真夏の夜の夢子ちゃん
少し待つと、雨の勢いが弱まってきた。洸平と女の子は、バス停を出て歩き始めた。

ビニール傘は思いの外小さくて、体を寄せ合わないと入れないくらいだった。
時々、腕が彼女の肩にぶつかって、そのたびに心臓が早くなる。

洸平は左手に女の子の下駄を持ち、右手で持った傘はできるだけ彼女の方に傾けた。そのせいで、洸平の左半身はぐっしょりと濡れてしまっていたが、そんなことは気にならない。

「靴、大きかったね。歩きにくい?」
洸平が尋ねると、女の子は「少し」とうつむいたまま答えた。
「でも…ありがとう。」
小さな声でそう言って、ふふっと笑う。

洸平の体が熱くなる。

この時間がずっと続いてほしいような、でも恥ずかしいから早く終わってほしいような、そんな気分。

そうやってどれくらい歩いたのだろうか。後ろを振り返ると、もうバス停は見えなくなっていた。
両側に木が生い茂る山道には街灯も少なくて、段々心細くなってくる。

雨は小降りになってきていた。

「家まであとどのくらい?まだ遠い?」
一人で帰るのちょっと怖いかもと思っていると、ピリリリと電子音が鳴り響いた。

洸平のスマホだ。

ごめん、と女の子に傘を預けるとズボンのポケットからスマホを取り出した。画面には「母さん」の文字。

「もしもし?」
「あ、洸平。今どこ?すごい雨だったけど迎えに行こうか?」
「いや…大丈夫。もうすぐ帰るから。」

母親の声を聞いて、洸平は少しホッとする。
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