オリオンの夜明け〜一生大切にするから〜
「あ、パパのオムレツもすごく美味しい」

「春樹のオムレツって、絶妙なのよね、作り方は結構適当なのに」

「まだ拗ねてんの?」

ビールに口付けながら、唇を引き上げた俺を見ながら、未央が、切長の瞳を細めた。

「全然。誰だと思ってるの?」

思わず、ふっと笑った俺を見て、星香も笑う。

「今日も、未央ちゃんの勝ちね」

「そうね」

星香に向かって、にこりと微笑む未央の笑顔に、俺は思わず見惚れていた。

未央が、こんな風に優しく微笑みかけるのは、星香にだけだ。

本当の親子のように、仲良く談笑しながら食事する、二人の姿に、俺の心の中も幸せで一杯に満たされていく。



星香の好きな苺のショートケーキを食べて、三人で紅茶を飲んでいた時だった。

「あら、カモミールティーだったから、リラックスしすぎて、星香が寝ちゃったわね」

未央が、星香の長い黒髪をそっと撫でた。

「寝顔はいつまでもあどけないな」

「星香の寝顔も、いつまで春樹が独り占めできるかしらね」

未央がクスクスと笑う。

「何?」

「将来の星香の彼氏が気の毒になっちゃって」

「彼氏とか、気が早いだろ」

不満そうにした俺を見ながら、未央がまた、笑う。

「ふふっ、春樹の拗ねた顔も久しぶりに見たわ」

ふわりと微笑む未央に見つめられて、思わず、顔が熱くなりそうになった俺は、ふいと顔を背けた。

未央が、席を立つとティーカップ をシンクへと持っていく。

「春樹、星香お願いできる?」

「あぁ、寝かせてくるよ」

俺は、立ち上がると、すやすやと眠る星香を、抱き抱えて、階段を上がる。明香の部屋のドアを開けると、星香をそっとベッドに寝かせて布団を掛けた。

「もう、12年か……」

星香が、歳を重ねるのは勿論嬉しい。ただ、星香が歳を重ねた分だけ、俺は明香に会えていない。明香に会えるのはもっともっと先の話だから。その時、明香に胸を張っていいたい。未央と一緒に、ちゃんと星香を育てたことを。

「寝顔まで、明香にそっくりだな」

触れた頬の柔らかさや呼吸音まで似ていて、まるで明香が眠ってるみたいだ。

「おやすみ」

俺は、星香の頭を撫でると、静かに部屋の扉をしめた。
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