とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
取り戻すために
4人は、最後まで静かに聞いてくれた。
私が語り終わると、誰からともなく大きな溜息。
ベルが立ち上がり、離れて待機していた侍女にお茶を持って来るよう指示を出した。
「私達、『神の意思』みたいなもので、酷い目に遭ったのですね…」
遠くを見つめながら、カティが呟いた。
こんな荒唐無稽な話を頭から信じている、それは証拠だった。
「ああ、だから実習の時、私、おかしかったのね」
ナナが呟く。
詳しく聞くと、春の実習の時、よくミクが話しかけてきたそうだ。
相手は公爵家養女だから、無下にするわけにもいかず、最初は渋々相手をしていたそう。
それが2日目くらいから、不思議とミクに対する悪感情が感じられなくなり、終わる頃には『好き』とすら思っていたそう。
しかし、終わって丸一日経つと、その感覚も無くなった。
自分自身、不思議な感情の動きで、とても気持ち悪かったということだ。
他の皆も、神妙な顔をしていた。でもその表情には、不信や疑いの要素は一切無くて。
また、涙が溢れそうになる。
それをグッと堪えて、何か聞きたい事があるか尋ねた。
はい、と手を挙げたのは、アリーだ。
「お聞きしますが、メグと聖女は、異世界の同じ所から来られたのですね?」
「そう。同郷なの」
『日本人』のように話すのは、無意識だった。
「そこには『ラノベ』なる本があって、似たようなお話がたくさんあると。
そのお決まりのパターンの中で、物語が進むのですね?」
私は頷く。
アリーの質問が、私の話を補完してくれる。
それがとても有り難かった。
「『魅了』という能力も、そのパターンに入りますか?」
「入るわ。簡単に言えば、『誰もがその能力の持ち主を愛さずにいられない』というのが、一番多いかな。
狙って王族や高位貴族に能力を使って、妃や貴族夫人になろうとするような子がヒロインの場合もあるの」
「ということは、『かけられる』人は、『心』を捻じ曲げられるのですね」
「本当に魅了の持ち主を好きになる場合もあるから、一概には言えないかな」
アリーと私の受け答えに、他の3人が考え込む。
暫くの沈黙。
その間に、侍女がお茶を配った。
日本で飲んだ、ダージリンに似た味わい。
熱くて、気持ちを落ち着けるような味と香りに、ホッとする。
「そのような『能力』や『物語の流れ』に、自分の未来を捻じ曲げられたと怒れば良いのでしょうけど……」
ナナが、顔を顰める。
「怒れないですわね…今が楽しすぎて」
「「「そうなのよ」」」
カティの呟きに、皆が同意する。
「私、ここに来て本当に良かった。幸せですわ。
何より、皆さんと仲良くなれた。
むしろ、『魅了に感謝』ですわね」
ベルが、しみじみと言う。
それぞれが、笑顔で頷く。
「だから、ミク様をお助けしますわ。
私の意思で」