真夏の夜の夢子ちゃん
蛍が集まるという川には何人かの人がいた。
ぼうっと光っては消える大量の光はまあまあ綺麗だったが、あの光の一つ一つが虫だと思うとその数に身の毛がよだつ。

「綺麗ねぇ」と言いながらうっとりした顔で蛍を眺める母親の傍を離れ、洸平はつまらなそうにウロウロと歩いた。

街灯がないわけではないが、辺りは暗い。ふわふわと動き回る蛍の光に誘われるようについて行くと、川べりに座り込んでいる女の子の後ろ姿が見えた。

長い黒髪が背中の真ん中くらいまであり、白い浴衣のような物を着ている。小刻みに肩が震えているような気がしたので近づいてみると、どうやら泣いているようだ。

「…どうしたの?」
おそるおそる洸平が声を掛けると、女の子はゆっくり振り返った。

振り返った顔がのっぺらぼうだったらどうしよう、などという怖い想像をしたがそのようなことはなく、女の子は大きな目に涙を溜めながら洸平を見つめた。
同い年くらいだろうか。

透き通るくらいに白い肌。
黒目がちで大きな瞳。
ピンク色のぷくっとした唇。

洸平はその愛らしい顔に一瞬で釘付けになった。
すると女の子は立ち上がり「こうすけ…?」と首を傾げた。

暗いし誰かと間違っているのかと思ったが、洸平は訂正するでもなくもう一度「どうしたの?」と尋ねた。

「これ…」と言いながら差し出してきた女の子の両手の中には、蛍が一匹潰れている。
< 2 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop