とあるヒロインと悪役令嬢の顛末〜悪役令嬢side
未来を掴むため
結局、3回ほど準備探索をした。
その間、私は久しぶりの『魔法使い』としての役割を担った。
正直、最近は魔道具造りで繊細な魔法ばかり使っていたので、久しぶりの攻撃魔法は楽しかった。
もう一度言うが、凄く楽しかった。
年の近い特級冒険者の剣士、アダムくんに『えげつない』と評される程度にぶっ放して、同行のギルド長グスタフさん、盾役の30代独身男性シュタイナーさん、妖艶な『永遠の22歳』、美女魔法使い(回復寄り)アリスさんにドン引きされた。
因みに私はオールラウンダー型の魔法使いで、ほぼ全ての属性が使える。
魔力量も多いので、魔力切れを起こすことも、ほとんどない。
学院にいる間は、訓練で小さなダンジョンには潜っていたし、魔物相手もそこそこ慣れている。
「可愛らしく『えーい』って、包囲殲滅魔法で使う掛け声じゃねぇだろ!」
アダムくんが、魔物の血が付いた剣を払いながら、顔を顰めて言う。
シュタイナーさんも泣きながら頷く。
「いいじゃないですか、そんな感じだったのですから‼︎
魔法って、『感じ』大切なんですのよ、『感じ』!」
私の言葉に頷いてくれたのは、アリスさんだけだ。
さすが魔法使い同士、分かり合える!
私たちのやり取りに爆笑していたグスタフさんが、涙を拭きながら口を開く。
そんなに面白い⁉︎私はふくれっ面で聞く。
「お嬢、本気で冒険者やんねぇか?
今なら特級のタグをプレゼントすんぞ!」
そんなオマケか叩き売りみたいに言わないで欲しい。
特級タグって滅多にお目にかかれないよ⁉︎
「そんな、何かのセールみたいに言わないでください‼︎」
同じことを思ったらしいシュタイナーさんが咽び泣く。
シュタイナーさんは、つい最近特級に上がったばかり。そりゃ泣くわ。いや、さっきから泣いてたなこの人。
シュタイナーさんが泣いているのは、今回5階層にちょっと厄介な魔樹がいて、嫌な幻覚を見せたからだそう。
私とアダムくんは見なかったんだけど、シュタイナーさんは、魔樹が愛する人に見えて大変だったらしい。
今まで何度も精神攻撃系の魔物に遭遇して幻覚も体験したけど、数倍リアルだったみたい。
私が火魔法で攻撃した時、小さく悲鳴あげてたもんな。
「二度はかかりません!」と宣言してたけど、ちょっと辛そう。
因みに、グスタフさんとアリスさんは、内容を教えてくれなかった。
……うん、まぁ、聞かない方がいい気がする。イケオジと美魔女は、色々と抱えてそうだし。
出現する魔獣や魔樹たちは、どの階層もランダム出現みたいだが、降りるほど強くはなっていそう。
まぁ、やってみないことには分からないことだ。
「とにかくだ。お嬢の実力はよくよく分かった。
それに、本当に精神干渉の影響受けないんだな。
——じゃ、明後日、本番といくか」
グスタフさんが言った。
ギルド長がこんな実戦に出ていいの?と思っていたけど、グスタフさん曰く、「面白そうな事に首を突っ込むのは、冒険者の性」らしい。
——明後日。うん。頑張る。
私は、決意を固めて、エドウィン様に伝書便を送った。
アタックの日が決まったら、知らせる約束だ。
次の日の夜、エドウィン様がワイバーンで私たちのキャンプ地にやってきた。
乱れた髪もそのままに、彼は私のテントの入り口から顔を覗かせた。
「——決まったんだね」
「ええ、明日発つわ」
青ざめた顔で聞くエドウィン様に笑顔で答えると、入ってきたエドウィン様の手がスッと伸びてきて、いつものように抱きしめられる。
「——本当は、行かせたくないんだ」
「分かってるわ」
「でも、君は行く人だ。
どんな困難にも、堂々と立ち向かう。
——そんな君を愛してるんだから、もうどうしようもないな」
自嘲するように笑うエドウィン様。
ねぇ、気がついてる?
私、貴方に敬語で話してないのよ。
貴方は、私に一番近しい人になったの。
どうしようもないのは、私も同じなのよ。
私は、そっとその頬に触れた。
「ウィン、帰ってきたら、大切な話があるわ。
聞いてくれる?」
私は、私が怪我をしたり死んだりすることはないと確信している。
何故かと言われても分からないけど、確信がある。
だから、今回のことは、私の中のケジメと切欠。
ミクのことが片付く目処が立って、やっと貴方に向き合える。
「———期待してて、いいのかな?」
頬を緩めるエドウィン様を、安心させるように微笑んで。
「もちろんよ」
私は、精一杯、笑った———