大好きな人とお別れしたのは、冬の朝でした
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別荘には東京の瞬の家ほどではないが、トレーニングルームがあった。
詩織は瞬の状態を確認しながら、三十分ほど軽くリハビリを行った。
高橋が作成した計画表を基に、今後は町の病院の医師とも相談しながらリハビリを進めることになるだろう。
今の瞬は関節が動かしにくいようだが、元々筋力も体力もあるから回復する余地はある。
「きっとすぐにスムーズに歩けるわ。運転だって普通に出来るようになると思う」
「詩織、ありがとう」
リハビリが終わる頃、佐久間がトレーニングルームに顔をのぞかせた。
翔琉と庭で遊んでいたのか、少し髪が乱れて息が弾んでいる。
「詩織さんと翔琉くん、今日はここにお泊りになりますか?」
「え?」
「わあい、お泊り! お泊り~」
翔琉は意味がわかっているのかいないのか、『お泊り』という言葉を繰り返し口にしている。
「ありがとうございます。でも、準備がなにも」
「まだまだリハビリは先が長そうだ。いっそここに住まないか?」
簡単なことのように瞬が言いだした。
気持ちが落ち着いたのか、以前のままの強引な瞬が顔を見せ始めたようだ。
「そんな、急に」
詩織は頬が赤くなってきて困ったのだが、翔琉は大はしゃぎだ。
ここに住むという意味はわかっていなくても、この広い家や庭は気に入っているのだろう。
「翔琉、ここには温泉があるんだ」
瞬は翔琉の気を引きたいらしい。
「温泉?」
「広くて温か~い、お風呂だ。お前なら泳げるぞ」
また翔琉が飛び跳ねるようにして喜んでいる。
「いやだ、へんなこと教えないでください」
「男同士、裸の付き合いをしてこの傷にも慣れてもらいたいからな」