷くアリーに、私はもう一度確認を取る。
自分の『意思』で、決めて欲しい。
そう言うと、今度は、決意を込めてはっきりと頷くアリー。
「私は、やってみたいです。
お役に立てるかどうか、分かりませんけど」
王国に来て早速の進路決定に、私は明るい未来が見えたような気がした。
「——皆さま、覚悟はよろしくて?」
私は、悪戯っぽく笑った。
「今までの10倍忙しく、100倍楽しくなりますわ‼︎」
アリーとベルも、楽しそうに微笑んだ。
——この3年後、11歳も歳下のアリーに恋したワルター王子が、彼女を王子妃に迎えようと奮闘し始めるのは、また別のお話———