大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした


***


この胸に溢れる気持ちをなんて言えばいいのだろう。

詩織を探し続けてきたが、どうしても見つからなかった。
もう彩絵や彼女の行動を後押ししていた近藤家の人たちとは関わりたくなくて、自分の力だけで詩織を探した。
高木麻耶がきっかけで、九州にいることがわかった。
あちこち病院を訪ね歩いてようやく見つかったが、いざとなると不安しかない。

あれから、もうかなり時間が経っているのだ。
詩織に新しい恋人がいるんじゃないかと思ったし、この傷だらけの身体や顔を見てどんな態度を見せるのか心配だった。
なにしろ婚約者のフリをしていた彩絵は、この顔を見て酷く怯えて引きつった顔をみせたのだ。

だが、詩織はなにも変わってはいなかった。

それに彼女が別荘に連れてきた、自分によく似た元気な男の子。
「コンニチワ!」と挨拶してきた時のキラキラと澄んだ瞳には見覚えがあった。
いつだったか、詩織と初めて会った日に見た彼女の瞳と同じだ。

(ああ、俺の子だ)

愛しいとか、可愛いとか、そんな言葉で埋められない胸に湧き上がる気持ちはなんだろう。
離れていた時間が悔しいが、それ以上にわが子が産まれていた喜びが勝っている。

(詩織……)

愛している。

もう二度と離れたくないし、君も息子も手離せない。

愛している。






< 113 / 118 >

この作品をシェア

pagetop