大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


院長のそばに立っての男性に挨拶をすると、驚いた表情を見せた。

「近藤さん……あなたが詩織さんですか」
「はい」

じっと詩織の顔を見ながら、もう一度確認するようにその男性は呟いた。

「東京の病院に勤めている後輩からの紹介状を持ってこられたんだ」
「え?」

めったにないことだから、詩織は驚いた。
こちらから都会の病院に患者を紹介することはあっても、東京からの患者は珍しい。
転勤でこの町に来ることになったのかと思ったが、男性の身なりは洗練されている。
わざわざこの病院を選んだ理由がわからなかった。

「昨日、初めて受診されたんだが自宅でのリハビリを希望されたんだ」
「自宅に伺ってのリハビリですか?」

この男性なら、まだ若いから病院に通ってもらた方がよさそうな気がする。

「自費診療になってもかまわないそうだから、近藤君がいいだろうと思ってね」
「私ですか?」
「患者の希望なんだ。頼んだよ」
「は、はい。わかりました」

患者の希望と言われても、目の前にいるのは知らない男性だ。
急な話に戸惑いながらも詩織は受け入れるしかない。
院長が部屋を出ていってから、詩織はあらためて男性の顔を見た。
真面目そうで硬い印象受けるが、どこかで見かけたような気もする。
健康そうだし、リハビリテーションが必要とは思えない。



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