大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


「あれからなにがあったのか、拓斗の口から聞きたい」
「え? 家族からなにも聞いていないのか?」

瞬の真剣な様子に、拓斗も戸惑いを隠せない。
まず身内に確認するべきだろうに、あえて瞬は拓斗を呼び出したのだ。

「もう、誰も信用できない。拓斗、教えてくれ。どうして詩織はここにいないんだ?」

絶望的ですらある瞬の声に拓斗も同情はしたが、迷いもあった。

「それは……」

まさか詩織の姉の彩絵が瞬の恋人で、婚約者だとされているとは拓斗の口からは言い難かった。
この数カ月、拓斗でさえ真実が見えなくなっていたのだ。

「色々複雑すぎて、なんて言えばいいのか……」
「拓斗、頼む!」

身体を動かすのも辛そうな瞬が、身を折るようにして拓斗に頭を下げてくる。

「よせ、瞬! 身体に障る」

拓斗は覚悟を決めて、瞬の事故の日から今日までなにが起こったかを話し始めた。
なるべく感情を挟まないように、言葉を選びながらゆっくりと伝えた。

「あの日、僕と詩織さんは事故を知って大慌てでここに来たんだ」

大手術中だった瞬が心配で、詩織と眠れぬ一夜を過ごしたこと。
翌朝、いきなり彩絵が呼ばれてきたこと。
それからは、義母や秘書のガードが固くて様子もわからないし会えなかったこと。

「まさかそんなことになっていたなんて……」




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