雨乞いの町
しばらくすると町の通りが賑やかになり、異国の服を着た男たちが歩き回り始めた。
そしてその男たちを、鮮やかな着物姿の女たちが、わが宿へと招き入れている。

雨が降っていることも忘れてしまうくらいの喧騒。

男たちは一晩の快楽のために女を物色し、女たちは金と名誉のために男に媚びを売る。

ここで上客を捕まえることができれば自分の格が一気に上がるため、女たちは必死になっている。

そんな光景を、琴音は二階の窓からぼうっと見下ろしていた。
通りに出ている女たちに、いつかの自分の姿を重ね合わせながら。

「私は本当に幸せ者だわ。」
ぼそっと呟く。

その時、静かに後ろの襖が開いた。

「琴音さん、いらっしゃいました。」
そう言って深々と頭を下げる雪乃の後ろに、一人の男が立っている。

深い青の異国の服を着た端正な顔立ちをしたその男は、琴音の姿を見るなり満面の笑みを浮かべた。

「琴音、会いたかったよ。」
男は琴音に歩み寄ると、優しく抱きしめた。
「真太郎さま…。」

「どれくらいぶりかな。今日までがとても長かった。」
そう言って、男は琴音の額に口づけた。
「十日です。雨が降る日を心待ちにしておりました。」
「僕もだよ。」

二人は抱き合いながら、綺麗に整えられた布団の上に倒れ込む。

「真太郎さま、お食事の準備が…。」
男は、琴音の唇に触れた。
「こんなに美しい琴音を見たら、食事どころではないだろう?」

唇、頬、首、胸…と、男の唇が琴音の白い肌をなぞっていく。

先程、雪乃が丁寧に着付けた着物はすでにはだけ、琴音の艷やかな体があらわになった。

「琴音…愛してるよ。」
「…私もです。」

二人の荒い息遣いだけが部屋に響く。

雪乃は静かに襖を閉めて廊下に出た。

廊下では雪乃と同じ年齢くらいのお付きの子たちが、料理や酒を持って忙しそうに部屋を出入りしていた。
襖が開くたびに、中からは楽しそうな話し声が聞こえてくる。

他の姉さまたちも、お相手を見つけることができたようだ。

今夜も結城屋は大繁盛である。
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