オリオンの夜明け〜一生大切にするから〜
「そうじゃないけど……私は、星香の母親じゃないから……それに、いつまでも、私が居たら、星香だって変な目で見られるかもだし、周りの目だって気になる年頃になるでしょ?……あと、何より……」

そこまで言って、口籠もった私に春樹が、小さく溜息を吐いた。

「俺が、明香を忘れられないから?」

春樹が、グラスを置くと、私の頬に触れて、グイと春樹の瞳と視線と合わせられる。

「確かに、俺は、明香を愛してる……忘れられない。でも……俺にとって未央は、明香と同じ位、大切なんだ。これからも大切にして、誰よりも幸せにしたい。一生大切にして離さないから。だから、俺の側に居て……もう誰も失いたくないんだ」

春樹から、そんな言葉を言われるなんて、夢みたいだ。ずっと春樹しか見ていなかったから。春樹が幸せならそれで良かったから。

「……春樹……」

名前を呼べば、目の奥が熱くなって、ポタンと落ちたものが自分の瞳からだと気づく。

「……未央、俺の前では弱くていいから」

春樹の前で泣いたのは、いつぶりだろう。星香に此処にいてほしいと泣きつかれた時以来、泣いてないかもしれない。

「やだ……春樹にだけは、弱いところ見せたくないの」

「意地っぱりだな、本当は泣き虫なくせに」

春樹が、私の髪を星香にするみたいに、くしゃっと撫でた。
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