大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
瞬の額に、痛みのせいなのか苦しみのためなのか縦皺が寄る。
「どうしてこんなことに!」
「瞬、仕方ないよ。大ケガだったから生きているのが奇跡だよ」
「拓斗……それで、詩織は?」
今度こそ、拓斗は黙り込んだ。
「拓斗?」
「瞬、落ち着いて聞いてくれ」
「どうした?」
拓斗の表情にただならないものを感じたのか、瞬も口を閉じる。
「詩織ちゃんは、あの後、どこかへいってしまった」
「え?」
なんの冗談だと思ったのか、呆れ顔の瞬に向かって拓斗は話を続ける。
「色々心配だったから、何度も連絡したんだ。でも『大丈夫』っていつも言うからそっとしておこうと思って……」
しだいに、瞬も真顔になってきた。拓斗が冗談を言っているのではないとわかってきたのだ。
「……それで?」
「気がついたら家も引き払ってて、連絡しても電話番号が変わってるらしくて繋がらなくて、仕事もやめて……もう何か月も行方がわからない」
最後のほうは、拓斗も振り絞るような声だった。
瞬は拓斗の話が終わると、すぐさま動いてベッドから出ようとした。
「あっ! よせ、瞬! 傷が開く!」
「行かせてくれ、探しに行かないと! 詩織!」
病室には瞬の悲痛な声だけが響いた。