真夏の夜の夢子ちゃん
「こんばんは。」
洸平が声をかけると、女の子は顔を上げた。
「こうすけ…。」
と言って、嬉しそうに微笑む。
白地に紫の朝顔の柄の浴衣を着た彼女のその顔は、3年前よりもぐんと大人びていて、少しの色気のようなものを感じさせた。
大きな目は吸い込まれそうなほど力強く、こちらの動きも思考も止めてしまう。
どうしてこの子は、こんな瞳で見つめてくるんだろう。
洸平の心臓はさらに早くなり、体が熱くなる。
それにしても、また「こうすけ」と呼ばれた。俺の名前は「こうへい」なんだけどな。
しかし改めて自己紹介をするというのもためらわれて、洸平は気づかないふりをした。
「ここで…何してるの?」
そう言うと、女の子は横に置いていたスニーカーを洸平に差し出してきた。
「…えっ、これって…。」
見覚えのあるスニーカー。小学生の頃好きだったスポーツブランドのものだ。あの日このバス停で雨宿りをした時に、この子に貸してあげたスニーカー。
「これ…返さなきゃって。」
女の子は洸平を見上げた。
「…待ってた。」
不安そうな顔をしている。
洸平は雷に打たれたような衝撃を受けた。
待ってたって…?
もしかして毎年、ここで…?
「夏になると来るって…言ってたから。」
そうだ。
確か前に、そんな話をした。
まさかそれを覚えててくれて、毎年、来るかもわからない俺を待っててくれたんだろうか。
胸がきゅっと締めつけられる。
そして、洸平はものすごく申し訳ない気持ちになった。
せめて自分の連絡先くらい教えておけばよかった。そしたらこの子は、毎年ここで待つ必要なんてなかったのに。
「…傘は…壊れちゃって…。」
女の子は言いにくそうに下を向いた。
「傘…?…あぁ。」
このバス停にあった傘のことか。
「大丈夫だよ。あんなビニール傘、どこにでも売ってるし。きっと持ち主だって忘れたんじゃなくて、置いていったんだと思うよ。」
洸平が優しく言うと、女の子は顔を上げた。
「…本当?」
「うん。大丈夫だよ。」
洸平は女の子の手からスニーカーを受け取った。
あの日、雨で泥々に汚れてしまったはずなのに、とてもキレイだ。洗濯してくれたのだろうか。
しかしもうこのスニーカーを履くことはない。趣味も変わってしまったし、そもそもサイズが小さすぎる。
それでもこの子が3年間も大事に持っていてくれたものだと思うと、まるで宝物をもらったようで、少し嬉しい。
「返すの…遅くなってごめんなさい。」
女の子が言った。
「そんなことないよ。俺こそごめんね。ずっと来れなくて。」
「…怒ってない?」
少し潤んだ瞳が、洸平を見つめる。
あ、ヤバいかも。
洸平は、体の中から湧き上がってくるものを感じて焦った。
「…怒ってなんか。」
そう言いながらスニーカーを足元に置くと、女の子の横に座った。
「怒ってなんか、ないよ。」
その言葉を聞くと、彼女は目を細めてほんのり顔を赤くして笑った。
「…よかった。」
持ちこたえられなかった涙が一粒、頬を伝う。
それを見た瞬間、洸平の頭の中で何かが弾けた。
俺、この子を抱きしめたい。
洸平が声をかけると、女の子は顔を上げた。
「こうすけ…。」
と言って、嬉しそうに微笑む。
白地に紫の朝顔の柄の浴衣を着た彼女のその顔は、3年前よりもぐんと大人びていて、少しの色気のようなものを感じさせた。
大きな目は吸い込まれそうなほど力強く、こちらの動きも思考も止めてしまう。
どうしてこの子は、こんな瞳で見つめてくるんだろう。
洸平の心臓はさらに早くなり、体が熱くなる。
それにしても、また「こうすけ」と呼ばれた。俺の名前は「こうへい」なんだけどな。
しかし改めて自己紹介をするというのもためらわれて、洸平は気づかないふりをした。
「ここで…何してるの?」
そう言うと、女の子は横に置いていたスニーカーを洸平に差し出してきた。
「…えっ、これって…。」
見覚えのあるスニーカー。小学生の頃好きだったスポーツブランドのものだ。あの日このバス停で雨宿りをした時に、この子に貸してあげたスニーカー。
「これ…返さなきゃって。」
女の子は洸平を見上げた。
「…待ってた。」
不安そうな顔をしている。
洸平は雷に打たれたような衝撃を受けた。
待ってたって…?
もしかして毎年、ここで…?
「夏になると来るって…言ってたから。」
そうだ。
確か前に、そんな話をした。
まさかそれを覚えててくれて、毎年、来るかもわからない俺を待っててくれたんだろうか。
胸がきゅっと締めつけられる。
そして、洸平はものすごく申し訳ない気持ちになった。
せめて自分の連絡先くらい教えておけばよかった。そしたらこの子は、毎年ここで待つ必要なんてなかったのに。
「…傘は…壊れちゃって…。」
女の子は言いにくそうに下を向いた。
「傘…?…あぁ。」
このバス停にあった傘のことか。
「大丈夫だよ。あんなビニール傘、どこにでも売ってるし。きっと持ち主だって忘れたんじゃなくて、置いていったんだと思うよ。」
洸平が優しく言うと、女の子は顔を上げた。
「…本当?」
「うん。大丈夫だよ。」
洸平は女の子の手からスニーカーを受け取った。
あの日、雨で泥々に汚れてしまったはずなのに、とてもキレイだ。洗濯してくれたのだろうか。
しかしもうこのスニーカーを履くことはない。趣味も変わってしまったし、そもそもサイズが小さすぎる。
それでもこの子が3年間も大事に持っていてくれたものだと思うと、まるで宝物をもらったようで、少し嬉しい。
「返すの…遅くなってごめんなさい。」
女の子が言った。
「そんなことないよ。俺こそごめんね。ずっと来れなくて。」
「…怒ってない?」
少し潤んだ瞳が、洸平を見つめる。
あ、ヤバいかも。
洸平は、体の中から湧き上がってくるものを感じて焦った。
「…怒ってなんか。」
そう言いながらスニーカーを足元に置くと、女の子の横に座った。
「怒ってなんか、ないよ。」
その言葉を聞くと、彼女は目を細めてほんのり顔を赤くして笑った。
「…よかった。」
持ちこたえられなかった涙が一粒、頬を伝う。
それを見た瞬間、洸平の頭の中で何かが弾けた。
俺、この子を抱きしめたい。