真夏の夜の夢子ちゃん
蛍の川には、以前と同じ光景が広がっていた。
薄暗い街灯。光りながら飛び交う蛍。それを見に来ている人たち。草むらに隠れて姿の見えない虫たちの、耳障りな鳴き声。

今年は暑くなるのが早かったために蛍の発生も早かったとかで、以前よりも数が少ないようにも思えるが、特に興味はないので問題ない。

息をひそめて蛍を眺める人々を横目に、洸平は長い黒髪の白い浴衣を探した。

実際、あの子が未だに黒髪かどうかはわからない。髪も短く切って、茶髪になっているかも。浴衣だって白ではないかもしれないし、そもそもいつも浴衣を着ているとは限らない。

そうは思うのだが、あの子の手がかりがそれしかないのだから仕方がない。

川に沿ってゆっくりと歩き、あまり人がいない辺りまで行ってみた。しかし、あの子らしき姿は見つけられない。
来た道を戻り、もう一度目を凝らして探してみるが、やはりいない。

洸平は拍子抜けした。
そして、あんなに慌てて家を飛びだしてきた自分が恥ずかしくなった。

どうしてあの子に会えるだなんて思ったのだろう。
約束もしていないのに、同じ時間に同じ場所で3回も会うことができたのなら、それは奇跡と呼ぶべきだ。到底、普通ではない。

でもその普通ではないことが、自分とあの子との間でなら起きてしまうような気もしていた。
説明などできないが、とにかくそんな気がしていたのだ。

洸平は、はぁっとため息をついてゆっくりと土手を上った。先程までとは違って、足取りは重い。

また明日来てみようか。
いや、でもあの子に会えるという保証はない。

…いやいや、でも、会えないという確証もない。

そんなことを考えながら土手を上りきって顔を上げると、道の向こう側にあるバス停が目に止まった。
あの子と雨宿りをしたバス停だ。

3年前よりもいっそう古びた感がある。
バス停の中の蛍光灯の光は、相変わらず消えてしまいそうなほど弱々しい。たまにチカチカと点滅している。

もう家に帰ろうかと思ったその時、バス停の中に白い人影が見えた。
一瞬背中がひやりとしたが、よくよく見ると、白い浴衣を着た長い髪の女の子がベンチに座っている。

いた。
あの子だ。

洸平の心臓は一気に跳ね上がった。

気がつくと、バス停に向かって駆け出していた。
< 12 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop